看護師の不思議な体験談 其の十六
時計は1時30分。更衣室で、仕事のグチを言い合いながら着替える。タクシーで帰るスタッフは正面入り口へ、バイクで帰る私は駐輪場へ行くため裏口へと分かれた。
(外は寒いんだろうな…)
裏口から出ようと、マスターキーで鍵を開けると同時に、勝手に扉が開いた。
(あら?)
と、思った瞬間、冷たい風がびゅうっと入り込む。目を開くと、目の前に、大柄の男が扉から入り込むところだった。
「えっ…」
男は50代くらいだろうか。焦点が合わず、明らかに酔っ払っている。
(わあっ、まずい!)
鍵を開けるときは、注意しないと、こういう人が入れ替わりで入る可能性がある。…って、分かってたのに!
「…頭が痛いからねぇ、ヒック。お医者さんは、どこでぇすかぁ…。」
ふらつきながらも、病院内へ押し入ってくる男。
「夜だから、診察はないですよ。」
(本当に診てもらいたいんだったら、当番医へ行ってちょうだい!)
男を押し返そうとしたが、帰る気配はない。それどころか、少しずつ病院内へ入り込む。
私一人の力じゃ、動かせない。
作品名:看護師の不思議な体験談 其の十六 作家名:柊 恵二