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ミムロ コトナリ
ミムロ コトナリ
novelistID. 12426
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マジェスティック・ガール.#1(15節~21節)

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キッパリと断言した。迷いも臆面も無く、まっすぐに。
「勘違いだ。そんなのは」
「え?」
「その人を守り通して、勘違いだって証明して見せろよ。
自分にはなんの原因も落ち度も無いってな。
お前は、マジェスターなんだろ?」
「…はい」
 ――その通り、自分はマジェスターだ。
 ヒューケインが間髪入れず尋ねる。
「マジェスターの使命は?」
「アクトゥスゥから、人類を始めとする生命を守る…ことです」
 ――それが、自分達マジェスターの使命だ。
「そうだ。なら使命を果たせ。自らの存在意義と有用性を証明しろ。
皆を守って見せろよ。使命とかじゃなく、『自分のため』にもな」
 はっとなった。
――『自分のため』。そう結局は自分のためだ。
人を助けるのも。自身の矜持に則って高尚さを損なわない
立ち振る舞いを貫くのも。両親の教えに習うのも。
全て自分の心に従ってのこと。
自分の自由意思でそうしたいから、そうしている。
つまりは、そういうこと。『それがとても心地いいから』――。
そんな考えは独善的かもしれない。けども、結果としてそれが
人の役に立つのであれば、それは有用なこと。喜ばれること。
なら、言うべきことはただ一つ。シンプルに、たった一つ。
「は…はい!」
ミミリは、大きい声で力強く返じた。
 ヒューケインの言うことは最もだった。
マジェスターとして課せられた使命を果たすため。
自身の心と矜持に乗っ取り、『皆を守る』という夢を叶えるために、
自分は今日まで生きてきた。
心がひしゃげそうな程、辛い目にあっても。泣きそうなことがあっても。
逆境に挫けそうになっても。
その度に心を奮い立たせ、困難に立ち向かい、進んできた筈だ。
『マジェスターとしての使命を果たす』その為に。
(そうだ。私は、だから――)
 ならば、今こそがその絶好の機会ではないか。
今日まで、修練で培った技術と鍛え上げた肉体。
頭に叩き込んだ膨大な知識。
それらを振るい、マジェスターとしての力を思う存分発揮する。
今が、その時だ。

 廊下の曲がり角から、床を踏みならす足音が聞こえた。
 …サ、ガサ、ガサ、ガサ――!
足音は次第にこちらへと近づいてくる。やがて、足音の主”たち”が姿を現した。
 八体の変異体。シャチやサメに似た、長い口と顎。
ただし、顔とおぼしき部位は白面の様にまっさらで、目や鼻といった気管は
皆無。四肢は真っ黒で、人型をしている。立てば二メートルは下らない
体躯を中腰に折り曲げ、前傾姿勢で走り寄ってくる。
 床、天井、壁を伝って縦横無尽に走り、彼らは襲いかかってきた。
 栞が、変異体を見るやいなや、叫んだ。
「S・W・O・R・D!」
 栞のアクエリアスは濃緑色のカラーで、まず頭上にはレーダーとセンサーが
集約された半径一メートル大になるリング状の演算素子ユニット。
肩部は大きく丸い半球状の肩当で、腰はスカート状の装甲になっている。
 スカートから、四本の剣――厳密には、全長125cmからなる
ソード状の自律機動兵器が放出された。
 S・W・O・R・D(ソード)と呼ばれるそれは、操者の脳量子波に感応し、
空中機動を行い、遠隔操作で目標を攻撃するEVB−ウェポンの一種だった。
「切り払い、撃ち貫き、此処へ戻れ!」
 <ソード>は栞の命令を受けて飛翔。向かいくる変異体へと”襲いかかった”。
 一つにつき、一体。先端部から発生させたビーム束で、変異体を切り刻み。
剣状の筐体をレール砲身に変形させ、荷電粒子を撃ち放ち。
 四体の変異体をバラバラに引き裂き、ビームの矢で焼き払い、
四本の<ソード>は栞の元へと舞い戻った。

 普通ならば、『普通』の生命体ならば、これで『ケリ』がつく。
だが、『彼ら』にはその常識は通用しない。
 変異体の残った部位や、損傷した箇所が、煮えたぎる湯のように
ブクブクと泡を立て、再生をはじめた。周囲に散らばった変異体の部位も、
本体へと集まり、再結合しようとしている。
 後続の四体が、口を大きく開け、爪をたててミミリめがけ飛びかかってきた。
 女性士官を庇うミミリと、栞の前に颯爽と飛び出してきたヒューケインが
裁断剣を振るい、変異体の一体を叩き落し、切り捨てた。
 それを見た、残りの三体は攻撃をやめ、後ろに飛びずさった。
彼らに襲い掛かる気配はなく、遠巻きにこちらの様子を伺っている。
 ヒューケインの足元で、胴を真っ二つに裂かれて身もだえする変異体。
撃滅するには至っていない。先ほどの変異体とは、体組織の組成が
違うからだ。
 ヒューケインは、再生を始めた変異体を向こうに蹴飛ばして叫んだ。
「栞、弾頭(ガラスの剣)の精錬は!?」
 通常兵器が通用しないアクトゥスゥ変異体を撃滅するに当たり、まずは
体組織と組成成分をスキャンし、解析する必要がある。
そして、解析情報を元にEVB-ウェポンに装填する弾頭――
もといデータを作成(精錬)する。
 どのアクエリアスにも、スキャン機能は実装されているが、
敵個体の差違はあれど、スキャン完了には15〜60秒ほどの時間を要する。
 ただし、金雀枝栞はその例に当てはまらない。
金雀枝属の能力は、『情報処理』と『情報分析』。
演算と、並列情報処理に特化したマジェスター。
専用にインプラントされた演算素子を用い、単体でスパコン並の演算処理速度を誇る。
 栞にかかれば、スキャン完了に要する時間は、わずか――
「1.88セコンド。スキャン完了。弾頭(ガラスの剣)精錬。転送します」
 ヒューケインとミミリのARインフォに、
『Transfer the ballet.Complete.EVB-W Stanby._redy』の文字。
弾頭のデータが送信されたことを報せていた。
 一つの個体に対し、オンリーワン(ただ一つ)の弾丸。
たった一度きりしか有用性を発揮しないが、効果は一撃必殺。
それ故、EVB-ウェポンに装填される弾頭は<ガラスの剣>と呼び名される。

 この短時間、わずか数秒で変異体達は再生を完了させていた。
『ミミ゛ャァァァァァァ--------!』
 猫とも、イルカの鳴き声ともつかない雄たけびを上げ、
変異体達は再び襲い掛かってきた。
四方三メートルの狭い廊下を覆い隠すように、四方八方から。
 その最中。誰よりも早く反応して動いたのは、ミミリだった。
 ミミリは、アクエリアスの腰部装甲スリットから、レイピアタイプの
EVB-ウェポンを引き抜き両手に構え、地を蹴り宙を舞い飛んだ。
 標的とラインが交差する直前で、体を縦軸に捻り回転(アクセル)。
先頭を駆けて跳んで来た二体を宙で薙ぎ払い、着地。
 着地ざま、床を疾駆。
脇をすり抜けようとして来た一体を切り上げ、撃滅。
 ミミリの横目に、黒い影が映り込んだ。
一体が、コンマ秒の時間差で不意を突き、飛び掛ってきた。
「…!?」
 常人ならば、この不意打ちで致命傷を負っていたに違いない。
だが、ミミリはマジェスター。その反応速度は常人の比ではない。
 ――ミミリの体を動かしたのは、体に染み付いた『癖』。
訓練と反復によって培われた一連の動作だった。
 認識。回避。判断。攻撃。着撃!
 陶磁器の表面がひび割れる様な音が響いた。