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「なによ。いやなら、別に勝負しなくていいわよ。そうなったら、こうなるだけだから」
 ピトっ、と麻亜耶はマキシムの腕に絡みついた。
「むぐっ! わかった。受けて立とうじゃないか!」
「じゃ、決まり!」
 虎康は完全に麻亜耶のペースに引き込まれていた。麻亜耶は勝ち誇ったように満面の笑みを浮かべていた。
「うふふ。面白くなってきましたわね。だけど、わたくし一人だけ取り残されてしまったようで寂しいですわ。だから、わたくしも参加しますわ」
 と、クロエの爆弾発言。
「はい?」クロエ以外(もちろん村人たちも)の全員が彼女の顔を覗き込んでいた。
「参加ってどういうことよ?」
 麻亜耶は少し怪訝そうな顔をした。
「こういうことですの」
 ピト。
「は? あんた何くっついてんのよ。すぐに離れなさいよ」
 虎康の腕に絡まっているクロエに麻亜耶が突っかかる。
「今のあなたさまに、それを言う権利はございませんわ」
「どうしてよ?」
「あなたさまは織部さまの婚約者のように仰っておりますが、その実、あなたさまがそう仰っているだけ」
「……む」
「そして、あなたさまはマキポンと交際しても良いとおっしゃいました」
「まだ、そんな事は言っていない!」
「言ったも同然ですわ。でしたら、わたくしも織部さまとお付き合いしても構わないではありませんか」
 麻亜耶は恨めしそうに虎康を睨めつける。
 ――なんで俺?
 クロエは嬉しそうに話を続けた。
「チームは織部さまとわたくし。あなたさまとマキポンでよろしいですわね」
「どうして、そうなるのよ!」
「ということはあれだべさ」村人のうちの一人、ヨボヨボじいさんが足を震わせながら割って、解説を加える。
「乳のでかいセクシーおっとりシスター姉ちゃんのチームが勝てば、シスター姉ちゃんは晴れて、あの冴えないツンツン頭をゲットするということだべ」
「あらまあ、恥ずかしいですわ」
「冴えないは余計だ! じいさん」
「んで、シスターに比べると残念なマジカル乳ねえちゃんのチームが勝てば、ちょっとエロな焼き鳥ニヒル芸人とくっつくというわけだべさ」
「乳で識別するな!」
「ははっ、いやだな、おじいさん。僕は火の鳥のように恋に命を燃やす大天使だよ」
「それにちょっと待ってよ。それじゃ、あたしが勝っても……」
「勝っても? 麻亜耶と僕のチームが勝ったら、麻亜耶は僕と付き合うんだよね?」
「うっ……」
「勝っても……何でございましょうか?」
 マキシムに続いてクロエも問う。
「ぐ……、虎康はどうなのよ?」
「え? それはその、受けて立つと言ったからな……」
 なぜか言葉に詰まる。
「そんなこと訊いてるんじゃないわよ……。(なによもう、はっきりしなさいよ……)」
 麻亜耶はブツブツと言葉を吐き捨て、最後の方は聞き取れなかった。
「決まりですわね」
 クロエは遮るようにして、麻亜耶と虎康の間に割り込んだ。
「……もう。わかったわ! やってやろうじゃないの」
 またしても麻亜耶の負けず嫌いが、ここでもいかんなく発揮されていた。
 クロエの真意はわからないが、四人の想いが交錯する勝負が始まろうとしていた。
「よし! これで乳勝負決定じゃ!」
「なんで、じいさんが最後に締める?」
「ふふふ。それでは、頑張って幸せになりましょうね。旦那さま♪」
 ――旦那さま!
 その言葉は虎康の男心を貫いた。
「お、おお。頑張って行こうぜ」
「なあにが旦那さまよ。気が早いっての! 虎康も鼻の下、のばしてんじゃないわよ」
「ほんとだね、麻亜耶。ああはなりたくないものだね」
 と、マキシムが麻亜耶の肩に手をまわす。
 びしっ!
 麻亜耶はマキシムの手を叩く。
「あんたも気安く触るな!」
「おお、女の子はみんな僕にメロメロになるっていうのに、君は違う。なんて素晴らしいんだ」
 マキシムは感動混じりに驚いていた。

 そんなやり取りをしているうちに、村人が驚いた様子で声を上げる。
「おお、おお、あれは? 皆の衆、隠れるのじゃ!」
「あ! いけませんわ。わたくしたちも隠れますのよ」
 クロエの声に導かれ、麻亜耶とマキシムが慌ただしくその場から離れて行く。
「ん? どうしたんだ」
 虎康を除く全員が草むらや木陰に身を隠していた。
 一人、虎康だけがぽつんと立っていた。
「あ、おい。いきなりみんな、慌ててどうしたんだよ。人間、もっと心に余裕を持っていないと駄目ですよ。と、そういえば、さっきのあの子はどうなったかな、と」
 後ろを振り向くと、そこにあの子が立っていた。
「あ……」虎康は額から滝のような汗をタラタラと流していた。
 緑豊かに広がる田園を背に栗色の長い髪を揺らしながら、その少女は虎康の顔をじっと見上げていた。
「あなたは……この村の人ではありませんね? もしかして旅をされているのですか?」
「まあ、そうだね」
「それなら、私の話を聞いて欲しいのです」
「話?」
「そうです。今、この地は危機に瀕しています。私は声を聞きました」
「声?」
「大天使ミカエル様の声です。声を聞き……あと、これはよく覚えていないのですが、姿も見たような気がします。溺れながら? あ、いえ、翼のようなもの? を羽ばたかせながらこう言いました。『人々を先導しこの地を救えと』」
(聞こえたのか! どうして聞こえる、どうして? しかも、あんなにうなされていたのに、あれが天使の啓示を受けたときの瞬間だったのか。なんていうか、残念だ)
 虎康は気を取りなおして、
「もしかして翼がこう輝いていた?」
「よくおわかりですね。そうです。このように輝いていました。あなたもミカエル様を見たことがあるのですか?」
「いえ、俺が最近見たのは焼き鳥です。塩味です」
 少女と虎康は真っ直ぐ見つめ合いながら、真剣な眼差しで両手をヒラヒラと振っていた。
「そうですか。何を言っているのかよくわかりませんが、ミカエル様はこうも言いました。『ジャネットよ。王のもとに行き、あ、雷が! 点火! オルレアンを熱っ! 熱っ! 解放しなさい。あっついよ!』と」
(ビジュアルを求めた結果がこれだよ! 天の声とマキポンのリアクション芸が見事にコラボしちゃったじゃねえか。どうすんだコレ。全然、わかりやすくねえよ)
「まあ! なんと素晴らしい。本当に天の声をお聞きになられたのですね。それにわかりやすいですわ。大成功ですのよ」
「――!」
「今、何か言いましたか?」
 目の前の少女が手をヒラヒラさせながら、虎康に尋ねる。
「あ、ああ、独り言ね。ほら、それはまさしく天の声だから早速、行動した方がいいかも、ってね」
 虎康の前方、少女の背後の草陰に、クロエがロザリオを手にしながら目を輝かせていた。
 ――ちょっと!
「やはり、あなたもそう思いますか? ああ、話して良かった。私、三年ほど前から時々、声を聞くのですがその事を他の人に話すと決まって皆、馬鹿にするのです。ジャネットは気がふれているから、相手にするなって」
 自分の事をジャネットと呼んでいた少女の後ろで、クロエに加え麻亜耶とマキシムも立ち上がっていた。
 久しぶりに分かり合えそうな人間と出会えたからだろうか、ジャネットは嬉しそうに色々と話しかけていた。
作品名:HOT☆SHOT 作家名:櫛名 剛