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HOT☆SHOT

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第一話 Virgin☆Shot!  Stage5



    5

 ここは一体、どこだろうか?
 意識の中で目が覚めた織部虎康は、そう呟いた。
 ……す。
 天使だけが持つ甘い香りと声が、織部虎康の五感を包み込む。
 ……らやす。起きなさい。
(いつまでも、こうしていたい。もう、起きなくてもいいんだよな。俺。休んでいいんだよな?)
「ちょっと虎康、起きなさいよ!」
 バっちーーん! バっちーーん!
 痛みを堪えてこそ、男。起き上がることにした。
 バっちーーん! バっちーーん! ボガ!
「麻亜耶、もういい。俺は起きてる」
「もういい? あ、ごめんね……」
「うん。けど最後、手がグーになってた」
「そんなことないよ」
 夕方のテレビ番組に出てきそうな魔女っ娘――星色麻亜耶は、キョトンとした表情で即答する。
 織部虎康と星色麻亜耶の二人は車内にいた。
 あれほどの大惨事が起きたのだから、かなり長い間、気を失っていたに違いない。だから、助手席の上で足を崩しながら、ちょこんと正座している麻亜耶に確認することにした。
「麻亜耶。俺はどれくらい、気を失ってた?」
「五分かな」
「アイツは?」
「ロボなら、止まったままね」
 麻亜耶の指差した方向に、石像のように動かなくなったロボの姿があった。
 虎康は魚が死んだような半開きの目をさせながら、麻亜耶が放った雷のせいで異常が無いか確認していた。
「エンジン、掛からないな……」

 何もする事も無く、二人は前の席に座って赤黒い雲に覆われた空を眺めていた。
 現代の東京もそうだが、こっちの空も同じように、星は見えなかった。
「虎康……」
 次の言葉を黙って待った。
「ごめん。あたし何の役にも立たなかったよね。車も動かないし。魔力も全部、使っちゃったし……」
「そんなことは無い。麻亜耶は俺を色々と助けてくれた」
「そう、かな?」
「ああ」
 虎康は麻亜耶の方へ身体を向けていた。今こそ、正直な気持ちを伝えたかった。
「ありがとう」
「あたしの、ほうこそ……ありがとうだよ」
 二人は引かれ合うようにして、上半身を寄せ合っていた。
 目の前の彼女は少しだけ俯いて、すぐにまた瞳を合わせる。
 潤んだ瞳に吸い寄せられるがまま、虎康はゆっくりと顔を近づけて行った。
 桜色に上気した頬が近づいてくると、自然と彼女の瞳が閉じていく。
 麻亜耶は待っていた。
 鼻頭がすっと触れ合い、唇が――、
『おい! 虎! いるか!』
 びくっ!
 思わず、虎康は麻亜耶から体を遠のけた――寂しそうな瞳。
 彼女から目を離し、あわてる虎康。
「お、お、お、おぉ、小絵じゃないか」
『あん? 何、動揺してんだ? それに麻亜耶、お前も……』
 小絵は麻亜耶の顔を覗こうと、歩み寄ると、モニター越しにへばりついた。
 麻亜耶は顔を横に伏せていた。
『虎! お前、凪咲を調教したと思ったら、今度は魔女っ娘を嫁にして、いいご身分だな。ご満悦か?』
「バカ、んなわけないだろ」
『……』
「な、何だよ? 何、じっと見てんだよ」
『……ふん、まあいい。なんか、山咲の方から技術的な話があるみたいだから。少し待ってろ』
「何だあいつ。機嫌悪そうに。向こうで何かあったのか? な? 麻亜耶」
 麻亜耶からの返事は無かった。
 麻亜耶は思い詰めたように、じっと誰もいないモニターを見つめていた。
「麻亜耶?」
「ん? あ、うん……何?」
「どうした?」
「え? 何でもない何でも……」
「そうは見えないんだけど? よかったら教えてくれないか?」
「ほんとに何でもない……」
「そうか。ま、無理にとは言わないけど」
「……ね、一つだけ訊いていい?」
「ああ、いいぞ! 遠慮するな!」
 笑顔で答えた。麻亜耶の様子も変だった。しかし、態度がコロコロ変わるのは彼女には良くあることだった。
 理由はわからないが、早く元の明るい笑顔に戻って欲しいと思う。
「小絵さんは、虎康のなに?」
 だが、今回のは何かこれまでと違っていた。
「は? 何って? 同僚みたいなものかな? 俺と小絵、山咲、凪咲は三ヶ月ほど前に会ったばかりなんだが、こいつらとは、何か馬鹿に気が合うんだよな。凪咲はいわゆる新社会人というやつだな」
「三ヶ月? 本当に?」
「本当も何も、それが事実だ。本人たちにも尋ねてみればいいじゃん」
「そこまでする必要は無い。ただ、何となくそう思っただけ……もっと昔からの知り合いかと思っただけだから……」
「それはあり得ない。麻亜耶、どうしたわけ? 何か、お前まで変になったんじゃない?」
「そんなわけ、無いでしょうが!」
「お! いつもの調子に戻ったじゃん」
『はーい、はい、諸君! 遊んでないでこっち注目! 重大発表がありまーす!』
「お、山咲。復活したのか? 相変わらず早いな」
『まあね。それでですね。ええ実はね、君たちが乗っている車ですけどね――』
「あん? 何だよ。めんどくせぇから、早く言え」
『動きます』
「何!? どうすんだ! 早く教えろ!」
『あわてなーい、あわてなーい』
「物真似は、いらねぇんだよ! こっちは車の後ろに居座っているロボがいつ、動き出すかわからなくてビクビクしてんだ!」
『え? チュッチュしようとしてたのに?』
 思わず隠しカメラがありそうな場所に、視線を張り巡らせた。
 てめぇ、そんな話を凪咲にでもしてみろ! やつはな、それを餌にしてヤンデレ属性を育てているんだからな。ヤツにとって、そんな話やあ〜んな話は極上のステーキと一緒なんだよ! その辺、空気よめ!
「ん?」
 モニター越しに遠くの方から声が聞こえてくるぞ。耳を澄ませてみた。
『(山咲さぁん、後でそのお話、聞かせてくださいねぇ)』
 筒抜け過ぎだろーがよ! お前、何枚、あいつにステーキ与えてるわけ? ステーキはね。四半期とか半年とか、一大イベントとかで十分なんだよ! その辺、空気よめ!
「お前、空気よめよ! で、どうすれば動くんだ?」
『ハンドルある?』
「ああ、あるぞ。で?」
『鍵は付いている?』
「付いてる」
『切れたコード繋いで』
 一〇分後、
「繋いだぞ」
『キー回して』
「回したぞ」
『エンジンスタートした?』
「エンジンスタートしたぞ! すげぇな! オイ! て、おい、どういうことよ。これ。全部、そっちでコントロールされてるんだろ?」
『あれ? 説明してなかったっけ?』
「白々しい演出はいらないから」
『お前が旅立つとき、ロケットエンジンで動いていたのを覚えているか?』
「ああ、そうだな。で、そのロケットエンジンが動かないから、俺たち困ってたんだろうが」
『それがさぁ、普通に車なんだからさぁ、自動車のエンジンもあるわけじゃん』
「はい?」
『ロケットと自動車、別々の動力源で動くようにしてたの忘れてた! なのでバッテリーも別! 燃料も別! やったね! お前ら帰れるんだぜ! あとはそこのドアを修復すればいいのさー』
 お前、帰ったら死刑な。
「やったぞ! 麻亜耶! 帰れるんだぜ。俺た――っ!」
 助手席に誰もいなかった。
「麻亜耶……?」
 帰る――?
 一体、どこに帰るっていうんだ? あいつは。
作品名:HOT☆SHOT 作家名:櫛名 剛