小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

海竜王 霆雷3

INDEX|2ページ/3ページ|

次のページ前のページ
 

「また、酷いことをおっしゃいませんか。」
「今のところは言わない。」
「私は、あなたを殺したくありません。」
「いや、殺すっていうんじゃなくて、この世界から消滅させてくれればいいんだけどな。」
「それを殺すというのではありませんか? 」
「・・・うーん・・・殺すっていうのは、もっと、こう、血がどばぁーっと出て、なんていうか、もがき苦しんでくみたいな? もんだろ? そういうのじゃない。」
「なぜ、消えたいのですか? 」
「生きてる目的がないっていうか、俺には、なんかが欠落しているみたいだ。だから、もう終ってもいいかな、と、思うんだよ。あんたぐらいの力があったら、簡単にやってくれそうだし、それなりに抵抗して、あんたを楽しませるつもりもあるから、それではダメかな? ああ、なんなら、俺の財産を引き継いでくれるか? 結構あるから、遊んで暮らせるぞ。あんたの好きなコスプレの衣装だって、一杯買えるしさ。どう? 」
「はあ? 」
 彼女は、俺の言葉に首を捻った。何か話が噛みあわないものがあると、思っていたが、何かが違うらしい。
 ちっちちち・・と、鳥の鳴き声が聞こえて、本格的に朝が来た。これといって用事はないが、いつまでも床に転がっているのも、どうだろうと思う。それに、空腹だ。あれだけ、力を使うと、やっぱり、腹は減る。
「腹は減らない? 」
「うーん、少し。」
「なら、メシ食おう。パンとジュースくらいしかないけど、それでいいか? あんた、作れるなら、冷蔵庫の中を適当に使ってくれてもいい。」
「作ったことがありません。」
「へ? 」
「作ってくださるのなら、いただきます。」
「・・あ・・そう。わかった。じゃあ、とりあえず、一時休戦な。手を離してくれ。それから、あんた、顔が腫れてるから顔を洗ってこい。タオルとかは洗面所にあるから、適当にしてくれていい。なんなら、シャワーも浴びるか? 」
「そうですね。消えてしまわれないのなら、水浴びさせていただきたいです。」
「うち、温水ぐらいは出るよ。じゃあ、案内する。」
 やっぱり噛みあわない会話だが、意思疎通はできた。一体、この女、どんな生活してるんだろうと思いながら、洗面所へ案内して、シャワーの説明をして出て来た。なんていうんだろう。おかしな女だ。まあ、いいさ、消してくれる相手だっていうなら、多少、変わっていてもいいだろう。
 冷凍していた食パンを、そのまんま、トースターに突っ込んだ。やっぱり、それだけっていうのも、足りないので、目玉焼きと、レタスを千切っただけのサラダも追加した。この家には、適度に食材が配達される。基本的には、レトルトが多いのだが、多少の生ものもある。ついでに、冷凍のポテトサラダも解凍した。
・・・うーん、消えるなら、この食材も、どうにかしないとな・・・・あと、弁護士にも連絡しておかないと・・・
 そんなことを考えていたら、女が、着ていたのとは違う、でも、やっぱり妙ちきりんな服で現れた。どこから、それを用意したんだか・・と、思ったが、そういうことができる能力もあるのかもしれないと、それは無視した。
「好き嫌いは? 」
「さあ? 食べてみないことには、わかりません。こちらの食事は、したことがありませんから。」
「ん? まだ、マイ設定なのか? 」
「その『まいせってい』というのは、何のことか説明していただけないでしょうか? 私には、わかりかねる言葉なのです。」
 コスプレヤーが、その服装に合わせた設定で、自分を語ることを、『マイ設定』という。つまり、仮想現実の自分を演じることだ。本来の現実の自分では有り得ない設定だと、説明したら、彼女は、「私は演じてなどおりません。全て現実の私です。」 と、言う。
「その衣装もか? 」
 ひらひらとした薄い布でできた服は、着物とは違うが、それに近いものだ。アジア圏の民族衣装というものだろうとは思っていたのだが、それが、現実だとしたら、こいつ、本当におかしな人間だろう。
「はい、これは、普段着です。昨日、着ていたのは外出着です。珍しいのですか? 」
 別段、驚いた様子もなく、彼女は、袖を持ち上げて、自分の服を見ている。いや、おかしいだろう、確実に、と、俺は内心で呟いた。この国が、アジアの国と統合されて、異民族が混じるようになった昨今でも、こんな衣装の人間は見たことがない。
「珍しい部類じゃないか。俺は、初めて見た。」
「そうですか。こちらは、洋装が標準服でしたね。でも、手持ちがございませんから、これで。」
「・・・まあ、いいや。とりあえず、食えそうなものを食ってくれ。」
「作られたのですか? 」
「作るってほど大袈裟じゃないよ。そこのポテトサラダは、レトルトだし、後は焼いたり千切ったりしただけだ。」
 彼女は、俺の説明を聞いて、へぇーという顔をしてから、箸を取った。そして、おもむろに、ポテトサラダに箸をつけた。もぐもぐと食べて、「あっさりしていて美味ですね。少し薬品の匂いがするのが、こちら風なのでしょうか。」 と、感想を述べた。俺は感じないが、確かに保存料や香料が入っているはずだから、薬品の匂いがするのかもしれない。もう、いいや、と、俺もパンに齧りつく。物足りなくて、マヨネーズを絞ったら、彼女は、「それもつけるものですか? 」 と、自分のパンを差し出した。
「ああ、俺は、マヨラーだからさ。あんたもやってみる? 」
「マヨラーとは? 」
「このマヨネーズが好きなんだ。」
「では、試してみます。」
 ちょっとだけ、マヨネーズを絞って、パンに齧りついた。けど、「少し濃いので、私には、まよらーという属性はないようです。」 と、顰めた顔で言った。初めて食べた感想としてはおもしろかったので、俺は笑った。しばらく、無言で、ふたりして食事をした。それから、皿を綺麗に平らげて、ようやく顔を上げたら、彼女も、食べ終わっていた。
「そういや、あんたさ。名前は? 」
「お聞きになりたいのなら、あなたから、ご自分の姓名を名乗られるのが作法です。」
「俺か? 俺、元田中彰哉で、今は、月灘彰哉(つきなだ・あきや)だ。」
「元というのは? 」
「この家の養子になったからだ。あんたは? 」
「傲美愛(あお・めいあい)です。」
「あおが苗字で、めいあいが名前? 」
「はい。」
「変わった名前だな。」
「こちらでは珍しいでしょうね。傲の名前は、竜族の長の血縁者のみに許されているものですから、こちらにはないものだと思います。」
「また、それか? 竜族って言うなら、あんたは、ドラゴンってことになる。変身できるわけ? 」
「できますよ。ただ、ここでは、狭すぎて家を破壊してしまうから、姿を見たいと申されるなら、あの浜辺ででも変わってさしあげます。」
 本気なのか冗談なのか、彼女は、オレンジジュースを飲みつつ微笑んでいた。本気なら、日中はまずいだろう。いきなり、そんなもんが出現したら、パニックになるはずだ。
「それは、今はまずい。それより、時間とかはいいのか? 」
「別に予定はございません。・・・あなたは? 」
「俺もないよ。あんたが消してくれるなら、俺は、今からちょっと手続きしたいことがあるってぐらいだ。」
作品名:海竜王 霆雷3 作家名:篠義