HOT☆SHOT
「ジャンヌが実際に行動をおこすのは翌年の一四二八年ですから、今日、彼女が聞いた声は予言ともいえまして、非常に興味深いですわ」
「じゃあ、次はその一四二八年に行くのね」
麻亜耶が腕を組みながら確認する。
「いいえ、次は一四二九年ですわ。場所はシノン城。王太子シャルルとジャンヌが初めて謁見するシーンをカメラに収めますのよ」
『今回のミッションは全てフランスに一任しているから麻亜耶と虎康の二人は、クロエの指示に従え』
そう言って、小絵はモニターから外れると今度は山咲恵介の姿。ちなみに、フランスチームの二人とモニター三人衆はすでに自己紹介を済ませている。
『虎康と麻亜耶っちには、ヘッドセットを送っておいたので次のミッションで使うといいよ。ちなみに、そのヘッドセットは俺たちとも通信できるからね』
「そうなのか、わかった」
『そうなのでぇっす! これでミッション中も先輩と凪咲はぁ、常に繋がっているわけでぇっす。合体♪』
山咲を画面の端へとムギュムギュ押しやりながら、凪咲が笑顔を振りまいていた。
「はぁン? 合体ってそこにいたら出来るわけ無いじゃない。なに言ってんの」
『乳が残念なメス亡霊は黙ってなさぁい』
「な、な、何よ! 乳は関係ないでしょーが!」
「そうそう、乳は関係ないよ。麻亜耶はこの田園に咲き誇っているどんな花よりも可憐で、優雅に舞っているどんな蝶よりも美しく羽ばたいている」
マキシムが両手を大きく広げ、ここぞとばかりにアピール。
しかし、彼女の返事は――、
「はあ? あんた何言ってんの。花なんて、どこにも咲いてないし、蝉の間違いじゃないの」
「まあ、確かに蝉、うるさいね」
虎康が半目で呟いていた。
麻亜耶は気分屋だ。ご機嫌ナナメの時にそんな事を言っても何の効果もない。と言いつつも、マキシムは「そんな事はない」と色んな言葉を並べて麻亜耶を説得していた。
(マキポン。まだこいつのこと、よくわかっていないようだな)
その時だった。
「うふふ。この様子ですと、今回の勝負。わたくしたちの大勝利に終わりそうですわね。ねぇ、旦那さま」
クロエが、ムニュムニュっと虎康の胸にしがみつくように身体を押し付けていた。
おい! なぜ、そのタイミングで燃料を投下した!?
辺りが一瞬にして、凍りついているのがわかった。
『は? 勝負? おい虎! お前、今度は一体、何をやらかした?』
小絵の第一声。
『クロエちゃん。旦那さまってどういうことですかあ?』
『うほほー! ブログネタが!』最後は恵介だ。ブログって。何の公開処刑だこの野郎! 極秘プロジェクトそっちのけで、これから起こることを全てネットに垂れ流すつもりだこいつ。
「えっと、これはですね――」
特に小絵と凪咲の二人を刺激しないように、虎康は慎重に言葉を選んで説明した。
で、モニターの向こうから出てきた発言はこうだ。
『そんなの許しませぇん! 勝っても負けても先輩は幸せになりません。メス亡霊もクロエちゃんも本当に先輩のこと、大切に想っているのですかぁ?』
「おお……凪咲」
『凪咲、それは二人に少し言い過ぎではないのか……』
いつになく凪咲は真剣だった。ほんの少しだけ口調も早くなっていた。誠意を込めて説明した甲斐があったというものだ。
『小絵姉さま、ごめんなさい。でも、凪咲は許せないのです。だから凪咲はここに宣言します!』
「な、何だ?」
虎康はゴクリと唾を呑み込んだ。皆も同じように凪咲を見守っていた。
『引き分けの場合は、凪咲が先輩と合体します! 物理的な意味で!』
冷たくなっていた肌の感覚と一緒に蝉の声が、虎康の耳に戻っていた。暑い!
「ちょっと待て! 引き分けといったら普通、何も無しでしょ?」
まさか、そうくるとは思ってもいなかった。
――引き分け――。
虎康は焦りを感じていた。
これは虎康が必死に考えた末に導き出したこの勝負を幸せに終わらせるための唯一無二の秘策。
それが「引き分け」だった。引き分けに持ち込めば、全て丸く収まるはずだった。
その抜け穴を瞬時に見つけ、容赦なくそこを攻めてくるとは。
やはり、こやつできる!
「って、どうすりゃいいんだー!」
『違いますよぉ、せ〜んぱい。引き分けになったら今までと一緒なんですよお。だけど、それから先は更に先輩と凪咲の関係が深まってぇ、恋愛パラメータとかぁ、勇者さまパラメータとかぁ、凪咲の体が見たくなっちゃうぞパラメータとかぁ、見せてあげますよ〜パラメータとかぁ、あらゆるパラメータが極限まで伸びるということですよう。エクストリーム♪』
いや、もうあなたの妄想がエクストリームでしょうが。
「凪咲も参加するのですね。ふふ、楽しくなりそうですわ。陰ながら応援させて頂きますわ。エクストリームで♪」
「あなたも参加してますよ? クロエさん」
「それはそれ、ですのよ」
「わけわかんねえよ!」
『……』
モニター越しに小絵が凪咲、麻亜耶、クロエの顔を神妙な面持ちで見比べていた。
「ん? どうした小絵?」
『いや、その……』もじもじしている。『私も参加して……』
「え?」
『ああ、いや何でもない! なな、な何でもない!』
小絵は顔を赤らめながら咳払いをして、
『小絵、いいか?』
と恵介。
『あ、ああ……』
『んじゃ一応、さっきので話は終わりだ。みんな早速、車に乗り込んでくれ。出発するぞ』
チロリあは〜ん号は次の時代へと向かっていた。
虎康の隣には星色麻亜耶が座席の上で脚を崩して窓の外を眺めていた。しかし、時代を移動している車の窓はシャッターが降りており、何も映っていない。言い換えると、麻亜耶は壁を見つめていた。
虎康も麻亜耶の顔を避けるようにして、壁を見つめていた。
「ちょっと、黙っていないで何か話しなさいよ……」
「そんなこと言われてもな。じゃあ、次のミッションの作戦でも考えようか。チーム違うけど」
「そんなの聞きたくないし、興味ない」
「はあ? じゃあ、お菓子の話でもするか。未来には、ああいったお菓子無かったんだろ?」
「それも今は聞きたくない」
「……麻亜耶のその服、似合ってるぞ。うん。小絵と凪咲からたくさん、雑誌送ってもらってるんだろ――」
「ありがと。でも服の話も今はいい」
「じゃあ、何を話せばいいんだよ」
「それくらい考えなさいよ。それとも、またあたしから言わせる気? この、ニブチン」
虎康と麻亜耶はお互いに振り向いて、ほんの少しだけ目を合わせ、すぐにまた視線を逸らす。
――わかってるよ、それくらい。
「俺は勝ちたいと思っている。麻亜耶はどうだ?」
「――なっ! 勝ちたいって! 本気でそんなこと言ってるの? 虎康はあ、あた……」
「勝ちたいのは写真だ。マキポンは、少しチャラけているけど、俺、あいつの写真観たことあるんだ。何ていうか、あいつが撮った写真って、迫力があってすげえんだよ」
「あたぁ――あ、ああ写、写真ね……勝ちたいのは写真なんだよね」
虎康は麻亜耶の両肩をガッと掴む。麻亜耶が「きゃっ」と小声で驚いていた。
「そうだよ! 絶対、あいつより凄いやつ撮ってみせる。見てろよ、麻亜耶!」
楽しそうに話す虎康に麻亜耶は微笑んで、