月の子守唄
どのくらいそうしていたのかはわからない。カーテンから差し込んできた光で暗闇が薄れたことに気が付いた。
泣き疲れた体では腕一本動かすことも億劫だったけど、それでも自然とカーテンをひいていた。
「あ・・・」
雲で隠れていた月が顔を出している。黒の濃淡しかなかった部屋も、青く照らされていた。
月明かりって、こんなに明るいんだ。妙に感心して、そんなことを考えたことがちょっとおかしかった。
へんなの。さっきまで、あんなに泣いてたのに。
暗いだけの夜空にぽっかりと浮かぶ月と、なぜか目が合ったような気がして、思わず笑ってしまった。
「へんなの」
太陽のそれとは比べ物にならないくらい弱弱しい光のはずなのに、こんなに「照らされている」という感覚になったのは初めてだ。
今、この月を見上げた人って、どれくらいいるんだろう。
ふと、そんなことが気になった。
その人はやっぱり、きれいな光だと思ったのかな。これなら明日も晴れだなって思ったのかな。月に住んでるうさぎを目で追ったりしてるのかな。
顔も名前も知らない、いるかどうかもわからないたくさんの人たちと同じものを見上げた感覚に、息を漏らした。
あ、こんなに人がいるんだ。
私と同じように、月と目が合った人が。
それは人の群れを見せつけられるよりもずっと、多くの息遣いを感じた。
一人じゃないよって言われるより、たしかなぬくもりとなって体に沁みた。
手を差し伸べてくれるわけじゃないけど、こうして光を届けてくれている。
私と同じような焦りを感じたり、掴みどころのない不安に震えたりしている人たちを、こうやって照らしているんだ。
拾い損ねてしまいそうな、このかすかな子守唄にあやされて、私は瞼を閉じた。
おやすみ。眠りにつく寸前に、そんな声を聞いた気がした。