マジェスティック・ガール.#1(15節~21節)
一同に『命令』を告げ終えたヒューケインの全身を取り巻くように、
緑色のCGワイヤーフレームが、彼を覆った。
CGフレームの上をモザイクが走査し、全身にテクスチャーが貼られていく。
そうして、それは”形”となった。
量子情報としてコンテナに格納されていた<アクエリアス>が
質量を伴う実体として現出した瞬間だった。
<アクエリアス>を装備したヒューケインの姿は、特撮物に出てくる
某仮面ヒーローのようなビジュアルだった。
黒いヘルメットマスク。二眼のアイゴーグル。
曲線の中に鋭角が織り交ぜられた、マッシブなデザイン。
黒の素地を基調に、所々のラインには白が入り、縁取りは黄金に彩られている。
リミテッドテンを『キャラクター』として売り出すために冶月フィラが
企画デザインをした代物だった。
一同はヒューケインに続き、<アクエリアス>を装着。
キャビン後部に備えられた自動開閉ドアを潜り、カーゴへと向かった。
女性陣の<アクエリアス>は、ウェットスーツとレオタードを組み合わ
せたようなデザインだった。そのスーツを素体にして肩や腰回りに、
各自デザインの異なる追加装甲が、かしこに展開されているという塩梅だ。
女性陣達のヘルメットマスクにモザイクが走った。
すると次の瞬間、マスクが掻き消え、彼女たちの素顔が現れた。
本人達の顔をトレースして、マシンがCGとして投映させているのだろう。
女性陣の華やかなルックスを、カメラ映えさせるためのギミックだった。
ARツールを介して見るCGとは言え、その質感は実物と区別が
つかないほど精巧に出来ている。
カーゴの扉が、圧縮空気とともに開放された。
宇宙空間へと身を投じたヒューケインと一同を始め、その腰の後ろに
幅五cm、前長一メートルになる平たいプレートが現出した。
個人に差はあるが、その枚数、二〜四枚ほど。
そのプレートと<アクエリアス>を仲立ちするよう、間にピンポン球大の
球体が浮かんでいる。それは牽引装置で、五〜十センチの間隔を
置いて、<アクエリアス>とプレートを重力子ビームで繋いでいる。
プレートは、『デバイス』と呼ばれる補助装置で、エネルギーコンデンサ、
演算補助用ストレージ、理論推進飛行機関としての機能を兼ねている。
<アクエリアス>に身を包み、高速艇から飛び出した一同の背中で、
デバイスが白い蛍光を放ち宇宙に白い軌跡を描き出した。
ヒューケインが先頭を飛び、指示を飛ばす。
「俺と凛はフォワード。ナズナとエンリオはミッドでカバー。
臨機応変に対処を頼む。ツツジは後方から援護とフォロー。
戦局をコントロールしてくれ。ご自慢の電磁砲の威力、見せてくれよ」
「ったく、あったりまえですよ。任せて下さい」
「栞はバックアップ。<弾頭>(ガラスの剣)の精錬・更新と配布を頼む。
ミミリの世話、任せたぜ」
「ええ、もちろん。いざとなれば前に出ます。
ミミリさん。私の側から離れないよう、気をつけて下さいね」
「いえ、私も自分のことは自分で守ります。マジェスタ―ですから。
生意気に聞こえると思いますが、金雀枝さんはお仕事に集中して下さい。
露払い位はして見せます」
それを聞いて、栞は目を細め微笑を浮かべた。
「まぁ。では、お願いしようかしら。よろしくお願いしますね、ミミリさん」
「頼もしいね。オーケーだ。嬢ちゃんは栞の護衛だな。
こっちも手を煩わせないよう、せいぜい頑張るさ」
ヒューケインが、遠くの宇宙空間を仰ぎ見た。
「さぁ、来たぜ。連中のお出ましだ」
艦隊の前方に見えるガス星雲の中に、黒い斑点がぽつぽつと現れた。
斑点の数は次第に増していき、ガス星雲を覆い隠すほどにまで膨れあがった。
変異体は大小様々。その形状も多種多様。
ブリーフィングでは七千超と聞いていたが、目に映る変異体の数は
それを遙かに超えているように見える。統一されていない変異体のサイズ
が曖昧を生み、脳が実態よりも”多い”と認識しているに過ぎない――
が、この光景は”圧巻”の一言に尽きた。
作品名:マジェスティック・ガール.#1(15節~21節) 作家名:ミムロ コトナリ