HOT☆SHOT
「恵介、こいつぁスゲエぞ! まるでお前たちのそばに立っているみたいだ」
『そうだろそうだろ、そんなことより、早くシャッター押せ! 早く押せ! 今すぐ押せ!』
浮かれバカは放っておいて撮影開始!
『にゃんにゃん! ん〜もぉ、こうなったらあ下から剥いじゃいますよぉ! え〜い! あれ?』
ツルっ!
『あ! いや!』
ズデン!
次の瞬間――、
二匹の猫が折り重なるように、倒れていた。
下に仰向けに倒れているのは、ローブがはだけた黒猫――小絵だ。
黒い毛糸で作られたトップにミニスカート、その下にショーツが覗いている。
律儀にも凪咲と同じように手袋も着用していた。もちろん、尻尾もある。
一方の凪咲はというと、小絵の両脚の間に片脚を入れた状態で、ヒップを突き出すようにして四つんばいの格好をとっていた。
こちらは白猫だ。しかも、撫で声を上げながら手招きのポーズまで決めている。さすがとしか言いようがない。
しかし、ちょっと待て。
「小絵、猫耳はどうした? これをつけないと、このステージはクリア出来ないぞ」
『え? 無理無理。もうやめて、恥ずかしさで死にそう……ね? お願いだから……』
『お姉さま、凪咲がつけてあげますよぉ。どぞぉ』
ドタドタムギュっ。
もう何というか、にやにやが止まらないとは、この事だな。彼女たちがもぞもぞ、のけぞったりするたびに上も下も弾けるように揺れ動く。プッチ○プリンってやつだ。
『せんぱぁい、付けましたよぉ』
「おぉ、よしよし。さあ、二人とも猫になってくださいね! 小絵。ハイ、にゃーん!」
『にゃーん! にゃにゃんにゃぁん』
「白猫さんしか、聞こえませ〜ん。はい黒猫さんもご一緒に、にゃにゃーん」
『にゃ……くぅっ、虎……いい加減に……しな……さい、よ……』
惜しい! あともう一息なのに。
「パーレイ!」
『ぐっ……』
「ぐっ、じゃありまっせーん! にゃーんですよ。にゃにゃーん」
一方の白猫はなんかもう頬をピンクに染めあげ、シロ猫ならぬエロ猫になりつつあった。
そうなのだ、凪咲は基本的に露出狂であり、見られる事にすごく興奮する体質がある。
この体質が返って、ここで仇になろうとは。
『にゃあん、にゃぁんん……せんぱいがぁ凪咲のことぉ見てるう……にゃアん、あふぅ』
ヤバい。こういった写真はセクシーやエロでは質が落ちてしまうんだ。エロと可愛いのグレーゾーンだからこそ、価値がある。
とにかく、やつが暴走する前に何とかしなければ……、
仕方ない。いいでしょう。受けて立ちましょう。黒猫が喘ぎ声、いや鳴き声を上げるのが先か。エロ猫が覚醒するのが先か。
それとも――、この指がつるのが先か。
「織部、イッキまーーーーーーーーっす!」
カシャ、カシャ、カシャカシャ、カシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャ
『あ……こらぁ、そんなに色んな角度から撮るな……あ、そこは駄目だ。そこは私の……』
『にゃはあん。見られてルゥ、凪咲、せんぱいにぃ見られちゃってるよぉ。にゃにゃあんあぁン』
「ハイ、にゃーん」
シャッタースピードを上げていく。
カシャカシャカシャカシャカシャシャシャシャシャシャシャシャ
凪咲がヤバい。予想していたよりも早く第二形態――エロ猫になりそうだった。
一体、どうすれば――、
そうだ!
ポリポリ。
「麻亜耶さん、ちょっと手伝ってくれる?」
「バリバリポリリ……あたし今忙しいからだめだよ。後にして……ボリプォリリ」
「そこをなんとか……あ、そうだ。手伝ってくれたら、もっと美味しいお菓子あげるよ」
ポリ……。
「なあに?」
「……」
お前の風邪はどこに行ったんだ? と、ツッコミたいところだが、これまたそんな悠長な状況では無い。
「ちょっと、あの白猫さんを挑発してもらっていいかな?」
「挑発?」
「そ? えっとだね。あの白猫さんより可愛いく鳴けばいいと思うよ」
「何だ。そんな事ね。いいわよ」
そう言ってから、麻亜耶はモニターの正面に向かうと、手を招き猫にして――、
「にゃあん」
ぶっ! これまた。すっごい破壊力だ!
『にゃあんにゃあん、にゃにゃ?』
白猫が新たに現れた猫に反応。モニターを介して白猫とマジカルキャッツの目が火花を散らす。
しかし――、
『フッ……』
マジカルキャッツが白猫に一蹴される。
しまった! そういうことか。虎康はモニターのあっち側とこっち側を見比べ、大きな違いに気付く。
麻亜耶もそれに気付いたらしい。
「虎康……」
「お、おぉ」
顔を下に向けたまま、怒気に満ちた声を上げる麻亜耶がいた。
「私のは……」
「う、うん……」
「うんじゃねぇ! 今すぐ持ってこい!」
「はい、今すぐ取り寄せます! 恵介! 聞いていただろ! お前のとっておきを見せてくれ!」
返事は無かった。
が、その代わりに転送装置の新着ランプが点灯する。これがあいつの返事だった。
麻亜耶はすぐに転送装置であるトレーを勢いよく開け放ち、
「あんた、目をつぶってろ! 見たら殺す」
人格が変わっていた。もう流れにまかせるしか無かった。それにしても、恵介は一体、どんなやつを送ってきたのだろうか。少しだけ期待が膨らむ。
しばらくして、衣服が擦れる音が止むと、
「もう、いいわよ。どうかしらにゃあん?」
なんかご機嫌になった声に導かれるままに、虎康は後ろを振り向いた。
「青白ストライプ!?」
眼前には麻亜耶の顔。麻亜耶もまた、凪咲を意識してか四つんばいになってこちらに身体を向けていた。更に乗りかからんとしている。
まさにマジカルキャッツ。よもや、このような高度な柄ものを着こなすとは、
「すごいぞマジカルキャッツ! これなら、あいつを食い止めることができる! さあ、行くんだ! マジカルキャッツ!」
「にゃにゃぁん!」
『にゃにゃ!?』
再び、火花が散る。今度はお互いの存在を認めているらしかった。
よし! これで一つ目の難関はクリアだ。
あとはこの指と黒猫の勝負だ。いくぞ!
カシャ、カシャ、カシャシャシャシャシャシャシャ
『あ、コラ……また、そんなに撮って……はやく終わらせて……』
「それじゃあ、にゃーん」
『だから、無理……』
「あ、そうなんですかぁ。わかりましたぁ」
カシャカシャカシャシャカシャシャカシャシャシャシャシャシャシャシャーー
『――っ! 何? 何なの? この感覚は? 撮られるのがこんなに気持ちいいなんて……』
「ふっ、仕上げです」
シャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
もはや早すぎて、シャーにしか聞こえない。
「いいですよ、黒猫さん、いいですよぉ。いいですよぉ、ノッてますねえ。その顔も素敵だァ!」
『ああ! 何かもう、意識が……気持ちいい……ね? ちゃんと撮れて、いる?』
む、まだ猫化してないとは……いやはや、先が思いやられる。
「猫さんは人間の言葉は発しませーん。おしゃべり禁止でーす」
『……む。ハァハァ。ぐむむ。ああ』
「おしゃべりはダメですが、鳴くのはオッケーですよぉ」
シャーーーーーーーーーシャシャーーーーーーーーーーーーー
『にゃ……あふぅ……にゃ……』