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高校生・恋愛・短編・オリジナル

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「てゆーか早く出てこいよー。着替えに20分とか、かかり過ぎでしょ」
「年末のシフト確認してたんだよ」
そこで気づく。
「ん?何で20分前にあがったって知ってんだ?」
「20分前まではファミレスの中にいたから。店員さんにアルバイトしてる東谷って人の友達なんですけど、上がったら教えてくださいって頼んだら教えてくれた」
「東谷は二人いるはずなんだが」
二つ年上で柔和な東谷さんを思い浮かべる。
「店員さん、目つき悪い方って言ったら分かったよ」
なるほど。
「で、何でこんな寒い中ハチ公みたいに待ってたんだ」
「だって中からじゃ裏口見えないじゃん」
「そうじゃなくて、何で待ってたか」
「あ、そっち?」
「そう」
「この前の手紙のことだよ」
淡々といった。
何も感情を込めないようにしているのが分かった。
「やっぱり手紙のこと、知ってたのか」
「やっぱりって?」
「いつだったか掃除のとき、手紙のことをお前に話したよな」
「うん」
「そのとき、おれは呼び出されたとは言ったけど、体育館裏にとは言ってなかったから」
「間抜けな火サスの犯人みたいだね、私」
間抜けな顔で笑う。
「あ、封筒の用意までしたのはそうだけど、用があるのは私じゃないよォ」
「まー、そうだろうな」
こいつそんな性格でもないし、随分と一途な彼氏もいる。
「今、店の中で手紙の中身を書いたコが待ってるよ。東谷のことだからだいたい展開は読めてると思うけど」
はあ、息を吐くと白い靄が漂って消えた。
「これからアンタ、告白されるんだよ」
「へえ」
いやな予感はしていた。
「何、『実はあんたはうちの子じゃないのよ』ってか」
「そういう告白じゃない。マジメに聞けコラ」
「まじめもまじめ、大マジメ」
おれのマフラーをはぎ取り、よく冷えた手でおれの首を頸動脈に沿って押さえる。
鶏の断末魔のような声を上げるおれを睨みながら橋川は言った。
「こんなに寒くなるまで、そんな冗談言うために待つか?いいからいって来なさい」
「えー、自分のバイト先で告られるとか公開処刑じゃん」
歯をがちがち鳴らしながらそう粘るが、
「もっかいいっとく?」
とオペを始める医者みたいに橋川が白い手を挙げる。
これ以上体温を奪われては命に関わるので、大人しくおれは従うことにした。
「アンタは告白されんの。恋の方の」
恥ずかしいセリフを繰り返す橋川。
「百歩譲ってそうだとしよう」
「嬉しい癖にぃー」
「期待して出てって好みじゃなかったらガックリくるだろ」
「それは大丈夫。あの子超絶に可愛いから」
「女の可愛いはあてにならないってことぐらい知ってる」
マフラーを取り返して巻き、肩をあげて口の上までうずめる。
それにいつかみたいにまた泣かれるのは勘弁だった。
「お節介だって分かったうえで色々、アドバイスはしたんだけど」
そこで一旦区切り、瞳の奥に入り込むような眼で射抜く。
「もしかしたら何も言えなくなるかもしんない。そしたらアンタから言ってやってよ」
いつもみたいにずばずばっとさ。
頼むというよりは祈るように口にした。しおらしい態度だ。
上岡といい、簗瀬といい、おれの性格は人斬り包丁みたいに思われているのだろうか?
「それじゃーよろしくー」。
そんな女々しい態度から一転して
一応、
「夜道、危なくねーか?」
と声をかけたが、
「あー大丈夫。今だけあいつ呼んでるから」
わざわざおれを震わせるためだけに手を温めるなんてこいつ馬鹿じゃないか。
と思っていたが、どうやら温めくれる相手がいたらしい。
確かに反対側の歩道に橋川の中学から付き合いの彼氏、倉沢直斗の姿が見えたのでそのまま見送った。

店に戻り、正面から入ると橋川におれをリークしたであろう同僚がにやりと笑った。
無意識に睨んでしまったが、こんなことをしているから目つきが悪くなるのだと気づき、さっさとレジを抜けた。
橋川に指示された、ちょうど通りからもレジからも見えない位置のボックス席を覗き込む。
が、誰もいない。
別の席かと思い、喫煙者席、二人組席、トイレの方、と見渡すがそれらしい人はいない。
ドリンクコーナーを見ようと後ろを向く。
そこでやっとこのボックス席に座ろうとしている人と眼が合った。
両手で陶器のカップを持つ、びっくりした表情をした中瀬有里だった。




「寒ィな」
店から出て、少し遅れて隣を歩く中瀬を振り返らずに言う。
バイトの同僚に冷やかされても腹が立つので、店の割引券で安くしてもらい店を出た。
さっき店に戻ってきたときはにやにやしていた同僚も、こっちの気まずい雰囲気を察したのか、普通の客と同じように淡々とレジを押した。
何も言い出さないので中瀬の家の方向へ足を向けた。
星もなく、冷えた夜空。
クリスマスの装飾。
静寂という存在感さえ感じる沈黙。
「久しぶりだね」
「あー」
「こうやって帰るの」
「あー」
黙る。
「最近、あんまり話してくれなくなった」
「いや?教室でも普通に話すじゃん」
「違う。最近はよそよそしくなった」
「気のせいじゃね?おれはいつも通りだ」
「そう…そうなのかな」
「そうそう」
おれはできる限り平静を保った。
「本当に気のせいかな」
「そうだって言ってんじゃん」
「そう…分かった。私の勘違いなんかで呼び出して、ごめんね」
しおらしく謝る。
「…まあ、おれにも色々あったんだよ」
その様子に耐えられず、本当の事を言ってしまう。
「話さなくなったのにも」
顔を上げる。
「色々って?」
「色々は色々だ。長くなるから割愛」
「長くなってもいい。教えて」
珍しく、やたらと食い下がる。
うっとうしい。
「黙秘権を行使する」
うなだれる中瀬。
こういう態度に弱い。
心が痛い。
洗いざらい言って楽になっちまおう。
はあ。ため息は白い息となる
「おれはその昔、お前が好きだったんだよ」



中瀬と初めて話したのは小学四年の給食の配ぜんのときだ。
当然のように出席番号順から始まる給食の配ぜん係をしていたおれに
「お肉は少なくして」
と言った。
一応好き嫌いしちゃだめだろと、は言ったものの、小学生男子というのは基本肉食獣なので、他のやつにやるために少なめにしてやった。
それだけなのに、誕生日を祝われたみたいに
「ありがとー」
なんて言って笑顔で器を受け取った。
別に脳細胞が桃色の上岡みたいに一目ぼれしたってわけじゃない。
ただ、それから中瀬の姿がなぜか視界に入るようになったり、中瀬と話した内容をなぜかよく思い出すようになったり、中瀬の声だけなぜか雑音の中でもクリアに聞こえるようになったりしただけだ。
別に一目惚れをしたってわけじゃない。

それから中瀬有里と話をすることが多くなった。
いや、話しかけることが多くなった。
おれはよく言う落ち着きのない子供だと言われていたし、短気な方だったからよく親とも友達ともけんかもした。そんなおれとけんかするくらい周りの奴も子供だった。
それとは対照的に彼女は物静かだった。十歳の割には大人びていた。
あまり笑わない子供だった。
たまに作り笑いを笑顔だという先生もいた。
自分のこと話さず、おれの話を静かに聞いてくれた。そんなところを子供なりにおれは尊敬していた。