HOT☆SHOT
第一話 Virgin☆Shot! Stage1
1
ピ!
Fake Bookへサインイン。
カタカタカタ――。
皆さん、こんにちは。
フリーランス写真家こと、私、織部タイガーは明日から出張に行ってきます。
多分、明日から載せる写真は超絶、びっくりすると思います。
ここだけの話、爆弾宣言? 暴発宣言? しちゃうけど〜、
人類史上初とも言える?
写真を皆さんは目撃するでしょう! イェい!
だけど、びっくりしないで。
超スゴイかもしれないけど!
ビツくりしないでください。
だって、皆さんはこれから毎日が、ビツくりパラダイスになるのですから。
では、行っちゃいます! (W敬礼)
投稿者:織部タイガー=ヴィダルサスーン
カタ――。
投稿ボタン、クリック。
「ふっ、いつもながら、ピリリとスパイスの効いた文章だ」
今日は一月一日。
椅子の背もたれに、もたれながら腕時計を見た。
携帯電話? 何を馬鹿な。
そんなおもちゃで時の刻みを確認するような事はしない。時というものは途切れること無く、繋がっているものだ。デジタルでは本当の時間を知ることはできない。
左腕に巻かれた時計の針が森の妖精のように、コチコチと歌っている。いつ聞いても良い音だ。
そうだ。いつの時代でも腕時計はアナログが良い。
「癒してくれるのは、お前だけだな」
さて――、
「妖精さん、今何時ですか?」
ピ。ピピッ。
『CAJINO』と大きく書かれたロゴの上にゴシック体で大きく「11:23」とあった。
「……」
妖精さんは恥ずかしがりやさんだ。忘れてはならないが、時代というものは常に変化するものだ。
次はコメントをチェック。昨晩から相棒となった専用マウスホ"ウィ"ールを回転させる。
ギチギチメリッギチ――ガッッ!
(一件目)
投稿日時:一二月三一日 二二時四五分
投稿者:くるぶしてんこもり
タイガーさん、こんにちは。
いつも、ウザい投稿文、見るの楽しみにしてます。
あ、読んでません。見るだけです。怖い物見たさ? みたいな(爆)
でも、写真だけは凄いですよねw
ではでは来年も素敵な写真、楽しみにしてます。
たまには僕のサイトにも遊びに来てくださいね。
あ、コメントはマジで書かないでくださいね。ウザいから。
(二件目)
投稿日時:一月一日 〇時一〇分
投稿者:KEISUKE
あけ! おめー! タイガー!
ちょっとさあ、お前、今からID教え
クリック。削除。
(三件目)
投稿日時:一月一日 三時一五分
投稿者:ナギサちゃん
タイガー先輩!
明けましておめでとうございます!
今、初詣中なので携帯からご挨拶です。届いてるかなぁ〜。
昨年は、どんな年でしたか?
今年は楽しいことたくさん、あるといいですね。
みんなに感動を与えてくれる先輩のお写真、大好きです。
私も早く一人前になって、先輩と一緒に現場に行けるといいな。
その時はよろしくお願いしますね。
あ、携帯の電池もうすぐ切れそう。
また、ご連絡いたしますね。
それでは今年もよろしくお願いしますね。先輩!
ギチギチ。キュル。ポン――。
大事なのでもう一度、読むことにした。
(四件目)
投稿日時:一月一日 四時一五分
投稿者:KEISUKE
オッス! タイガー
やべぇよ。危なかったぜぇ。パスワード教えるの……
ちょっ、おま
クリック。削除。
(五件目)
投稿日時:一月一日 一一時二三分
投稿者:さえ
おい虎、今、何してる?
ガガッッ! ピタッ。
ブルブルブブ……ガタガタガタ。
マウスホ"ウィ"ールの回転が震えに変わっていた。決して手が震えているわけではない。
投稿日時は一一時二三分。
「まさか……な? 気のせいだね。うん、そういうことにしよう。次だ」
(六件目)
投稿日時:一月一日 一一時二四分
投稿者:さえ
スルーとは新年早々、いい度胸してんな。
誰に断ってスルーしてんだ。
これ読んだら、今すぐ後ろを向け。一分以上経っていたら、
コ 殴 ロ 蹴 ス !
ガガガガリガリリッ! バコン!
セロテープで強化されていたにも関わらず、マウスホ"ウィ"ールはもはや、原型を留めていなかった。
だが、安心していい。
いつものことだ。
それにしても可愛いやつだ。慣れない言葉なんか使って、無理しちゃってそうな所がお茶目さんだよね。うん。
まぁ、これは彼女の愛情表現の一つだ。こういうプレイが好きなんだよ彼女は。
今回も二割は回避できる……はず。
「っていうかさあ、『後ろを向け』って何ですか。いるわけないでしょう。会社ならいざ知らず、どこにいると思ってるわけ――」
ちょっと、額のあたりに手を置いてみた。
「……。ああ……そういうことか」
手のひらをポンと叩いてみた。
――ヤバい。
"ええっと、こんにちは。今日も可愛いですね"
こんなんじゃダメだ。コメント通りの展開になってしまう。
"いつもお綺麗ですね。小絵様。やっぱり違いのわかる女って素敵ですよね。今日は何の御用でしょうか?"
ふっ、決まりだ。新年だし、今日はこれで行こう。
息を大きく吸い込んで気持ちを落ち着かせる。
そうだ。常に冷静に対処することが大事なわけだ。まだ一分は経っていないと思う。でも何でかな。喉も乾くし、さっきから武者震いが止まらない。というかむしろ、強さを増しているような……。
それでは逝くとしますか。いや、違った行くだ。
立ち上がるようにして、後ろを振り向く。出だしは「いつもお綺麗ですね」からだ。
逝くぞ!
「小絵様、あけ! おめ――ぐぼぉ……ぐはあ」
振り向いた途端、頭、胴体へと鮮やかコンボがリズミカルに撃ち込まれていた。
どのくらいの時間が経ったのだろうか。
頭の中で目覚めると、背中に冷たくて固い大地の感触。上半身に撃ち込まれた愛情が体の中で化学反応を起こし、心地良い激痛へと変化していた。
「なに満足なツラしてんだ。ご満悦か? 変態。もうすぐ一二時になるだろうが! おい、起きろ! カス!」
空から聞こえる優しい天使のささやき声に導かれ――目を開けた。
細く目を開けるとそこには、天使が――、
「ピュアホワイト……だと!?」
瞬間、視界の色は反転していた。
「あん? 白で悪かったな。っていうか、きさま、誰の許可とって見てるんだ?」
「ズンマセン」
ぐりぐり、と下顎にヒールが突き刺さっていた。
短めの黒いタイトスカートを履いた姫カットを施した彼女――小絵は腰に手をあて、体を跨いだ格好で仁王立ちしていた。
「先輩、もう、お昼ですよ〜。そんな所で寝てたら風邪ひいちゃいますよ」