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ミムロ コトナリ
ミムロ コトナリ
novelistID. 12426
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マジェスティック・ガール.#1(15節~21節)

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17.



 軍港のカタパルトから射出され、高速艇はプランタリアを出立。
三分ほど、エイス・イルシャロームの衛星軌道上を巡航した後、
巨大な長方形型の構造体が現れた。
 全長、三十Km。幅、五00mからなる長大な加速装置。
<銀河星間往還螺旋重力子レールカタパルト>。
通称<OGRc>とは――重力子加速装置を内蔵したレール
カタパルトにより、その架線上を走る船舶の速度を乗算的に
加速させる交通インフラシステムの事を指す。
 架線上を走る船舶・物体は理論推進効果を付与され、
周囲の空間位相と物理関数を変位させながら前進する。
加えて、ヒグス粒子によって定義されている被加速物の
質量係数が書き換えられ、理論上最高速度は
準宇宙膨張等速度にまで到達可能とされている。
 レールは飛び飛びに数十キロ感覚で配置されている。
特定の宙域にだけ設置されている訳ではなく、そのレール網は宇宙各所
にある星系間を繋ぐMSSM(多重並行空間跳躍移動)ワープターミナル
ゲートウェイを経由して、他星系から別銀河の星系惑星間を越え、
果ては銀河団規模の隅々にまで張り巡らされている。
 レール網を銀河団の真上から俯瞰した場合、ネオンで照らされた夜の
大都会を、上空から見下ろしたような情景として覗うことが出来るだろう。

 OGRcの架線上を、光速度の1.75乗(〜現在も加速中)の速度で
航行していると言うのに高速艇の機内は揺れ一つなく静かなものだった。
被加速物に係る、物理変化の定義関数値さえも書き換えながら前進する
理論推進効果の副産物――事象変化を防ぐ理論防壁が
高速艇の船体を覆い、保護してくれているお陰である。
 一同は、取り留めない雑談や、作戦に関する事を話しながら
フライトの余暇を潰していた。
 その最中、栞がこんなことを申し出た。
 「ヒューケイン、提案なのですが。私がミミリさんの側についても
宜しいでしょうか?」
 「ああ、別に構わないぜ。俺も目を光らせるからさ」
 「ありがとうございます。ミミリさん、これを」
栞がAQUA-Sのツールポシェットから指輪を取り出し、ミミリに手渡した。
 「T-アクエリアスです。教練用のダウングレードモデルですが、
身を守るには申し分ないはずです」
 <アクエリアス>は通常時、アクセサリー型の収納コンテナに量子情報と
して格納されいる。栞が渡したのは、そうした代物だった。
 「あ、はい。ありがとうございます、金雀枝さん」
ミミリは、受け取った指輪を左手の人差し指に嵌めた。
その指に嵌めたのは、精神的にポジティブでありたいという意味が
あると知ってのことだった。
 ミミリは、ふと気がついた。対面の席に座る凛も、指輪型の
アクエリアスコンテナを身につけていた。
よく見ると彼女は、左手の薬指に指輪を嵌めていた。
中指に指輪をするのは、婚約や愛の進展などにまつわる意味がある。
 (…婚約者がいるのかな?それとも――)
双子の弟であるヒューケインにそういう感情を抱いているのだろうか。
いや、仮にも二人は遺伝子上の”姉弟”だ。本人達もその気はないと
否定しているし、その線は薄いだろう。――ではなんなのか?
…答えが出そうにないので、ミミリは考えるのをやめた。

 ふらっと席を離れたヒューケインが、コックピットシートを
挟んで、リーンとこんなやりとりをしていた。
 「しかし、政府の対応。やけに早いですよねぇ。
やっぱり、規模が規模だけに?」
 「こんな大規模の変異体郡襲来は五年ぶりだものね。
あの時は、なんとか変異体のエイス・イルシャローム侵入は防げたけど。
本星に打撃を被ってしまった」
 「苦いことですよねぇ」
「全くね。現場としては前回の失敗を教訓にして、今回は早々に
手を打つ決断をした政府の対応は評価するわ。振るうべき時に
鞘から抜けない剣に価値はないもの」
 二人の話は、五年前バーベナの街を襲ったメテオインパクトに
関係していることだった。当時、政府の対応が遅れたばかりに
本星に変異体進入一歩手前という未曾有の事態になった。
結果、バーベナは戦禍に巻き込まれ、ミミリの両親は帰らぬ人となった。
 「でも、不自然なのよね。特に落ち度も無く、無難に運営を行って
きた当時の政権が、何故かあの時だけは対応が後手に回っていた。
不思議だと思わない?」
 「変異体襲来の一次情報が知れ渡った後。誰かがバイパスの
箇所で、わざと情報を差し止めていたと?何のためにです」
 「そうね。国民の不信を煽り、政権与党の支持率を下げるため。
もしくは、軍や政府内重役の更迭を狙った、抵抗勢力の謀略とか。
自分たちを、その後釜に据えるためにね。思い当たる節は色々あるわ」
 「しかし、憶測に過ぎず。当時の担当者達は左遷され、方方に散り散り。
中には死亡した者。事件の恨みを買って殺された者もいる。
生存している人間に聞いても、知らぬ存ぜぬの一点張り」
 「きな臭いわよねぇ。ジャーナリストにも未だ事件の裏を
追っている人間がいるって聞くけど。世間はもう昔のことだと
割り切り、忘却し、日常に追われ、こだわる人は既に皆無だわ」
 「人の世の常。諸行無常…ですねぇ」
 二人のやりとりを耳に挟んでいたミミリの顔には、
若干の剣呑さがにじみ出ていた。
 (冗談じゃないよ…)
 もしも、利己的な野心の為に、そんなことをした連中が
いたとしたら、自分は彼らを許すことなど出来はしないだろう。

 ――数十分後。
 「見えてきたわね」
 リーンが、CGで補正された船外映像を見て言った。
 高速艇の数キロ先に、ミストルティン所属の艦隊が見えた。
 対A仕様の攻撃型巡洋母艦三隻。護衛艦二十七隻。駆逐艦三十五隻。
遊撃戦力である遠隔操作型無人<UG-MAS>が百五十機。
加えて、<アクエリアス>を装備したマジェスタ―、総勢六百人。
これと同規模の部隊が、変異体群を包囲する形であと四つ。
数千キロ彼方の宙域にも展開されている。
 「総員、傾注」
リーンの命令に一同は座したまま、彼女に目を向けた。
 「方々に展開している分隊のマジェスタ―にも招集をかけたわ。
213分隊に派遣中の深冬とエリカも合流する予定だが、あくまでも”予定”だ。
ここにいるメンバーで状況に対処してもらう。そのつもりで」
 一同は不動のまま、司令官であるリーンの言葉を待った。
「<アクエリアス>のロックを解除。装着を許可します。総員、戦闘準備」
 リミテッドテンメンバー達の手元に『Resrict un hold.Safety released』と
表記されたCGコメントボックスが現出した。
 <アクエリアス>の装着には、現場指揮官の承認と、その権限委譲を
受けた士官、または小隊長以上の権限を持つ下士官の許可がいる。
 ミストルティン隊長であるリーンが許可を下したことで、
<アクエリアス>の装着ロックが解放された。
 「私は部隊の指揮に戻るわ。後は頼んだわよ、ヒューケイン」
「了解。隊長殿」
 リーンの姿がモザイク状に歪み、光の粒子となって消えた。
高速艇に乗り合わせていたのは、彼女のクォンタリアンだった。

 「では、総員<アクエリアス>装着。機外に出る。俺の後に続け」