CROSS 第12話 『救出』
その鈴の音は、向かい側の通路を歩いている「今の看守」が鳴らしていた。ただ、その「今の看守」は、生きた人間ではなく、頭部がタコのような生物に覆われている悪魔だ……。少なくとも友達にしたくないほど、グロテスクな見た目をしている……。
「ヒィ!」
狂ったようにうろたえる元看守。妖夢は、悪魔を黙視しているだけだ。
向かい側の牢屋にいる元所長も、その鈴の音に気づいているようだったが、あきらめた様子で、静かにイスに座り続けていた……。
そのタコ頭の悪魔は、その元所長の牢屋に、鈴を鳴らしながらゆっくり近づいていく。まるで死刑執行人だ。
タコ頭の悪魔は、元所長の牢屋の前まで来ると、右手を特殊バリアの制御パネルの上に乗せた。すると、牢屋の鉄格子を覆っていた特殊バリアが解除された。どうやらタコ頭も、元は妖夢の後ろにいる男と同じ看守だったようだ。頭部のタコが死体を自由に操っているのだろう。そしてタコ頭は、今度はポケットから金属製のカギを取り出し、鉄格子の錠前を開けた。鉄格子がきしみながら開き、きしむ音が妖夢たちの牢屋まで聞こえてきた。
「ワー!!!」
鉄格子が開いた途端、今までイスにじっと座ったままだった元所長が急に立ち上がり、開いた鉄格子に向かって叫びながら突進していった。開いた鉄格子の前にはタコ頭がおり、元所長は強行突破するつもりらしい。
しかし、タコ頭は、元所長に体当たりされる前に、頭部の触手を伸ばして彼を捕まえ、そのまま自分の目の前まで浮かび上がらせた。
石床から身体が離れた元所長は、触手に締めつけられて息苦しそうにしながら、タコ男から離れようと必死に暴れていた……。すると、タコ頭は、突然、元所長の口にキスをするように顔同士をくっつける。その途端、元所長の身体は硬直し、そのままだらんとして動かなくなった。
シュー!!! シュー!!!
どうやらタコ頭は、元所長の血液を養分として吸い取っているようだった……。
「あんな死に方はしたくない!!!」
今まで狼狽え続けていた元看守は、腰からピストルを抜くと、銃口をこめかめにくっつける。
「やめろ!!!」
すぐに妖夢は、元看守が自殺しようとしている気づき、やめさせようとした。
「最後の銃弾はオレに使わせてくれ……」
パァァァン!!!
建物中に1発の銃声が響いた……。銃声がしても、タコ頭は元所長の養分を吸い続けている……。銃声の後、元看守は、頭から血を吹かせながら、冷たい石の床に倒れた……。
妖夢はそのときになって気づいたのだが、牢屋の奥のほうにも、数体の死体が転がっていた……。ほとんど全員が、銃で自殺している……。
作品名:CROSS 第12話 『救出』 作家名:やまさん