看護師の不思議な体験談 其の十六
慌てて、裏口のインターフォンを押した。そうすると、警備員のおじさんが駆けつけてくれることになっている。
1分と経たず、警備員がやってくる。薄い頭にヒョロヒョロした体。正直いつもは全く頼りにしていないのだが、走って来るその姿は、この瞬間だけは神様のように思えた。
「警備員さん、助けて!」
目の前の男の口からは、ハアハアとお酒の臭いが吐き出される。
(うえ、気持ち悪い…)
警備員は、その場に到着した途端、状況を察したようだった。
騒ぎにならないよう、穏やかな口調で男をなだめる警備員。上手く誘導し、裏口の外へと一歩連れ出した。
(さすが!頼りになるじゃん!)
そう思っていると、警備員は男を押さえながら、小声で私につぶやいた。
「バイクでしょ。早く、今のうちに帰りなさい。」
「は、はい!」
(いつも頼りないなんて、思っててごめんなさい!)
(めっちゃかっこ良く見えます!)
ぺこっと頭を下げて、もつれ合う二人の後ろをゆっくり通り過ぎた。
その瞬間。本当に、病院から一歩外に出たその瞬間。
『ガチャリ!』
聞きなれた音に驚いて振り返った。
作品名:看護師の不思議な体験談 其の十六 作家名:柊 恵二