HOT☆SHOT
第二話 eXtreme☆Shot! Stage1
1
「あっついよ〜」
パタパタ。
「夏だからね」
「まだ終わんないの?」
チューーーー。
「始めてまだ一〇分も経ってないんですけど……」
「プハぁ。おーいしー」
「……」
「終わった?」
「……」
チュ、ズズッ。
「ありゃ。こっちが先に終わちゃったよ〜。ねえねえ、おかわりぃ」
「だーーー! 自分で作りなさい!」
麦わら帽子に白い七分丈のワイシャツ、短パン姿の織部虎康が後ろを振り向くと、星色麻亜耶がハンモックの上で空になったトロピカルジュースの入っていたグラスをカランコロンと振っていた。
星色麻亜耶の格好も虎康と同じく、夏のリゾートを思いっきり楽しむ仕様だ。
白のキャミソールにビーチサンダル。足首には白のブレスレット。ホットパンツから伸びるしなやかな太腿とふくらはぎが、まぶしい。木漏れ日が風に揺られながら、彼女の顔や胸元に優しい光の輪をゆらゆらと描いていた。
本当は説教の一つでもしてやろうと思うのに、そんな彼女の姿を目にするたびに、それ以上なにも言えなくなってしまう自分がもどかしい。
「なあによぉ〜。ケチんぼ」
麻亜耶は起き上がると、ずれ落ちた肩ひもを直すことなく、スタっと地面に降り立った。
「でもいいよね〜。ココ。争いの無い時代だったらもっと良かったのに」
「まあ、そうだよな……」
と言いつつ虎康は、レンズの矛先をターゲットから麻亜耶へ切り替えていた。
麻亜耶は、タイムマッスィーン『チロリあは〜ん号』の傍に置いてある大きなクーラーボックスから、冷えたトロピカルジュースを取り出そうとしていた。
「あれ? 無くなったのかな? どこいったのかな?」
麻亜耶はお尻を突き出すようにして、上半身を屈めていた。
パシャ!
「もっと、奥にあるんじゃない?」
虎康は適当に答えた。もちろん下心ありありだ。そんな下心ありありの返事を麻亜耶は真に受け、更に上半身を屈める。
「おおー」
パシャパシャ!
「なに? どうしたの〜?」
「あ、いや……なんでもない。もうちょっと探してみたら?」
「うん。んーーーーっ」
麻亜耶の腰と連動するように、カメラのレンズが忙しそうに動く。
「キタよこれ。すげぇ」
「ほんと、すごいですねぇ」
「だろ?」
「ええ。キャミソールが垂れ下がってましてえ、この角度からですと――あら、ノーブラですわ」
「なに!?」
カメラごと視線をずらそうとした途端、目の前が真っ暗になる。レンズが手で塞がれたようだ。
「駄目ですよ。あなた様にはまだ早いですよ。うふふっ」
「何をおっしゃいますか。R18はクリアしていますよ。くくく。なので遠慮無く――」
「だ〜めっ」
ガラスのように澄んだ声が虎康の耳元で囁かれたかと思うと、次の瞬間、カメラを取り上げられてしまっていた。
すぐに抗議しようと顔を上げた虎康だったが、これまた別の意味で何も言えなくなってしまっていた。
「シスター……さん?」
初めて見る女性の顔。だが、この時代の人間では無いことは虎康の目からも明らかだった。
修道服のようだが修道服に見えない。
おへそが見えている丈の短い白のブラウスにロザリオ、ミニとまではいかないまでもローライズのスカートに編み上げブーツを履いている。そして、頭には修道帽。
ここまでアレンジしてしまうと、チープなコスプレに見えがちになってしまうものだが、そんな感じはしない。本当にこんなファッションもありでは無いかと思わせるほど――そう、実に似合っていた。
しかし、それは現代にいたらの話だ。
「はい」
彼女は青い瞳を閉じながら、にこやかに答えていた。木漏れ日が彼女の長いブロンドの睫毛を輝かせている。
「あのですね。はい、と言われましてもあまり、そんな風に見えないんですけど」
「あらあらまぁ、そうなのですか? やはりこの格好がいけないのでしょうか。私なりにカットしてみたのですが……、あ、でも涼しくて結構、気に入ってますのよ」
目の前のシスターは、虎康の隣にちょこんと座ると、手をハサミの形にしてチョキチョキと衣服を切る仕草をして見せた。
虎康は、「はあ」と一言。
「あ、自己紹介がまだでしたわね。わたくし、フランスチームのクロエ・ル・ロワイエと申します。よろしくお願い致しますね、日本チームの織部様」
「え? どうして俺のことを? というか、やっぱりあんたも二〇一二年から来たんだ。となると、例のタイムマシンに乗ってきて、カメラも持っている?」
「そういう事になりますわね」
「そうか、じゃあクロエたちフランスチームの車に乗って、俺たちは現代に帰れるんだな」
「はい。ですが帰る前に、私たちフランスチームの要望を叶えて頂きたいと思いますわ」
「なるほど、そういうことか。だから今回、俺たちに与えられたミッションはここになったんだな」
「左様でございます。フランスチームが日本チームを助ける条件としまして、ここフランスの歴史的瞬間を撮るお手伝いをして頂きたく、中条さまと山咲さまに今回のミッションを提示させて頂きました」
「小絵と恵介のことも知ってるんだ。そういえば、こっちもちゃんと自己紹介してなかったな。おーい、麻亜耶!」
麻亜耶は手にトロピカルジュースを持ったまま、ハンモックの上で口を大きく開けて気持よさそうに眠っていた。
「ん〜、なぁに? 終わったの?」
ちゅーー、ず……ずずっ。
「ちょっと誰、その人?」
ストローを口から離してガン見。
クロエは麻亜耶の視線を避けるようにして、虎康の傍に近寄った。
「小絵と恵介が話していただろ? 俺たちを現代に連れ帰ってくれるフランスチームの――」
「クロエ・ル・ロワイエと申します」
「……そう。あたし星色麻亜耶。麻亜耶でいいわよ。でも、はじめに一言いっておく」
そう言って、麻亜耶は虎康のYシャツの袖を掴んでいたクロエの手を握ると、クロエと虎康の間に入って、
「虎康はあたしの夫なの。あたしたち夫婦なんだから勝手に近寄らないで欲しいわね」
「まあ、左様でございますか? わたくし、凪咲からお二人は単なる同僚で、お付きの人は亡霊みたいなものだから気にしないでって伺っておりまして、それに織部さまのことは、ぴたっと張り付いてその女が寄り付かないよう監視しておいてって頼まれておりまして、ああ、わたくし、どうしたらよろしいのでしょうか?」
「ああ、麻亜耶と凪咲の言うことは気にしなく――」
ドゴ!
「うぐっ!」
虎康はみぞおち辺りを押さえながら悶絶していた。
「はあ? そんなの決まってるじゃん。監視なんかいらないの! ンにしてもあの女、こんな所まであたしたちの邪魔をするなんて。文句言ってやるわ!」
麻亜耶は立ち上がると、ずんずんと歩いていき、そのままチロリあは〜ん号に乗り込んでいった。
「あの、織部さま。大丈夫ですか?」
虎康はなんとか大丈夫と答え、
「ていうか、何なんだあいつら」
あいつらとはもちろん、麻亜耶と凪咲のことだ。仲良いんだか悪いんだか、よくわからない。なぜって、麻亜耶の着ている服は凪咲から貰ったものだ。なのに、もうこれだ。
「凪咲は結構、麻亜耶さまのこと大変、気に入っているようですわね。麻亜耶さまも何だか楽しそうですわ」