HOT☆SHOT
麻亜耶もまっすぐ、見つめ返してくる。
「麻亜耶、俺はお前のこと、今この瞬間、これからもずっと――」
「虎、康……」
きつく抱きしめた。
「い、たいよ……」
黒い巨大な影がしゃがんだまま抱き合っている二人の眼前に迫っていた。
「麻亜耶……」
「これであたしたち、もう終わりなんだね……虎康に会えて……嬉しかった……」
そして二人は――、
「……」
「……」
二人を覆うように、重い風が轟音と織り交ざり合って吹き抜けていく。
吹き抜けていった先で大地を叩き割る音。そして、地響きが二人の身体を震わせていた。
次は何が起きる――?
しかし、それ以上のことは何も起こらなかった。
「――っ! これは!?」
麻亜耶は片目を開けていた。彼女は「何が起こったの?」と、答えを求めたがっている顔をしていた。
「だから、言ったろ絶対、助けるって」
腕の中から虎康を見上げる麻亜耶の目は潤んでいた。
「うぅ〜、なんか悔しい……」
「あれれ? なんでそんなコメントなんですか? もっと、言うことあるでしょ? 嬉しい、とか。助けてくれてありがとう、とか――」
「あんたこそ、この状況でよくも……言えたわね。せっかくの……その、そのぉ〜……だいなし、じゃない……」
そう言いながら、段々と恥ずかしそうに声を小さくしていく腕の中でモジモジする少女。湯気が出たようについには顔を真っ赤にして、虎康の胸に顔を埋めてしまう。そして――、
「あんたも……その……魔法少女……なの? いったい何をしたのよぉ」
もごもごと、籠もった声で変な質問を投げかけてくる。なぜに少女? それにモゴモゴがくすぐったい。
「魔法使い=少女。たしかに多いね魔法少女。うん、そうだよ魔法といえば、少女だよね。うんうん、でもね。俺が使った魔法はアレです」
「アレってなによぉ……?」
冬眠から目覚めた小動物のように頭だけをぴょこんと突き出して、後ろを振り向いている虎康と同じ方角に目をやる。
「さっきのロボがいるだけじゃない。なんなのよお」
「ロボの両脚の間をよく見てみ」
「ん〜、んーーーーッ」
麻亜耶は右手で虎康の顔を押さえ、更に頭を突き出し左手をかざして問題のポイントを注視する。
「あれは、キャメィーラ!?」
「そう、キャ、キャミ、カメラだ」
「でもどうして、キャメィーラが関係あるのよ。絵に収めたから?」
「違うよ。カメラのレンズに太陽の光を反射させて、ロボの身体に当てたんだ」
今はもう太陽が隠れているので、ロボは微動だにしていなかった。
「すごい……すごい、よ……虎康」
麻亜耶がウルウルと目を輝かせている。女の子からの羨望の眼差しというものは、実にいいものだ。それこそ、男にとっては魔法だね。うん。
「だけど、さぁ」
「うん? どうした?」
「それって、ぶっちゃけ、イチかバチかの賭けだったんでしょ?」
彼女がにっこりと笑っている。でも、彼女のこめかみの所になんか見えるんですよね。漫画に出てくる十字型の【怒】マーク。
「いやぜんぜん全然そんなことないよー計算通りだよー」
「目、泳いでるよ〜」
「はは、そんなこと、あるわけ……」
「でも……あり……がとう。あたしを助けてくれたんだよね。虎康は……」
本当に泣いたり、ウルウルしたかと思えば、恥ずかしがったり怒ったり、感動したり笑ったり、本当にコロコロと表情が変わるな。こいつ。
虎康は、にこやかに笑顔で返した。
しかしいつまでも、こうしているわけにもいかない。
後ろのロボが何かの拍子で動き出さないうちに、今度はあのポンコツ車まで戻らないといけない。
「車の所まで走れるか? 麻亜耶」
「頑張ってみる」
言った矢先、虎康から離れた彼女が立ち上がった途端、がくっと身体が崩れる。
「あ! おい、大丈夫か?」
彼女の身体を抱きかかえるようにして、虎康はロボが反応していなかったか、確認する。
お互い背を向け合っている位置にいたため、何も起こっていはいなかった。太陽も――大丈夫なようだ。
問題は車とロボの方角が、同じということだった。
虎康は周りを見渡し、所々に身を隠せそうなポイントを確認していた。
「ごめん。足を少し挫いたかも。でもしばらくしたら、すぐにまた歩けるようになると思うし」
虎康は申し訳なさそうな顔をしている麻亜耶に笑顔を見せ、しゃがみこむ。
「俺の背中に乗ってよ」
「……、わかった。ごめんね。遠いのに」
「大したことないよ。それよりちゃんと首に手を回せよ。よし、行くぞ」
背中に柔らかな部分がダイレクトに伝わってくる。
(手足も細いし服の上からじゃわからなかったけど、コイツの胸――意外とある……いかんいかん、こんな状況下で俺は一体、何を考えてるんだ。よし、行くぞ。絶対、みんなの所に帰るんだ)
残り半分まで来たとき、虎康は立ち止まった。
「ねえ虎康。少し休もうよ? ね? 息が荒いわよ」
「いや、そういうわけにもいかない。あのポンコツ車。時間経つと、ここから消えるらしいからな。というか動くかどうかもわからない。というか、壊れてる……」
「もう隠れられそうな障害物も無いし、どうするの? こうなったら、あたしの魔法を使う?」
「え? 使えるの?」
「少しだけなら。ちょっと回復したからね」
「でかした! って、やっぱ待て」
「?」
「そう言えば、お前の魔法ってどんなやつ?」
「雷。当たると痛いわよ」
続けて、ドドーンピシャーと言いながら、発動した時の様子をジェスチャーしてみせる。
正直言って全然、痛そうじゃないし、凄そうにも見えない。
「本当か?」
「あたしが嘘ついたことあるっていうの?」
「いや、出会ってまだ数時間だし」
「……」
首筋が急速に締まっていく。
「あ"、馬鹿! こ"んな"所で首じめんま"」
案の定――、
ヤツ――後方にいたロボが動き出した。
「あは! ごめ〜ん」
再び、態勢を変えて走る。今度はお姫さま抱っこってやつだ。最後の最後でこれはキツい。
「わざとだろ? お前、わざとなんだろ?」
「にゃは〜」
「ごまかすな! まあいいや、こっちの方が都合がいい」
「ん? にゃんで?」
完全にこいつは、おふざけモードだった。
「お前の魔法は、あの車を動かすのに使うの。あの車、外からショックを与えないと動かないらしいから」
「あ、そうなの? わかったぁ。それじゃ着いたらあたし頑張るから。それまで虎康はもっと頑張んなさい。この下僕。あたしは囚われのお姫さま。にゃは」
どうやら、脳内で麻亜耶作のオリジナルストーリーが展開されているようだった。
(囚われの身なのに、下僕に抱き抱えられてるって、どんな展開だよ。あ、こんな展開か。って、俺は下僕だったのか! ぎゃは。ってちがーう! 俺までこいつのストーリに巻き込まれるところだった……こいつも侮れないな)
「言われんでも、ですよ! うがーっ」
虎康は加速した。
ダサイのが目印のチロリあは〜ん号に着いた時、巨大ロボは二〇〇メートルほどの所まで迫っていた。
虎康はすぐさま、麻亜耶を降ろし車内に飛び込む。
誰もいない室内が映し出されているモニターに向かって、
「おい、恵介! いるか? 返事しろ!」