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看護師の不思議な体験談 其の十六

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「…」
 驚いて声が出ない。鍵、閉められたよね、今。
 裏口の扉一枚をへだてて、内側に警備員。外側に私と酔っ払い。
 …外側に、私と酔っ払い。

(えええっ…、な、何で…)
 裏口は、強化ガラスのようになっているのだが、その内側であの警備員がガラス越しに私を見て、『コクリ』と頷いた。
(コクリ、じゃないよ!)
 酔っ払いの男は真っ赤な顔でニヤニヤしている。
 もう一度見ると、警備員はいない。
 『私は、病院の安全のために職務を果たした』みたいな感じ??
 『そのためには一人の犠牲は仕様の無いことだ』みたいな感じ??
(冗談じゃない!)
「あらあらぁ、中にぃ、入れなかったよう…」
 酔っ払いがジリジリ迫ってくる。
 日中ならもう少し強気でいけたかもしれないが、真っ暗闇の中、大柄な中年の酔っ払いが近づいて来る恐怖といったら、もう。
(バイクのとこまで逃げれるかな…)
(いや、エンジンかけてる間に追いつかれちゃうし…)

 なんて考えながら後ずさりすると、男に突然腕をつかまれた。
「…痛っ!」
 こちらが怯えるほど、向こうは調子に乗って息を荒くし始める。男は呂律の回らない口で、モゴモゴと何かつぶやいている。
(やばい、やばい、どうしよう…!)
 叫びたいのに声が出ない。
 逃げようと腕を引っ込めようとしたが、逆につかまれた腕の痛みが強くなる。男の指が、腕に食い込む。
(誰か…!)