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『凪咲、麻亜耶のこと見直しましたぁ。だって、そこまでして勝ちたいなんて、マキポンのことそこまで好きなんですねえ』
「ち、違うわよ! あたしが好きなのは……」
『好きなのはあ?』
「あぐぅ、どうでもいいでしょ! とにかく勝たないといけないんだから」
『凪咲はですねぇ、先輩のことがだぁい好きでぇす!』
「ぶっ!」虎康だった。
「はあ? 突然、なに言ってんの!」
『だからぁ、凪咲のおっぱいは先輩のものなんでぇす。それまで、誰にも触らせたくありませぇん。ファーストキスもでぇす。絶対に!』
 どぴゅー!
 虎康の鼻から鮮血が噴出している。
 麻亜耶は身を強ばらせていた。
「……」
『どうしたのですかあ? 好きなんでしょう?』
「あ、あたしが好……好き……」
『好きなのはぁ?』
「好きなのは――っ!」

 マキシムと目がばっちり合った。

「フォンダンショコラ」
『……はい?』
「あたしが大好きなのはフォンダンショコラ。で、おいコラ」
『ちょっとぉ?』
 麻亜耶はヘッドセットを静かに地面に置いた。
「マキポン、お前いつから目覚めてた?」
「え? 今、起きたんだよ。麻亜耶。君の柔らかな膝の感触が、僕の暗く眠りを清々しい目覚めへと誘ったんだ。麻亜耶、人格変わってるよ?」
「その割には瞳孔が定まってないな。どこ見てモノ言ってんだ?」
「迷彩ブラ。かな?」
 麻亜耶は、さっき自分で捲り上げたタンクトップを静かに元に戻し、
「正直でよろしい。一応、ケジメつけないとさ。みんなが見てる手前、あたしも引き下がれないんだよね? わかるかな?」
「怖いぐらいわかるよ。なんか、君に出会ってから全てが新しく見えるよ。こんな子はどこ探したっていないってね」
 虎康は腕を組んで深く頷いていた。
「そう。それは良かったわね。歯。食いしばりなさい」
「はい」
「エクストリーム」
 ズギュっ!
 麻亜耶の重い口調とは裏腹に、豪快な音がマキシムの顔面から発せられていた。
「ふん、土でも舐めてなさい」
 麻亜耶は立ち上がると、ヘッドセットを再び耳に装着した。
『なぁんだ。つまんないのお。もう少しでおっぱい揉み揉みされるメス亡霊のアヘ顔、見れると思ったんですけどねぇ?』
「ありがとう、凪咲」
『と、突然、なぁにを言い出すんですかあ? 凪咲はですねえ、勝負大好きですけどぉ。凪咲自身も大好きですからぁ、大好きな人だけに大好きな自分をあげたいんでえっす。だからぁ、あなたなんかに先輩は渡さないんですからねぇ』
「うん。あたしもフォンダンショコラ大好きなくらい、凪咲のこと大好き」
『――!』
「凪咲……?」
『ふぅんだ。凪咲、これから買い出しに行かないといけないの思い出しましたあ。山咲さんに頼まれていたの忘れてましたぁ!』
『え? 凪咲ちゃん、俺、何も頼んでないよ?』
『(げしっ!)』
『あう!』
『おい、山咲』
『うぐぅ、小絵か? 腹痛い』
『ん? お前もか? 凪咲に何か変な物でも食べさせたのか? 凪咲のやつ、泣きながら嬉しそうな顔をして部屋を出て行ったぞ』
『それは違うと思う』

「凪咲……ふふ」
 麻亜耶の目からポロポロと大粒の涙が溢れ出ていた。嬉しくて嬉しくて仕方が無い。そんな涙だ。
 虎康がマキポンを立ち上がらせている中、クロエが麻亜耶のそばに駆け寄り、何か二言三言ささやき合いお互い抱きしめ合っていた。
 虎康もマキポンもヘッドセットを通して彼女たちのやり取りを聞いていた。
「虎康。君たちのチームって、凄くいいね」
「ああ、そうだな。だけどな、これも。マキポンやクロエたちとの出会いがあったからだと思う」
「虎康……」
「だが勝負は別だ。凪咲も麻亜耶もあげないぞ。クロエは戴くけどな」
「それはこっちのセリフだよ。どっちがより優れた写真を撮るか、勝負だ」
「ああ、そうだな」
 虎康、マキポン、麻亜耶、クロエの四人が肩を並べ颯爽と歩き出す。

 そして――、
「よし! 行こうぜ!」

 俺たちの晴れ舞台へ!

『じゃねーっ!』
 速攻でストップが掛かった。
「あん? 何だよ恵介。てめぇのせいで、今のシーン台無しじゃんかよ」
『お前の頭は烏並みだな。お前らだけ行ってどうすんのよ? そこで倒れている王太子、どうするんでしたっけ?』
「恵介、タイムイズマネーって言葉知っているか?」
『なんだよ改まって。そんなこと誰でも知っているだろ?』
「なら話が早い。もうヤツはきっと起きないし、起こす時間も無い。お前にも見えているだろ? 麻亜耶が王太子に蹴りを入れている姿が、クロエの持つカメラによってリアルタイムで転送されているはずだ」
『もうちょっと。もうちょっと、頑張ってみようよ』
「その考えが甘いんだよ。もう少し頑張れば、起きるかも? っていう考えがな。いいか。起きるかどうか、その成功の鍵は誰でも手にすることができるもんじゃ無いんだよ。日頃の努力あってこそなんだよ。オリンピックを見てみろ。その日、その時に大成功を収めるために四年間だよ。四年間の努力があって初めて勝利を手にすることできるわけ。それに俺たちのオリンピックはさっき終わったの。わかる? 最後の競技種目、フルマラソンで麻亜耶と凪咲が一緒にゴールインしただろ? その時に終わったの。だから、次の四年間まであの男は起きないの」
『いや、もう何言ってるのか全くわからないし、わかりたくもない。お前の話を真剣に聞いていた俺の大事な時間を返して。現金で』
「ああ、いやだねぇ。現代人ってやつは。この時代の人を少しは見習いなさいよ。世の中、お金じゃないのよお金じゃ」
『あの王太子のマント、現代に持ち帰ればきっと、○○億円の価値があるぜ。あ、でもお前は金じゃないんだよな』
「――! 麻亜耶ああ――っ!」
 虎康は腕を大きく振りかぶって、麻亜耶に合図を送った。
 次の瞬間にはもう、麻亜耶を始めマキポンもクロエもハイエナの如く、倒れている男に群がっていた。

 しばらくして、
『おい……お前たち。お前たちはただの悪党だな』
 恵介の言葉に、四人はお互い顔を見合わせながら肩をすくめていた。
「何を言っているんだい恵介くん。さっきも言ったようにタイムイズマネーなわけだ。王太子がいない今、どうやってこのミッションをクリアするか? 僕らは必死に答えを探し求めたんだ。そして、これが我々が導きだした答えさ」
『追いはぎだね』
 クロエは動画撮影用のハンディ型カメラでマキポンを撮っていた。
「どっからどう見ても、これはもう立派なシャルル王太子だよ」
『全然、似てない』
「陛下、行きますぞ」
『ここ日本じゃないし、陛下はおかしい』
「おら、早く来なさいよ。王様のくせして、ちんたら歩いてんじゃないわよ」
『あなた、どんだけ上から目線ですか?』
「さあ参りましょう。早くわたくしを運んで行ってくださいまし」
『なにお姫さま抱っこされているの? 自分で歩きなさい』
「よし。シャルル王太子もゲットしたし、みんな行こうぜ!」

『……小絵、早くこいつら現代に呼び戻した方がいいって。もうね、制御不能』
『山咲、あいつらとマトモにやり合うこと自体、我々人類にとって大きな損失だ。適当に受け流せ』
 この後、二人は同時にため息をついていた。

作品名:HOT☆SHOT 作家名:櫛名 剛