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 そして、小絵とは違った癒されるような甘え声。
「いや、起きたいんですけどね。なんかあ、顔に革靴のようなものが刺さってるんスよね」
「カスが。これどかしたら、見えるだろうが! だから、このまま聞け」
 ぐりっ!
「ヴぁい」
「虎、お前、昨日ウチの編集長から話聞いているだろ? 思い出せ。なんて言ってた?」
「ん? 昨日……?」
 頭の中で、脳内スライドショーを再生してみる。ちなみに画質はブルーレイ並でモザイクなしだ。

 そこは廊下だった。
 たくさんの人間が忙しそうに通り過ぎていく中、一人の豚男が恐れ多くも私こと、織部虎康に話かけていた。
 ここはモザイクなんじゃないのか、暑苦しい。
「ああ、織部くん年末なのにご苦労様。明日からね、長期出張をお願いしたいからね、準備しておいて」
「ええ? いきなりじゃないッスか。編集長」
「詳しい事はね。山咲くんと中条くんから聞いておいてね。んじゃ、よろしく」

 次に映しだされたのは、編集部からオフィスに似つかわしからぬ部屋「歴史キャメラ開発室」だった。
 この部屋の主、山咲恵介は虎康や小絵と同じ年頃のいわゆるヤサ男ってやつだ。背も高くモデルのような体型に顔の堀は少し深く目鼻立ちもはっきりし、女性陣曰く、優しい顔立ちをしているそうだ。
 山咲恵介は若手ながら、特殊なカメラを開発しているということだった。なぜ、このような公社に場違いなスキルを持った人間がいるのかは、わからない。

 ちなみに公社とは――言うのも恥ずかしいが、『歴史証明公社』のことだ。
 公社という名の通り、政府が出資している。
 友人でもあり公社の人間でもある山咲恵介と中条小絵に誘われ、織部虎康がこの公社に来たのは三ヶ月前のことだ。 しかし、この公社が一体何のために設立されたのか、未だわかっていない。虎康を誘った二人はもちろんのこと、編集長も部長も管理部の山本さんも警備員の田所くんも、誰一人として詳しい事は教えてくれないのである。
 公社自体は海と山に囲まれた広大な敷地内にあり、まるで大学のキャンパスのようでもあった。
 赤煉瓦造りの重厚な造りの建物が、明治時代の雰囲気を色濃く残している。
 そんな佇まいとは裏腹に、周りの人間がやっている業務といえば、一言で表すと雑誌の編集だ。ジャンルは歴史全般。
 その中で織部虎康の担当は写真だ。つい最近、お酒を覚えたばかりの虎康はこう見えても、全国的に名の知れた写真家でもあった。

 話を戻そう。
 そんな虎康から見れば、山咲恵介はやはり異色な存在だった。
 まぁ、有り体に言えば、彼は天才科学者でもあり、断じて認めたくはないが、女子からはかなりモテる。友人としてこれほど、誇りに思うことは無い。くそが!
 その開発中のカメラというものが一体、何のことかはさっぱりだが、ここに来たということは、それがこれから明らかになるのだろう。
「おぉ、虎康、来たか? 明日から出張は聞いてるよな?」
「山咲、俺は超忙しい。早くここを去りたいから手短に話せ」
 モカの香りが室内に漂っていた。山咲は虎康の言うことを気にしていないのか、ソファに深く腰掛けていた。
「俺と同じのだけど、飲むか?」
「ん? 俺は今、超忙しいと言ったはずだ。だがモカか……。あぁ、頂こう」
「はいよ、アメリ缶コーヒー」
 虎康はソファに深く腰を降ろし、脚を組んだ。
「で何だ? 編集長の言う話って?」
「ああ、それなんだがな。お前、タイムマシンって信じる?」
 一言、訂正しておこう。こいつはこう見えても馬鹿だ。でも、そこが可愛い気があるらしく、よくある敬遠されがちな雰囲気というものが彼には無い、そこがまた人気の秘訣になっているそうだ。
「ふぅ、山咲。男という生き物はな、いつでも心は少年のままよ。そういう男に女は惹かれるものさ」
「信じてるんだ。なら、話は早い。お前の出張先な、ずばり昔です!」
「お前、バカだろ?」
「今、信じてるって言ったじゃん。いいか、お前は学生でありながら有能な若きフリーのカメラマン。今はウチと契約している。OK?」
「お、おお、そうだとも。山咲、お前は違いがわかる男だな。続けろ」
「……。まぁいいや。いいか、これは国家機密プロジェクトだ。有能なカメラマンのお前はそれに参画するわけだ」
「国家機密プロジェクトに参画……当然だな!」
「凪咲っちの言うとおり、ほんと、わかりやすい……」
「あ? なんか言ったか?」
「あ、ああ、いやいや何でも。で、実は今、世界各国で極秘にタイムマシンの開発競争が行われているわけだが、どうやら、我が国が一番乗りしたようなんだ」
 凄い話に違いないのだろうが、なぜか、お茶の間感覚で話を聞いている自分がいる。
「で、それがお前や俺……写真なんかどう関係するわけ?」
「そこなんだよ。俺の役目は歴史キャメラを完成させ、お前をサポートすることだ」
「カ、カ……、キャメラね。はいはい、で、その歴史キャパシティって何よ?」
「キャパシティじゃねぇ!」強く否定された。「キャメラだっつうの。ちょっと、コーヒー」
 山咲は缶コーヒーを一口、飲んで喉を潤し、
「例えばだね。今のデジタル一眼レフカメラってさぁ、撮ると勝手にネットに送れるだろ」
「そうっすね」
「聞けよ。つまり、そいつと同じでどんな時代にいても、このキャメラで撮った画像データは現代に転送されるわけ」
「へー」
「ちゃんと聞け。で、お前は色々な時代や国に行って、歴史的瞬間ってやつをこう、実際にキャメラに納めるわけだ!」
 山咲が両手で四角を作って、覗き込む仕草をする。
「あ、そうなん」
「……すげぇ興味なさそうだな。ちなみに、サポート役は俺ともう一人……」
「あん? 誰よ? バッかじゃねえの。とんだ物好きがいたもんだ」
「編集部の中条小絵」
 その名前を聞いて戦慄が体の中を突き抜ける。虎康は脚を組むのを止め、もう少し正確な情報を聞き出そうと体を前に倒し、手を組んだ。
「へ、へぇ……、小絵、が、ね。うん、いい選択だと思うよ。うん」
「……。敢えて突っ込まないようにする」
「え? 何と言ったのかな? 山咲くん。なんか君の話を聞いてたら俄然、やる気出てきたよ。うん」
「小絵は今、編集部にいるから。俺の話をちゃんと聞いた後、逝ってこい」
「今、"逝ってこい"と言いました? "行ってこい"じゃなくて。同じ"GO"でも"GO TO HEAVEN"はまだ早いですよ。俺」
「それはお前の努力次第。で、続けるとだね。最近入手した情報によると、どうやら他国もタイムマシンとキャメラが完成に近づきつつあるとのことだ。なので他の国よりも早く、かつ、ベストショットを撮らないといけない」
「ん? だとすると、なぜ、俺なんだ?」
「それは〜、……その、あれだ」
「なぜ、間が空いた?」
「あ、いやいや、えっとだな。実はまだ人体実験やってないんだよね。あ、でも大丈夫。自動タイマーによって、昔に行っても二四時間経てば、必ず現代に戻れる。だから、旅行気分で撮影に望めるってわけだ」
「で、どうして俺なんだ?」
「あぁ、ああ! どうしてお前かというと、えぇ、仮に昔から帰れなくなって日本を代表する他の優秀なカメラマンを失うわけには……どわっ!」
作品名:HOT☆SHOT 作家名:櫛名 剛