小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

いつもアナタのすぐ後ろっ!

INDEX|2ページ/4ページ|

次のページ前のページ
 


始まりは唐突に、何の前触れもなく訪れた。

いつも通りの色の無い日常、色彩の欠けた日々。

私は桜井和歌、まだまだ子供の十六歳。
都内にある、割といい高校に通う高校生。

嫉妬することは罪だと思う。
でも、必ずしも嫉妬する側だけが悪いとは思わない、だって世界はいつも不条理だもの。

だからと言って、世界に対してちっぽけな私が出来ることなんて何一つ無い、あるがままの現実を受け入れるしかない粗末なイレモノ。

そんな世界に嫌気が差し、死にかけたことは何度もある。
手首を切った、首を括った、ビルの屋上から飛び降りようとしたこともあった、
結局全部兄貴に止められたけれど。

兄貴、私に残された最後の家族。
私に両親はいない。
とても真面目で勤勉だったサラリーマンの父は、会社の経営破綻により退職を余儀なくされ、再就職先を探すもうまくいかずに、次第に酒に溺れていった。
元来、仕事の付き合い以外では全く酒を飲まなかったことが祟ってか、一度酒に呑まれた父はガラリと変わってしまった。
平気で家族を殴りつけ、罵詈雑言を浴びせ、あくまで自分は悪くない、国が悪いと言い張る姿なんか今までの父とは変わりきっていた。
挙句、母は私たちを置き去りに蒸発し、父は急性アルコール中毒により死んでしまった。
これが、私が小学生のころの話、
それからは兄と二人、親戚の家に肩身の狭い思いをしながら暮らしていた。

兄貴はなんでも出来た、人付き合いから、勉強、スポーツ、家事にバイト……。
完璧超人のような兄貴を持った私は、常に劣等感に悩まされ続けていた。
兄貴と比べられるのが辛かった、同じ親から産まれた兄貴には出来るのに私には出来ないことが悔しかった、なによりそんな兄貴に嫉妬と恨みを持っている私自身がイヤだった。

そして、才能もない愚図な私は常に“高校”という舞台で脇役だった。なんでも出来る人間を羨み、妬み、ただ羨むだけで努力もしない哀れな脇役A(モブ)、リーダー格の存在の腰巾着になり、ただ中心人物を引き立て、媚び諂い、時には誰かの指示でダレかをいじめる、そんな生産性の無い日々を疎ましく感じ、私はその輪 から離れた。

そこからは、単純だ。輪を外れた者に向けられるモノは何も無かった、無視、シカト。最も安直で、最も残酷な仕打ち。

まるで自分は誰にも認識されてないのでは無いか、自分はどこにもいないのではないか?語りかけても誰も応えてくれず、皮肉にも、時おり聴こえる私に対しての冷めた嘲笑だけが自らが世界にいると知覚出来る唯一の材料であった。

私はこんな残酷な事を平気でしていたのかと気付き、罪悪感に包まれ、この仕打ちを甘んじて受け入れることこそが贖罪と信じて、無視される日々を甘んじて受容し続けた。

しかし、ある時から私は自分の心が壊れ始めていることに気が付いた、そして、人の温かみを忘れてしまっていることに恐怖した。

きっかけはなんだったのかは分からない、ただ気づいた時には私は日々を惰性で過ごしていって、死という終わりだけを目標に生きているような気がしてならなかった。

世界が、私を必要としていないような気がしてならなかった。
生きていては行けないのだ、そう思い私は死を渇望した。

兄貴に止められないように学校を途中で抜け出し、踏切に向かっていった。

学校から近くの踏切、普段は遠方から学校に通ってくる学生しか使わない寂れた田舎の電車、もちろん学校のあっているこの時間に人などいない。

「……もうすぐ、ラクになれるかな…」

誰にともなくポツリと呟く、もちろん返事なんかある訳もなく、ただ澄み渡る青空に吸い込まれていったかのように私の独白は消えていった。

「…………」

一人、誰にも看取られる事もなく死ぬのか。
それはそれで悲しいもののような気がしたが、元より人は一人だ、ただ似たような者同士で群れてその事実を忘れようとしているだけであって。

ザッ、

「…………?」

砂を踏みしめるような音が聞こえ、後ろを振り返る。

「……………」

そこには二十歳前後のように見える青年がいた。
背は高く、体格もいい、顔は割と整っている方だと思う、髪はぼさぼさ、無造作なのか単に面倒だからセットしていないのかは分からない。
そんなことよりも、珍しい、こんなところにこんな時間にいるということが。

「………なぁ」

私がその人を見ていると、彼が唐突に口を開いた。

「…………ぇ?」

「なんで渡らないんだ?」

「………っ…」

そうか、遮断機も上がっている踏切に立ち止まっている姿はおかしかった。

「まるで自殺しようと待っているみたいだ」

「……っ!」

まさにその通りであるから何も言えない。

「……ぁ? マジか?」

「………っ……」

驚いたように呟く彼に対して、私は唇を噛みながら俯く。

カンカンカン………

間のいい事にサイレンが鳴り出し、遮断機が降り始めた。