HOT☆SHOT
第二話 eXtreme☆Shot! Stage3
3
シノン城内部の大広間には聖職者、騎士、大臣など三〇〇人程の人間が集まっていた。
その中をシャルル王太子に扮したマキシム・ポンポニャックことマキポンが堂々と歩いて行く。
その後に虎康と本物のシャルル王太子が続く。
虎康はミリタリー姿でなく鎧を着ていた。来る途中、どこかで手に入れたものと思われる。
シャルル王太子(本物。やっと起きた)は、なぜか宮廷道化師の格好をしていた。しかも、この時代を反映したものでなく、時代考証無視のカオスメイクを施されていた。お白いが塗られた彼の右頬には『まあや』という文字。左頬には『クロエ』という文字が描かれていた。
そんな彼らの姿を見た取り巻きの者たちは皆、驚いていた。
しかし、変わり果てたその姿が主であることが判明すると、ほっと胸を撫で下ろし、
「なんというお戯れをなされているのです。王太子さま。なぜ、そのような格好を?」
聖職者の格好をした男の一人が虎康に言った。
「うん?」
「何を言うておる? 戯れておるのはお主の方じゃ! 王太子は余じゃ」
宮廷道化師姿をした本物のシャルル王太子が、聖職者の男に向かって偉そうに捲し立てていた。
「てめぇは黙ってな! ピエロ!」
聖職者はそう言って、本物の鼻頭にでこぴんする。
「イタタ。こやつ何という無礼な! 許さん!」
「まぁまぁ、待ちなさいよ。王太子さんよ」虎康はなだめるように、ピエロ姿のシャルル王太子の耳元でささやいた。
「ほら言ったとおりだろ? 変装は完璧。これでこれから訪ねてくるジャンヌが本物かどうか試せるってわけだ」
「むむ。そうじゃな。そちの言うとおりじゃ。仕方ない。こやつの無礼は一〇段階格下げと土地没収で許してやろう。じゃが、やはりおかしいのではないか? 変装が完璧であれば、あっちの変装した王太子に行くのではないか?」
「ちげぇよ。よ〜っく、考えてごらんなさいよ。実はここにいるみ〜んな、お前に気を使っているのよ。あっちの偽王太子は明らかに偽物だってわかる。なんたって、あっちの方が格好いいからな。で、実はお前が本物であることもわかっているんだけど、それをそのまま、お前に『本物はあなたですね』なんて言ったらどうなる? み〜んな、この変装がお前のアイディアだと知っているんだよ。だけどそれを簡単に見破ったら、お前が傷つくかもしれない。だから、わざとお前の隣にいる俺さまに語りかけて、さりげな〜く『実はわかっていますよ。王太子さま』とアピールしているんだよ。それくらい察してやれ。あと、このアイディアを出したのは俺な。歴史本からパクったんだ」
「まったくもって、そちの言うとおりじゃ。そちは頼りになる。まことアッパレな平民じゃ」
「だから俺は平民じゃねえっつうの。もうすぐ来るだろうから、ほら並ぶぞ」
暖炉の炎が薄暗い大広間を照らしていた。
大広間の奥、暖炉のそばにシャルル王太子に変装していたマキポンは立っていた。その両隣にアーミールックのクロエと麻亜耶の姿があった。
麻亜耶は早速、カメラを構え動画を撮り始めていた。
中央の三人を囲むように、全員が参列していた。
その中をさっき出会ったばかりの少女、ジャネットが一人、ゆっくりとマキポンの方へと近づいてきていた。
(不思議だな。さっき出会ったばかりの少女とはとても思えない。ま、当然といえば当然か)
虎康は数時間前に出会った少女の姿を目の前を歩く男装をした少女に重ねていた。
今、目の前を歩いている彼女の髪は短くなっていた。背もある程度伸び、顔立ちも凛々しくなっている。
(だいたい一年半ぶりか。大人っぽくなったよな。たしか、今はもうジャネットとは呼ばれていないんだよな)
そのジャネットが虎康の前で立ち止まると、
「お久しぶりです」
と微笑んだ。
「おお、おお? のうそちよ、今のを見たか? あの娘は余を見て微笑んだぞ」
「うっせえよ。おめえは黙ってな」
シャルルを一瞥してから、虎康は手を掲げ、初めて会った時にもらったロザリオを目の前の少女に見せた。
ジャネットも虎康が持っている全く同じロザリオを掲げていた。
『ちょっと、あんたたちずいぶん、仲良さそうじゃない? あたしの見てないところで変なことしてたんじゃないでしょうね?』
『あらまあ? わたくしあのロザリオは、どこかで見かけた気がしますわ。どこだったでしょうか?』
麻亜耶とクロエだった。ヘッドセットを通して、二人同時に飛び出た発言が虎康の脳内を飛び交う。
虎康は頭を振って、
「ジャンヌ」
「はい、あの私の話を聞いてくださいますか?」
ジャンヌが虎康にそう言うやいなや、臣下の者が「おお! 本物を見破るとはあの娘、本当に神の使いやもしれん」などと言い、周囲が騒がしくなる。
「あん? お前ら何を言っておるんじゃ? 王太子は余であろうが」
「ば〜か。何度も言わせんな。気ィ使ってんだよ」
「じゃが、この娘まで余ではなく、そちに話しかけておるではないか!」
「だから、おめえは馬鹿なんだよ。いいか、この子も気ィ使ってんだよ。よくよく考えてみればすげぇことなんだぞ、コレ」
「何がじゃ? 学の無い農民の娘のどこが凄いのじゃ? あァ? 言ってみろ、このやろう!」
「いいか、お前より教養ある、その農民の麗しき乙女がだよ。ここに来て一瞬にしてお前の家来と同じように接してきたんだぞ? 普通できるか? できねえよそんなこと。俺様の隣に立っているお前に気を使ったということ以外に答えはあるのだろうか? いいや無い」
「ふむう、まったくもってそちの言うとおりじゃ。やっぱりそちは頼りになるのお」
「だろ? だから黙ってな、クズ」
『それでは旦那さま。お話を聞きましょう』
「お、そうだな。現場ではクロエの指示に従わないといけなかったな。ジャンヌ、話を聞かせてくれる?」
「はい、ですが皆に聞かれたくないので、他の方はご退場願いたいのですが」
虎康は頷いて、叫んだ。
「俺はこれからジャンヌと話をするから、出ていってくれ! あと、飲み物と食い物、持ってこい。以上!」
「おお、なんか知らんがいつもより王太子が立派に見えますぞ。ちょいワル王子だ。かしこまりました」
三〇〇人ほどいた大広間はしんと静まりかえっていた。
今、がらんとしたこの場所に立っているのは、ジャンヌ、虎康、クロエ、麻亜耶、マキポン、シャルル王太子の五人だけだ。
ジャンヌには旅の仲間であると説明していた。一応、ピエロがシャルル王太子であることも申告済みではある。
「それじゃあ、話を聞こうか」
ジャンヌは虎康に「はい」と頷いて話を始めた。
「私は神の御意志に従い、ここに参りました――」
話の内容は、本やネットで見られる内容と同じだった。
オルレアン解放し、シャルル王太子をランスに連れて行き正式な王にすること。
『ここまでは史実通りですわね。あともう一つお話があるはずですわ』
『それって、何の話なの?』
クロエと麻亜耶の声だ。
『実際に何が話されたのかは誰も存じておりませんの。後の処刑裁判でもこのお話の内容については、証言を拒みつづけたそうですわ』
『ええっ? 処刑って本当に処刑されちゃうの、この子?』
『左様でございます……』