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ミムロ コトナリ
ミムロ コトナリ
novelistID. 12426
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マジェスティック・ガール.#1(15節~21節)

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16.



 高速艇に乗り込んだヒューケインと凛を除く一同は、
駆け込むようにキャビンシートに腰を下ろした。
 高速艇の内部は、コックピットとキャビンが一体となっている。
 コックピットシートには、ミストルティン直属の高速艇パイロットが
すでにスタンバイしていた。
 パイロットもプランタリアを卒業したマジェスタ−なのだろう。
挨拶に出向いたヒューケインと凛に向かって、パイロットは軽口混じりの
やりとりをしてから「よろしく」と返じた。
 コックピットのサブシートにはもう一人、同行者がいた。
 『彼女』は、すっとさりげなくシートから腰を上げ、一同の前に屹立した。
 クリーム色のブレザーに、パンツといった出で立ちの女性将校。
階級章が示す階級は『三佐』。厳然とした佇まいには隙がない。
プラチナブロンドの前髪を切り揃え、長い後ろ髪を左右二つの輪として
括り、頭の後ろに下げている。なかなかに奇抜な髪型だ。
 左肩の下には、蔦が絡みついた剣の柄の上に、若芽が生えたシンボル。
光の神バルドルを殺したヤドリギの剣(槍)にちなんでデザインされたという。
それが<ミストルティン>の部隊章だった。
 『彼女』こそが、対A作戦課実働部隊<ミストルティン>の隊長――
 「やぁ。久しぶりですねぇ、リーン・カサブランカ三佐。半年ぶり?
相変わらずお綺麗で何より。結婚申し込んでもいいすか?」
 呆れたような含み笑いを浮かべて、リーン・カサブランカが答えた。
 「アナタは相変わらずだね、ヒューケイン。残念だけど、私は
一生独身って決めてるの。いつ戦場で殉職するかも分からない
嫁なんて貰ってどうするんだよ」
 「そりゃ、お互い様でしょう。三佐は、長生きしますよ。
美人薄命とは縁遠い方だと思いますしね。
立ち回り上手だし、あっちもこっちも」
 「どっちのそっちよ。はいはい、どうもありがとうね」
ヒューケインのアプローチを軽くあしらい、リーン三佐は
佇まいを直してから、ぴしゃりと声を張り上げた。
 「それでは、総員注目。これよりブリーフィングを始める」
一同にそう告げて、彼女は手元に現れたバーチャルコンソールを叩いた。

 船内がふっと暗くなり、<展望台>で見たのと同じ
CGインフォメーションが狹いキャビンの中に図面展開された。
 「現時刻より、八時間三十二分前。アルマーク星系外縁部宇宙を
監視巡航していた213分隊巡視船が、<ガーベラ8>編隊を
発見。同隊はこれと交戦。変異体を撃滅。
しかし、その八時間二分後に到来した七千二百十一体の
変異体郡は、監視網を突破。アルマーク星系内に侵入した。
目標郡は、光速度の13.38%の速度で周回軌道を取りつつ
本星へと進行中。現在、アルマーク星系最遠の第九惑星
<テータ・ヘカテ>より5.13光年離れた地点にある
アステロイドベルト帯を通過中だ――」
 確か、<テータ・ヘカテ>のラグランジュ点には、
コロニー<ハナキリン>があったはず。
 ミミリは約一年前、そこで世話になった安宿の女将、
オハナ・ミナミの事を思い出した。
 コロニーに変異体の侵入を許せば、どんな惨劇が彼女や
<ハナキリン>の住民達に降りかかるのか。――想像してぞっとなった。  
 「では、作戦の概要と目的を説明する。
目標郡は、亜光速度で巡航している。第一作戦目標は、
目標郡の進行速度の減殺。『ヒグス重力子増幅慣性相殺装置』。
つまりは、イナーシャルキャンセラー効果を持つ、粒子波形レー
ザーを広域に渡り展開照射して巡航速度を減殺し、進行を遅らせる。
これは、我が隊のマジェスタ―部隊が行う。
第二目標は、目標郡の撃滅。ここで、君たちの出番だ。
我が隊と連携して、目標郡を包囲。分断し殲滅。後に
各個撃破。目標郡全ての撃滅を持って作戦完了とする。
以上だ。何か質問は?」

 エンリオが手を上げた。
 「アクトゥスゥ変異体はその生態性質として、量子情報密度の
高い個体。つまりはヒトや生物を優先的に狙って来ますよね。
連中が予定進行コースを外れて、コロニーや小惑星都市、
有人艦船などに向かった場合も、前述の作戦目標に則って
行動するのでしょうか?」
 「もちろん。最終作戦目標は、変異体郡の全撃滅。
状況やロケーションが変わろうとも、作戦に変更はない。
優先するべきは、変異体のエイス・イルシャロームへの
進行断固阻止よ」
 リーンが言い終わるのを待って、今度はツツジが手を上げた。
 「つまり、現地部隊の隷下に入らず、こちらの裁量で
好き勝手やっていいって事ですよね?」
 「ええ。ミストルティンは独立権限を持つ実働隊。
他の部隊の影響は受けないわ。仮に彼らが、変異体に
襲撃され戦況芳しくない場合も、その限りではない。
原則としては、救援に当たることになるけど」
 ヒューケインが遮光バイザーのブリッジを指で持ち上げる仕草を見せた。
 「オーケー。その場合は俺たちが受け持ちますよ。
<ミストルティン>本隊には、心置きなく目標郡の撃滅に
当たって欲しいんで。その方が、そちらも動きやすいでしょう?」
「そうね、その方が助かるわ。他に質問は?」
一同を見渡して言うリーン。――返答は無言と沈黙。
 「ないようね。作戦開始は、現時刻より二十五分後。
GUC標準時2055時とする。では、作戦区域到着まで総員待機。
作戦開始時刻を待て」

 軍港にある一部の床は、スライドパズルのような移動床になっており、
船舶などは整備エリアごと移動し、発進用重力子カタパルトにまで運ばれる。
 移動床が動き出した所で、ヒューケインがミミリの隣席に
腰を下ろし、こう話題を切り出した。   
 「ところでミミリちゃん。アクトゥスゥの別名って知ってるかい?」
「あー…、えぇと。いえ、そっちの分野はあまり。…えへへ」
「へぇ、博識なのに意外だな。じゃ、暇つぶしがてら一つ講釈と行こうか」
「はい。なんて言うんですか?」
 うん、とヒューケインが頷き。
「『神の出来そこない』さ。あらゆる物質、生命を変異させ支配し
この世にない物質に変化させる連中は、神に近しい存在だ。
それ故、対A作戦課の名前は神殺しの剣ミストルティンに
あやかってるってわけ」
 母フリッグの願いによって全ての生物・無生物に傷つけられない
肉体にされた神。この世のあらゆる武器が通じない光の神バルドル。
だが、世界に生まれて間もないヤドリギとだけは、若すぎて契約を
結ぶことが出来ず、それが彼の唯一の弱点となった。
 その下りを、『神の出来そこない』であるアクトゥスゥに唯一対抗
できる武器――存在。つまりは、マジェスターになぞらえている。
それがマジェスターを運用する特殊部隊、<ミストルティン>の
名に含まれたミーニングであった。
 「ははぁ、なるほどー。でも、なんでアクトゥスゥは物質や生命に
憑依したりするんでしょう?私たちと仲良くなりたいとか??」
 「まぁ、近いな。連中が行為に及ぶ理由はただ一つ。
――好奇心さ」
 「好奇心?」
 「そう。子供が虫を捕ったり、弄ったり。珍しい動物や生き物を見たら、
触ってみたい。調べてみたい。反応(リアクション)を見てみたい。
そう言う、興味本位の純粋無垢で無邪気な好奇心」