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 類は友を呼ぶ。とはよく言ったものだ。こいつと、あいつらを会わせるのはマズいだろう。だが、どうやって会わせないようにするか。一緒にいればそれだけで、顔を合わせる確率が高まってしまう。一体、どうしたものやら、って。
「ぶっ!」
「あ、こんにちは〜。初めまして〜、麻亜耶でぇっす!」
「いつの間に――!」
 座席の上で四つんばいになって麻亜耶はモニターとご対面していた。後頭部に手を当てながら挨拶している。
「ちょっと、ちょっとぉ!」
 急いで虎康は運転席に乗り込むと、先に座っていた麻亜耶を助手席に追いやる。
「あ〜ん! そこはお尻だよぉ。いたぁ〜い。ダーリンのエッチぃ」
 これまた、お約束な展開とセリフを繰り出しやがって。今は、そんな状況じゃないだろ!
 とりあえず麻亜耶を無視して、モニターに顔を近づけた。
『おっす! 虎康、一時間くらいぶり。元気にしてた? ギリシャはどうよ? アキレウスにはもう会えたのか? ってか、会う前にいきなり女神さまをゲットですかぁ? いいなぁ、俺も行ってみて〜な』
 モニター越しの山咲はご機嫌だった。
「お前ら酒飲んできただろ? わかるんだよ。俺が世紀末体験している間にお前らはハッピーホリデーですか、あ? それにしてもだよ。未来仕様の俺から見てもやっぱお前は馬鹿だよ。と、説教たれる前にだな……」
 虎康が本題に入ろうとしたその時、絶妙なタイミングで小絵が割り込んできた。
『おい虎! 背中にピタっとくっついているその女は誰だ? 誰の許可を得て張り付かせている? コスプレまでさせるとは、どういう魂胆だぁ? 凪咲への変態OJTでは飽きたらず、貴様、やりたい放題だな! この腐れ腐ォトグラファーが!』
「……」メモ――小絵は飲んでもそんなに変わらない。相手を支配したい傾向がある。だけど、彼女は絶対、Mだと私は睨んでいる。いつか私のカメラで証明してみようと思う。それと話は逸れるが、腐とフを重ねてくるあたり、油断できないタイプだ。今後に期待。
 次にモニターを占領したのは、凪咲。この子もいい感じに出来上がっていた。というか、この人、飲んでも良かったのか?
『せ〜んぱぁい。早く帰ってきてくださぁいよぉ。凪咲はもう待てませぇん。凪咲のこことかあそことか、見て欲しいですぅ。でもでも何ですかぁ、その背中のメス亡霊? 帰ってきたら凪咲が除霊して差しあげますよぉ。でも凪咲、ちょっと、先輩のこと許せないかもぉ。切り刻んでもいいですかぁ?』
「……」メモ――凪咲は、ヤンデレ属性も持っていたようだ。また新たな性癖を掘り当ててしまったと言えよう。私はこれからも、フロンティアスピリッツを常に持ち続け開拓して行きたいと思っている。
 こいつらの生態観察はこの辺にしておこう。
「あの、皆さんそろそろ、いいですか?」
『ん? 何だよ? 金なら貸さねぇぞ。だいたいお前、そこって両替きかねぇだろ?』
「いや、マネーはどうだっていいんだよ! それより聞いてください。俺は今、西暦三二〇〇年にいるんだけど、みんなはどう思うかな? 何か意見とかありますか?」
『え? そうなんですか? 虎康くん。ちょっと待っててください。今、調べますから』
 掛かったな――!
(思ったとおりだ。モニター三人衆の中で、恵介。お前が一番キャラが弱い。だから、俺はお前を狙ったのさ。この学級会を彷彿させるような初心者に易しいシチュエーションは、お前のような弱キャラにとっては大好物なはずだ。さぁ、早く俺をこの危機的状況から脱出させろ! 恵介!)
『はぁい、せんせぇい』
「ん? 何かな? 凪咲さん」
『中条くんなんですけどぉ、なんか口から異物吐いてますぅ。お酒臭いしぃ。鯛とかヒラメの刺身みたいなものが混ざっていますぅ。もうなんて言うかぁ、海とお酒のジューシー博覧会? 彼、キモいですぅ』
(凪咲、お前の気持ちは嬉しいが、今はお前のレポーター魂は必要としていないんだ。たしか、凪咲は酔いが醒めるのが遅かったはずだ。というか、本当にこの子飲んで良かったのか? まぁ、凪咲に期待は抱かないほうがいい。それに恵介。てめぇは、やっぱ馬鹿だ。鯛にヒラメだぁ? 俺がいるときはカンピョウがメインボーカルのくせに、花形ツートップかよ。そんなツートップいらねぇ。全部吐いちまいな!)
「わかりました。凪咲さん。そのまま、レポートを続けてください」
『はぁい』
『せんせぇえい』
「ん? また凪咲さん――あ、小絵さん、ですか?」
『せぇんヴぇい』
「……はい」
 嫌な予感がした。助手席を見ると、ガサゴソと車内を嗅ぎまわっている星色麻亜耶の姿があった。
「麻亜耶くん……」
「ん? なんでしょう? 先生」
「目を閉じてごらん」
「え? え? ヤダ。何、いきなり優しい声なんか出して、もしかしてここでキスとか、しちゃうの? はい、いつでもいいよ。先生とだなんて禁断の恋の始まりだね」
 世紀末なこの世界で一体、どこでそんなこと覚えたんだ?
 敢えて突っ込まずに虎康は、無心で人差し指を彼女の両耳の穴に差し込む。そして虎康はモニターを見つめた。
「あ、虎康。だめだよ、そこちょっと、くすぐったい。ねえってば」
「……」
「虎康ってば何? いきなし放置プレイ? ねえ、私、どうすればいいの? はぁはぁ」
 モニター越しに事が収まるのを静かにただ、待つしかなかった。
 待っている間、一定間隔で身体に振動が伝わってくるのを感じていた。麻亜耶が何か変な事をしているわけではない。
 モニターに変化が生じる。虎康はモニターに目を縫いつけた。車内にストレスが溜まった現代社会に生きる大人の日常が再現される。もちろん、音付きだ。
『※魚△鯛♂■汁○酒∴酒×飯平目♀』
(小絵。周りの男どもが今のお前を見たら、引くだろう。だが、俺は違う。お前たちと一緒にカンピョウ食べたあの時のことをずっと忘れやしない。俺の中のお前はいつだって、いや、これからも輝いている。だから、お前も鯛とヒラメ――カンピョウ以外、残さず全部吐いちまいな!)
 バイオレンスなシーンも終わり、麻亜耶の耳から指を抜く。
「もう目を開けていいよ。麻亜耶」
「はあはぁ……虎康……その調子で、あたしをあなたの好きな色で染めてね」
 忘れてた。こいつ凪咲系だった。新しい性癖を発掘しないよう、十分、注意しなければならない。
 さて、そろそろヤツが復活する頃だろう。
『虎康』
 来た。
『俺だ。恵介だ。みんなのマスコットキャラだ』
「最後の言葉はいらん。気分すっきり爽快か?」
『あぁ、すっきり爽快だ。それでだな、こちらでもお前が西暦三二〇〇年の日本にいることを確認した。で、何か問題でも生じたか?』
「ああ、えっとだな……」
「あたしが話す!」
「麻亜耶」
「あのね、巨大ロボがね。あたしを狙ってきているの。もうすぐ追いつくと思う。もう地響きも大きくなってるし。でも、その巨大ロボなんだけど、あたし一人だけの力では倒せない……」
 さっきの振動はそいつだったのか。
『虎康』
「小絵? 大丈夫なのか?」
『私を見くびるな。お前らのリーダーだぞ。クズ』
 いつもの小絵だな。
「OK。リーダー。俺たちに指示を出してくれ」
作品名:HOT☆SHOT 作家名:櫛名 剛