月の子守唄
震える。私の声は、いつのまにか嗚咽に変わっていた。
ああ、溶け出している。そう思った。
明るい、日の上がっている間には気付かなかったもの、気にしていないフリをしていたものが今、浮かび上がってきているんだ。
暗闇はこわい。輪郭線がなくなってしまうから。
電気を消し、カーテンをひいたこの部屋には、隣に置いたデジタル時計の針に塗られた蛍光塗料がわずかに光るだけ。目の前にかざしてみた自分の手のひらでさえ、曖昧にしか映らない。
輪郭線のぼやけた私の中から、押さえ込まれていた感情があふれてくる。
それは、水に落としたインクが広がっていく様子に似ていた。
涙で視界がぼやけていく様に、とてもよく似ていた。
私は泣いていた。はっきりとした理由はわからない。
大勢のなかで守られているようで、実はいつも敏感に「一人」を意識していたからなのかもしれない。
この不安に誰も気づいてくれないからなのかもしれない。そのくせ、絶対に気付かれたくないと思ってしまう臆病さに気付いてしまったからなのかもしれない。
これといった正解を見つけ出せないまま、私は泣いた。
溢れだしては溶けていく感覚に、ただ浸っていたかった。