HOT☆SHOT
「どうしましたかあ? 黒猫さん、はいこっち向いて、にゃーん」
シャーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『にゃ……にゃーん、にゃーん、にゃにゃーん』
よし、フィニッシュだ!
「はい、それでは子猫ちゃんたち。ご一緒に」
『『「ニャンニャンニャニャ〜ん」』』
事が終わったとき、三匹の子猫は力尽きていた。
なんで、こんな事になったんだろうか、とか。なんで、こんなに熱くなったんだろう、とか。オートはどうした! とか、そういうのは一切、考えないことにした。
とにかく、IDとパスワードはもう、どうすることもできない。
三〇分の休憩の後、再び、モニターを中心にして皆が集まっていた。
だがしかし、女性陣は誰一人として着替えていなかった。どんな原理なのか仕組みなのか、メカニズムはわからないが、リアルに耳と尻尾が動いていた。
どうやら、三人とも病みつきになったようだ。でも、良かったなお前たち。なんたって女三人、共通の話題が持てるようになったんだから。
まだ着ていない服があるっていうのに、一着目でこのありさまだ。今日の撮影会は、この辺にしておこうと思う。
それでは引き続き、今後について、話を続けるとしますか。
「なあ、小絵、IDとパスワードはもうわかったから、これからはどうするんだ?」
黒猫の耳と尻尾がピクリと動いて、
『うむ。車は動くのでお前たちには、このまま次の時代へ向かってもらう。そして、現代に帰ってくる方法だが、実はある』
「お、そうなのか? なんだよ! それを早く言ってくれないと。それで、そいつはどんな方法なわけ?」
『虎。出発前に山咲が言ったこと覚えているか? 他の国も我々と同じタイムマッスィーンとキャメィーラを開発して、もうすぐ完成するというやつだ』
「そういえば、言ってたな」
『うむ、それでだ。虎。実は我が国は今、お前たち二人が他国のタイムマッスィーンに同乗できないか交渉している』
「なるほど、どこかの時代で待ち合わせて帰りは一緒の車に乗せてもらおうって、ことか!」
『ああ、そういうことなので、早速、出発してもらおうと思う』
「え? 早速? ちょっと待ってくれ。その前に、準備するものがあるんじゃないのか? 車の燃料とか。それに何か腹も減ってきたし……」
『ああ、なるほどな。それは確かに一理あるな。たまには良いこと言うじゃないか。クズ』
黒猫にそんな風に言われると、しっくり来るから不思議だ。一部の人間にとっては、かなりのご褒美なんじゃなかろうか?
『せぇんぱい。お腹空いているんでしたら〜、先ほど凪咲が送ったお菓子食べてくださいねぇ〜』
「あ、そっか、凪咲。さっき、お菓子送るって言ってたもんね。サンキュー凪咲。お前っていいやつだな最高だよ」
『いやぁん、そんなこと言われるとなんかぁ、恥ずかしいですぅ』
「よし、じゃあ早速、頂きますか――。麻亜耶、俺にもお菓子……」
「ん? お菓子? あ、これ? 全部食べちゃった。初めて食べたけど、美味しいねお菓子。でもまぁ、あの女が送ってきたやつだったのね。それがマイナスだけど、まあ、味の方は褒めてあげるわ。Eマイナスってところかしら」
見逃さなかった――見逃さなかったぞ。凪咲の目が一瞬だけ、あの病んだ目になったのを。
『えぇ、なんですかぁもう、メス亡霊が平らげてしまったのですかぁ? そんなに食べたら太りまくりですよぉ。まぁ、凪咲とお姉さまの場合は、こことか、この辺が膨らみますけどぉ――』
そう言いながら、凪咲は自分の胸とお尻を突き出し、そして、
『でもでもぉ、あなたの場合は〜、ぜぇんぶ、ここにいっちゃいそうですねぇ。キャハ』
と、下腹部を指で摘まんでみせる。
「なんですってぇ? この変態、露出狂女がぁ」
「うわ、ストップストップ、二人とも同じネコ科なんですから、落ち着いて。とにかく、あれだよ。出発しようぜ。あと、燃料とその何か食べ物送ってもらっていいかな?」
『わかった。それじゃ、とりあえず発進させるぞ。山咲、頼む』
『オッケー』
『あ、そうだ。お姉さまぁ。燃料と食べ物は〜、凪咲が用意しますねぇ』
おい、今、"あ、そうだ"と言ったぞ。何か企んでるぞコイツ。
『そうか、それじゃ燃料と食べ物は凪咲にまかせよう』
一〇分後、
チロリあは〜ん号は、星色麻亜耶がいた最初の地を離れていた。
虎康と麻亜耶は、時空の狭間か、はたまた亜空間なのか、とにかく外の見えない車内で一時のくつろぎを得ていた。
「ほんっと、あの女、腹が立つわね」
「まあ、気にするなよ。ああ見えても根はいい子なんだから」
「あんた、あの子の肩を持つの?」
「いやいや、そういうわけじゃない。とりあえず、次の目的地が決まるまでとりあえず、ゆっくりしよう」
「それはまあ……そうね。それに二人っきりなんだし」
そう言いながら、猫の格好をまだ続けていた麻亜耶がそれこそ猫のような、しなやかな身体を近づけてくる。
「もう、誰にも邪魔されずに、"ゆっくり"と色々、できるね?」
「なんか、ゆっくりの意味が違うんですけど……」
「うるさい! いいの! なんかずっと、二人でいられなかったし、昨日は雨でずぶ濡れだったし。これからあんたは埋め合わせするのよ!」
更に身体を寄せてきたその時――、
「ん? なんかトレーに荷物が届いたみたいだぞ。もしかすると、お菓子じゃないのか?」
「え? お菓子?」
そう言って青白ストライプのマジカルキャットはもう、トレーから箱を取り出そうとしていた。
今さっきまで言っていた事なんか、もう頭から離れてしまっているようだ。
「ほんと猫みたいなヤツだな。お前って」
虎康はぽつりと、独り言のように呟く。
「虎康〜、ねえってば、今度のお菓子こんなに大きいよ。一緒に食べようよ」
麻亜耶は四角い大きな箱を持ち上げ、
「何が入ってるのかな〜。た〜の、しみ、だな〜。おいっしい、おっかしぃ〜。ウフフ」
その中にあったのは――、
「はあ? ナニよこれ? なんなのよ」
麻亜耶が取り出した物。それは――、
猫のパンツだった。
麻亜耶は白猫のパンツを手に持って、ヒラヒラさせていた。
こいつは、さっきまで、凪咲が履いていたやつでは?
どこかで間違ってしまったんだろう。今頃、あいつも困っているのでは?
そう考えていた矢先、パンツから一枚の紙切れが麻亜耶の膝に落ちる。
「ん? ナニよ? これは?」
それを手に取った瞬間、麻亜耶は怒りを全身に纏っているようだった。
「どうした? 麻亜耶」
「はあ? どうしただあ? あんたの差し金でしょーがぁ」
「えぇっ? どういうこと?」
「ナニとぼけてんのよ。ほら、読んでみなさいよ」
問題の紙切れを見るとそこには――、
先輩へ、
先ほど、先輩が欲しがっていたお菓子です。
ホカホカですし、新鮮なうちにお召し上がり下さいね。
新しいのが欲しくなったら、いつでも言ってくださいね。
今度は凪咲の肌に丸一日、密着していたものをお送りしますから。
でもでも、あんまりそれで興奮されても困るかもですう。
興奮するなら、凪咲自身で思いっきり興奮してください。