いつもアナタのすぐ後ろっ!
怠惰は罪だ。
世界というものは大きな時計の様なもの、数多ある歯車の一つでも動きを止まれば時計は止まってしまう。つまりは誰かが怠け、前へ進むことを止めてしまったら世界は止まってしまう。しかし、世界も時計も同じ、動かないモノは治すか、新しいモノに取り替えて、使えない物は唾棄される。こうして世界は絶えず動いているのだ。
「………あぁ……」
体が重い、ありとあらゆる重さが自分に掛かっているのではないかと錯覚するような、そんな重たさ。
その癖、どうしょうもない虚無感に苛まれるのだ。
あの日から、ずっと。
全てを手に入れたと錯覚していた自分は、何も手に入れて無かったのだと思い知らされたあの日。
信じていたモノが、いかに呆気ないものだったのかを知ったあの日。
「………あぁ……」
そして何より、この目はもう治らないのだと言われたあの日。
俺は、生きる意味を失った。
俺は日野一(かず)、今年十九になったばかりのフリーター。
本当は新卒で就職していたのだが今ではバイト生活。
両親は小さい頃に交通事故で早くに亡くなっていて、三つ違いの妹が一人、両親の残した貯金と、事故を起こした加害者の家族から毎月送られてくる慰謝料でどうにかこうにか生活している。
また、高校生の頃の俺はちょっとした有名人だった。天才、神童、そんな風に呼ばれたことも度々、それはひとえに俺の画才ゆえ。
小さい頃から芸術というものに興味のあった俺は、高身長で運動も人並みに出来たのだが、運動部には入らず、文化部である美術部に入った。最初は拙い物だったが、絵を描く内にみるみる俺は絵が上手くなってきた。これは驕りではなく事実。それはしょっちゅう出展していた高校生の作品展での評価からも明らかだった、作品を出せば必ず入選ないし特選。もはや"日野一"という一つのブランドのように周りから持て囃された。
傲慢は罪だ。
今思えば天罰だったのかも知れない、俺は周りからの評価や称賛、尊敬の眼差しを受けるため絵を描き続け、出展し得意気に表彰された。周りの生徒を一段高みから見下ろし、あまつさえ拍手を受ける、そんな周りとは明らかに違う、才能の差を感じることがたまらなく快感だった。
しかし、そんな生活は突然終わりを迎えた。いつも通りの朝、妹の作る朝食を食べ、支度をして学校に向かおうとしたそんな時、俺は突然の強烈な眼球の痛みに倒れこんだ。
すぐさま病院に運ばれた俺は原因不明の視覚異常だと告げられた。
その瞬間、文字通り世界が歪んで見えた。
今までは脳が無意識にその現実を受け入れないようにしていたのだと医者は語り、通常なら生活など行えない程の眼のダメージを負っていたらしい。
だが、そんなことはどうでも良かった、視界に映るモノは時おり歪に形を変える、色彩が安定せず、混沌と映る。
あぁ、もう絵は描けない。俺はそう悟った。
そうなると後は単純であった。絵を描くことが全てだった俺は生きる意味を失い、周りは手の平を返したように俺を見向きもしなかった、当たり前だ。常に高みにいると驕っていた俺は日頃から他者を見下していた、今まであった友人関係は全て切れ、孤独となった。
不毛な高校生活が終わった俺に待っていたのは社会の、ひいては世界の現実だった。
就職した会社には試用期間中に、病気を理由に解雇され、再就職を、と受けた会社には前の会社をすぐに辞めたという理由で落とされ続けた。
結果として、人脈も無い俺はフリーター生活を選ばざるを得なかった。
「…………」
だが俺は安直な死を選ばない。
自殺は"逃げ"だ、そして生者への冒涜だ。俺よりも不幸な境遇の人はこの世界にごまんといる。明日を生きられない人間もいる。そんな中、明日を生きられるだけの環境にいて明日を生きない、これは生への怠慢にしかあらず、それだけのツマラナイ人間で、それだけの価値しかない人生だったに過ぎない、俺はそう考える。
だから、だったのかも知れない、あの時あんなコトをしてしまったのは。
世界というものは大きな時計の様なもの、数多ある歯車の一つでも動きを止まれば時計は止まってしまう。つまりは誰かが怠け、前へ進むことを止めてしまったら世界は止まってしまう。しかし、世界も時計も同じ、動かないモノは治すか、新しいモノに取り替えて、使えない物は唾棄される。こうして世界は絶えず動いているのだ。
「………あぁ……」
体が重い、ありとあらゆる重さが自分に掛かっているのではないかと錯覚するような、そんな重たさ。
その癖、どうしょうもない虚無感に苛まれるのだ。
あの日から、ずっと。
全てを手に入れたと錯覚していた自分は、何も手に入れて無かったのだと思い知らされたあの日。
信じていたモノが、いかに呆気ないものだったのかを知ったあの日。
「………あぁ……」
そして何より、この目はもう治らないのだと言われたあの日。
俺は、生きる意味を失った。
俺は日野一(かず)、今年十九になったばかりのフリーター。
本当は新卒で就職していたのだが今ではバイト生活。
両親は小さい頃に交通事故で早くに亡くなっていて、三つ違いの妹が一人、両親の残した貯金と、事故を起こした加害者の家族から毎月送られてくる慰謝料でどうにかこうにか生活している。
また、高校生の頃の俺はちょっとした有名人だった。天才、神童、そんな風に呼ばれたことも度々、それはひとえに俺の画才ゆえ。
小さい頃から芸術というものに興味のあった俺は、高身長で運動も人並みに出来たのだが、運動部には入らず、文化部である美術部に入った。最初は拙い物だったが、絵を描く内にみるみる俺は絵が上手くなってきた。これは驕りではなく事実。それはしょっちゅう出展していた高校生の作品展での評価からも明らかだった、作品を出せば必ず入選ないし特選。もはや"日野一"という一つのブランドのように周りから持て囃された。
傲慢は罪だ。
今思えば天罰だったのかも知れない、俺は周りからの評価や称賛、尊敬の眼差しを受けるため絵を描き続け、出展し得意気に表彰された。周りの生徒を一段高みから見下ろし、あまつさえ拍手を受ける、そんな周りとは明らかに違う、才能の差を感じることがたまらなく快感だった。
しかし、そんな生活は突然終わりを迎えた。いつも通りの朝、妹の作る朝食を食べ、支度をして学校に向かおうとしたそんな時、俺は突然の強烈な眼球の痛みに倒れこんだ。
すぐさま病院に運ばれた俺は原因不明の視覚異常だと告げられた。
その瞬間、文字通り世界が歪んで見えた。
今までは脳が無意識にその現実を受け入れないようにしていたのだと医者は語り、通常なら生活など行えない程の眼のダメージを負っていたらしい。
だが、そんなことはどうでも良かった、視界に映るモノは時おり歪に形を変える、色彩が安定せず、混沌と映る。
あぁ、もう絵は描けない。俺はそう悟った。
そうなると後は単純であった。絵を描くことが全てだった俺は生きる意味を失い、周りは手の平を返したように俺を見向きもしなかった、当たり前だ。常に高みにいると驕っていた俺は日頃から他者を見下していた、今まであった友人関係は全て切れ、孤独となった。
不毛な高校生活が終わった俺に待っていたのは社会の、ひいては世界の現実だった。
就職した会社には試用期間中に、病気を理由に解雇され、再就職を、と受けた会社には前の会社をすぐに辞めたという理由で落とされ続けた。
結果として、人脈も無い俺はフリーター生活を選ばざるを得なかった。
「…………」
だが俺は安直な死を選ばない。
自殺は"逃げ"だ、そして生者への冒涜だ。俺よりも不幸な境遇の人はこの世界にごまんといる。明日を生きられない人間もいる。そんな中、明日を生きられるだけの環境にいて明日を生きない、これは生への怠慢にしかあらず、それだけのツマラナイ人間で、それだけの価値しかない人生だったに過ぎない、俺はそう考える。
だから、だったのかも知れない、あの時あんなコトをしてしまったのは。
作品名:いつもアナタのすぐ後ろっ! 作家名:羽織