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 そんな彼女の様子を見て虎康は微笑み、黙って話を聞いていた。
 だが、彼の目は警戒心丸出しだった。視線を麻亜耶に縫いつけていた。
 さっきまで、あんなに不愉快そうにしていたくせに、今はもう楽しそうだ。
 虎康から見て左からクロエ、麻亜耶、マキシムの順に三人は並んでいた。
 クロエがマキシムに何かを指示していた。すると、マキシムはポケットからインスタントカメラを取り出し、虎康に見せつけ、きびきびと身体を動かし始めた。
(ん? あれはもしかするとジェスチャーか。何かメッセージを伝えたいようだな。よし)
 虎康は目で合図を送った。すると、マキシムが怪しいポーズを次々と繰り出していく。
(ええ、なになに。『今から、このインスタントカメラを投げるよ。こいつを使ってその子を正面から撮ってね。V.S.麻亜耶ってきっと、ガチでドSだよね』)
 知らねえよ! それにPSだろVSってなんだよ。何と対決するんだよ!
 案の定、マキシムは麻亜耶から回し蹴りを喰らっていた。横っ腹に炸裂。マキシムは思わず膝をついていた。
 そして、更にもう一発。
「いっけええええ!」
 げしっ!
 マキシムの右手にあったインスタントカメラに麻亜耶の蹴りがクリーンヒット!
 瞬きする間もなくインスタントカメラが虎康の顔に、めり込んでいた。
「……おぃい」
 虎康は顔面にめり込んだカメラに手を伸ばし、すぽっと引き離した。回復した視界に、親指、人差し指、小指を立ててポーズを決めながら麻亜耶がドヤ顔で映っていた。
「何ですか、それは?」
 目の前の少女が指を差していた。
「あ、これ? ちょっと、そこでじっとしていてね」
「はい」
 虎康はファインダーを覗いた。
 少女の背後で妙に浮かれた三人の姿が映っていた。
(何やってんだ、あいつら。あの変なポーズは何かのアピールか?)
 ふぅ、とため息をつきながら虎康はファインダーから目を離すと、少女の隣に並び、カメラを自分に向けた。
「一緒に撮るよ」
「?」初めて聞く言葉に、少女は首を傾げていた。
 パシャ!
(よし、これであいつらの姿は写っていないだろう。俺とジャネットのツーショットだ! なんか、さりげなく凄いことやってるよな俺。歴史上の人物とツーショットなんて。なんだかもう、こうなったらとことん、撮ってやるぞ)
 虎康は感激のあまり興奮していた。
「お、出てきた出てきた」
 写真を手に取って、
「ほら、見てごらん」
 少女が覗き込むと、
「うわあ! 何ですかこれ?」
「ん? ――って!」
 写真には、少女と虎康の顔が写っていた。虎康は自分達に向けて撮ったのだから、それは当然だ。
 しかし、写真に収められた顔は五つあった。変顔全開のクロエ、麻亜耶、マキポンの三人だ。
「これはミカエル様!」
「ちがう!」
「ああ、それに聖マルガリタ様に、聖カタリナ様まで」
(どう見てもプリクラで変顔ピースとかしている学生だよ)
 だが虎康は敢えて突っ込まないでいた。
 目を輝かせながらじっと写真を見つめる女の子。日常に見られる笑顔が素敵な女の子。
 そんな姿を見ていると、これから彼女に起こることがとても信じられなくなる。いっそ、このまま普通の子として一生を過ごすことができればいいのに。
「どうしたのですか? なにか悲しいのですか?」
 いつの間にか、そんな顔をして彼女を見つめていたらしい。
「ん、ちょっと考え事をしてた。そうだ。よかったらその写真、君にあげるよ」
「え? これを私にですか?」
 ああ、と頷く。
「ありがとうございます。あの……」
「うん?」
「……その、ついでというわけでは無いのですが……えっと、私と友達になってくれませんか?」
 本当にこの子が、この国を救うのか?
 本で読んだイメージとは違いすぎる。だけど、よくよく考えてみれば、そんな事は当たり前なのかもしれない。
 その人の性格や話し方、何が好きなのかなんて、本に詳しく載っているわけではない。目の前の女の子が本当はどんな子なのかなんて、誰も知る由も無い。結局のところ、歴史研究家や本を読んだ人間の勝手な想像に過ぎないのだ。
 星色麻亜耶と出会った時と同じなんだ。目の前の現実を受け止めよう。
 虎康は手を差し伸べた。
「俺は織部虎康って言うんだ。虎康ってみんな呼んでるよ」
「とらやす、ですか? わかりました。私はジャネットと言います。姓は……その、ありません」
「そっか」これは本やネットで転がっている情報通りだ。虎康は心の中で頷いてから、「よろしくな、ジャネット」
 二人はぎゅっと、手を握り合っていた。
「さてと、友達になったばかりで悪いんだけど、そろそろ行かないといけないんだ」
「そういえば、旅の途中なのですよね」
「そういうこと。仲間たちも待っていると思うから合流しないとね。でも、ジャネットとは友達になったんだ。これはもう変わらないし、きっとまた、どこかで会えそうな気がする」
「そうですね」
 ジャネットは少し寂しそうな顔をしていたが、すぐに元の笑顔に戻ると、がさごそとスカートのポケットに手を入れ何かを取り出した。
「それでは、これをどうぞ。大切な友達への贈り物です」
 彼女の手のひらにあったのはロザリオだった。虎康の時代で言えば、ロザリオブレスレットと呼ばれているものに近い。
「私とお揃いです。私の手作りなので世界でも二つしか無いのですよ。また会ったら見せ合いっこしましょうね」
「こうやってか」
 虎康はロザリオを手からぶら下げ、プラプラと十字架を揺らした。
「そうですね、こう」
 ジャネットも真似して同じ形の十字架を揺らす。
「ちょっと、いつまでイチャついてんのよ!」
「旦那さま。お時間でございますわ」
 ジャネットの背後から二人のイラついた声が虎康への方へと、飛び込んでくる。
「あら? また声が……」
「空耳だよ空耳。それじゃもう行くね」
「あ、はい。それではまた。お元気で」
「ああ、またな」
 ジャネットに見送られながら、虎康は別れを告げた。

 虎康以下、四人はチロリあは〜ん号の隣に設置したテーブルを囲むようにして座っていた。
 テーブルの上には、あのモニターが置かれていた。モニターは着脱も可能だった。
『お疲れ様でしたー、虎康くん。うふっ』
「……」
 虎康は口をぽかん、と開けモニターに釘付けになっていた。モニターの中で黒髪の女性が首を傾げながら、にっこりと微笑んでいた。
「……誰?」
『って言うわけ無いだろーが! クズ』
「うわ!」
 いつもの小絵に戻ってしまった。せっかくのときめいた時に感じるあのドキドキが一瞬にして、お化け屋敷に入った時のドキドキに変わってしまっていた。
『虎。きさま、ここでもやりたい放題だな。誰の許可を得てターゲットと接触した?』
「小絵、あれは事故だよ。事故」
『まあ、いい。これで歴史が変わるわけでも無さそうだしな』
 小絵は仕切り直すように、一呼吸置いて、
『一四二七年夏。フランス北東部、ロレーヌ地方、ムーズ川のほとりにある村、ドンレミ。これが現在、お前たちのいる時代と場所だ。メインターゲットは――』
「ジャンヌ・ダルク、ですのよ」
 クロエの言葉に、小絵が黙って頷く。ここから先はクロエが話を続ける。
作品名:HOT☆SHOT 作家名:櫛名 剛