HOT☆SHOT
写真は多くを語りかけてくる――。
『いいか? 虎康、見て驚けよ! これだ!』
虎康はしばらくの間、黙って見つめていた――。
そして、
「よかった……この……写真で良かった……」
『お! そうか、お前も良いと思うか? そうだろ、そうだろ? やっぱお前はすげぇヤツだよ。どうやったら、こんなアングルから自分達を撮れるんだよ』
「恵介――」
『うん?』
「他に、写真は無かったのか?」
『え? あるぞ、だけど残りはどれも同じようなもんだ』
「そうなのか、その……例えば、だな」
『何だよ、らしくないな。はっきりしろよ』
虎康は鼻をポリポリと掻きながら、もう少しく訊いてみた。
「例えばだな、俺と麻亜耶がこう、ナニかしている所とか……」
『は? 何、言ってるの? だから、今見せた写真がそうじゃん。もう一度、よく見ろ。映画でもこんなシーン撮れねぇぞ』
その写真には、粉塵を巻きながら突進してくるオリーブ色の巨大ロボから少女を守る一人の男の姿が写っていた。男は後ろを見上げ腕はしっかりと少女を抱きとめていた。そして、その写真の中で最も印象的だったのは少女の表情だった。少女はその男に全てを身を委ねていた。はたから見れば、死ぬかどうかの瀬戸際のシーンであるにも関わらず、少女の瞳に恐怖は一切ない。瞳に映っているのは、希望。信頼。そして慈愛。
「……恥ずかしいけど、確かに、いい写真だな」
『だろ? これ以上のものはねえよ』
「そうか、ならいいんだ」
「うんみゅ〜、なに? どうしたの?」
見ると、麻亜耶が欠伸をしながら少し辛そうに起き上がっていた。
「起こして悪かったな。次の薬を飲む時間まで、眠ってた方がいいぞ」
「んー、でもちょっと、気分よくなったし大丈夫だよ。ふあぁ。それに、打ち合わせ参加することになってたし。今その真っ最中なんでしょ?」
「まあ、そうだけど。キツくなったらいつでも休めよ」
うん、と頷く麻亜耶を横目に、虎康は話を進めさせることにした。
『麻亜耶っち、おはよー。風邪薬はこれが良く効くから、すぐに送るからね。早く元気になれよー。で、話を続けるぞ』
麻亜耶っちは、おはよーと目を線にして手を振っていた。
「それで、いよいよ帰る話だな」
『……』
「……」
『……』
「……帰る話だよな? あのな、俺たち話したんだが、結論から言えば麻亜耶を現代に連れて行くことにしようと思うんだ。いいよな?」
『ああ、それなら問題ない。すでにリーダーもその事を想定していて、このプロジェクトのメンバーとして登録してある』
「おお! さすが小絵。相変わらず、こういう所は小回り利くなあ。じゃあ、早速、現代に帰してくれよ。もうすぐ、二四時間だろ? 戻って次こそ過去に行こうぜ!」
『……』
「……」
『……』
「……だからなぜ、そこで黙る。……お前、まさか?」
突然、吹っ切れたように、いや、何かを決意したように山咲は口を開いた。
『いやー! ご察しの通りです。ちょっと、トラブルが重なって帰れないんだよね。ブイブイ!』
「最後のやつ、全然ごまかしにも、なんねぇから! こら、そんなの真似てはいけません!」
隣で麻亜耶が山咲を真似て両手でブイサインを連発していた。
「だいたい、何で帰れねぇんだよ!」
『帰るには、その車にIDとパスワードを打ち込む必要がある』
「じゃ、そのIDとパスワードくれよ」
『無い……』
「何、言ってんの? あるでしょうよ? あ? なにコレ、もしかして新年会の余興ってやつですか? ああそっかそっか。いやー、オジサン一本取られちゃったなぁ」
虎康と山咲は、お互いに笑っていた。
もちろん、この笑いは機を伺ってのものだ。目は笑っていなかった。
麻亜耶も笑っていた。モニターの向こうで女性陣、二人も笑っていた。
そうだ。モニターを挟んで駆け引きが始まっていたのだ。
どう出るか。まずは先手必勝だ。
笑いが止むやいなや、
「出せ」
『無い……』
「……」
『だって、お前、俺のコメント削除しちゃったじゃん』
「は? Fake Bookのこと? 別に大したことじゃねえだろ? それが今回の事と、どう関係あるの?」
『あのコメントにIDとパスワード載せてた……』
「こら。なんでそんな大事なもん、コメントに載せるんだよ! それにあの時、同じ場所にいたよね? テヘッじゃねえ! 気持ちわりいんだよ!」
虎康は一度、モニターから目を離し、麻亜耶の様子を確認することにした。
打ち合わせも大事だが、彼女の容態も心配だったからだ。
だが、思っていたよりも元気そうで、麻亜耶は助手席にある転送装置から送られてくる物資を珍しそうに見ていた。トレーを開けるとそこには、さっき恵介が麻亜耶に送ると言っていた風邪薬が入っていた。彼女はそれを取り出すと、トレーを閉める。と、思いきやすぐに開ける。すると今度は、お菓子の入った箱が出てきた。
お菓子も麻亜耶にとっては初めて目にするものらしく、目を輝かせながらガサゴソとそれを開ける。そして、匂いを嗅いで安全であることを確認すると、ポリポリと小動物のように食べ始める。
どうやら、彼女は転送装置を大変、気に入ってくれたようだ。元気そうにお菓子を食べてるし、これなら、しばらくの間は平和が続きそうだ。
虎康は安心して、モニターに向かうことにした。
「んで。IDだっけか。で、そのIDだけどな、俺は知り合いのシステムエンジニアからその辺の話を聞いたことあるから、知ってるんだぞ。そういうやつは、データベースっていうやつで管理してるんだろ? で、バックアップとかあるんだろ?」
『ああ〜、データベース……ねえ。そんなの使ってない』
「はい? じゃ、どうしてるのサ!」
『簡単に言うとコンピュータの基板に直接、焼き付けてるんだよね。ROMっていうやつ? わかりやすい例で言うと、ファミ○ンのカートリッジの中身とか、PCのマザーボードね』
「ああ、なんとなくわかるよ。でも、それがどうした? そいつからデータ吸い上げられるだろうが」
『いやーそれがほら、その基板もイカれちゃってね。ははは』
「何だよ、その乾いた笑いは? で、なぜその基板さんはイカれたの?」
『それはですね――』
と言って、山咲が両手で「どうぞお通りくださいませ」のポーズをとると、モニターのカメラ目線が移動し、凪咲と小絵が画面に登場する。
「ちょっと、その前にいいか? いつも思うんだけど、そこにもう一人いるのか? そのカメラ、いつも絶妙な動きするんだが、一体、誰が動かしてるんだよ」
『(お前は気にするな。その事に関しては何も心配しなくていい)』
画面から外れた山咲の声だった。余計、疑問が湧いてしまうんだが、まあ今はこの目の前に現れた二人だ。一体、どうしたんだ。この二人。
『せんぱぁい、ごめんなさぁい。凪咲、ちょっとエスカレートしてしまってですねぇ……その……山咲さんに、メってお仕置きした時にそれで殴っちゃいましたぁ。そしたら割れちゃってぇ、でもでもお、山咲さんはぁ何かハァハァ言っててぇ、嬉しそうでぇ、もう超絶キモかったですう』
わかった、パーレイの時ね……。
「で、小絵までどうして?」