CROSS 第12話 『救出』
妖夢は見てはいけないものを見てしまったといった感じで、視線をタコ頭のほうに戻した。ちょうど、タコ頭は吸収を終えたようで、今は干物のようになった元所長の死体をその場に放り捨てた。
次に視線を、吹き抜けの上に広がる空へ向ける。今は昼間のはずだが、霧が厚いせいで、とても薄暗い。
そんな中、向かい側の屋根の上に、人影を見つけた。
屋上にいたのは、山口だった。背中にミサイルランチャーと自動小銃をかつぎ、右手にはスイッチのついた小さなリモコンがある。吹き抜けのフロアごとにも特殊バリアが張られており、屋根から降りられそうになかった。
彼は、妖夢が自分の姿を見つけたことを確認すると、左手を開き、5本、4本とカウントするように指を折り始める。2本になり、彼が後ろに下がっていくと、意味を理解できた妖夢は、近くの柱の陰に隠れた。
ドドドドドーーーン!!!!!!
連続した爆発音とともに、天井の細長い通路部分だけがきれいに床に落下した。ちょうど元所長の牢屋から出てきていたタコ頭が、その天井のガレキの下じきとなった。天井の落下とともに、すさまじい砂ぼこりが、牢屋を覆った。爆発の衝撃や落ちてきたガレキで、吹き抜けのフロアごとに張られていた特殊バリアは、火花を上げて全て停止した。上のフロアの通路は全てガレキと化していた……。
しばらくして、砂ぼこりが少し落ち着いたころ、妖夢が目をこらしてみると、妖夢がいる牢屋の前に山口が立っていた。屋上といっしょに降りてきたらしい。
「ちょっと待っててくれよ」
山口は妖夢の姿を確認すると、くるりと後ろを振り返り、ミサイルランチャーをかつぎ、それを見晴らしがよくなった薄暗い空に向けた。妖夢は服についた砂ぼこりをパンパンと払いながら、山口のミサイルランチャーが向いている方向を見た。
先ほど、妖夢を拉致した2匹のガーゴイルがこちらに向かっていた……。爆発音を聞きつけて戻ってきたようだった。山口は静かにミサイルランチャーをそいつらに向けていた。
2、3秒してから、ミサイルランチャーの6つある発射口のうちの2つから同時に、2発の超小型誘導核ミサイルが推進音を立てながら発射された。ミサイルランチャーの後ろからは、発射に伴う強風が吹き、その風が牢屋に積もり始めていた砂ぼこりを再び巻き上げ、また妖夢の服に降り掛かった……。
ガーゴイルたちは、ミサイルが自分たちに向かっていることに気がつくと、回避飛行を取ろうとした。だが、ミサイルは誘導式で、おまけに高速で飛んできたため、あっという間に命中した。
命中した途端、小さな核爆発が起きた。ガーゴイルの皮膚は高温で焼け爛れ、肉と骨がはがれた……。コウモリのような羽は背中から引き裂かれた……。そして、炭になった状態の2つの焼死体が、殺虫スプレーにやられた小バエのように落下してきた。そのまま、特殊バリアが無くなった吹き抜けを落ちていった。少しして下から、叩きつけられるような音が聞こえてきた……。空から他のガーゴイルが来たり、山口と妖夢以外にそのフロアで動くものはいなかった。
作品名:CROSS 第12話 『救出』 作家名:やまさん