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海竜王 霆雷3

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義理の父親が説明してくれたことに、なるほど、と、俺は納得した。この国の体制は、やっぱり家族が基本なのだと言う。
「考えてもごらん。私たちは、人工的に生産されている人間だ。だから、愛情も財産も、何も持ち合わせずに社会へと放り出される。そして、それから真面目に働いたとしても、生涯賃金なんて、たかがしれている。家族という単位の中に生まれた人間は、最初から愛情と、それなりの財産を持っているというのにね。・・・つまり、我々は、その家族単位の人間を維持するために作り出される働き蜂みたいなものだということだ。」
 人工的に作られる人間というのは、前年の出生数によって導き出される。毎年、同数になるように生み出されているのだ。それらが、無事に成長して、社会を支えるのに必要な定数となるように、ある程度の予備数を含ませてもあった。つまり、成人するまでに、病死や事故など、なんらかの事態で定数に欠落しないようになっている。それらが、働いて、税金や保険を納めていけば、年寄りたちの年金や社会保護を、きっちりと賄えるように設定されているのだ。
「つまりさ。私たちは、国が必要とする資金を稼ぎ出すために生産される部品みたいなものだ。だから、私は養子を迎えたんだ。私のように、人工的に生み出された子供に、愛情は与えられなくても、財産だけは与えてやりたいと思った。そうでないと、私の財産は国に没収されて、また、家族単位で生きている人間のための肥やしにされるんだ。」
 確かに、義理の父親が言うことは、もっともだった。元から財産があれば、ある程度、自分の学歴や職業を選ぶことができる。それがなければ、国から与えられる仕事に就くしかない。適性検査で振り分けられてしまう俺たちは、基本的に、そういう自由は少ない。
「きみのファイルを見た時に、ピンときた。だから、きみに遺すことにしたんだ。だから、きみは、好きに生きればいい。できれば、きみも、私のように、人工的に生み出された人間に、残ったものを渡してやって欲しい。もし、途中で、消えたいと思ったら、国に関係のない機関へ全額寄付してくれてもいい。」
 とりあえず、遺される財産を没収されることだけは避けて欲しい、と、義理の父親は依頼した。それ以外に、何の強制も受けなかった。
 義理の父親が亡くなって、好きにしていいといわれても、何もする気になれなかった。元々、知り合いなんていないし、今更、勉学に熱中するということもない。働くには、年齢が達していなかったから、屋敷で通信教育だけは受けていた。
・・・もう、ちょっと、熱意のあるヤツを選べよ、親父・・・・
 全てが自分のものになってから、つくづくと、自分の無気力さに笑った。あと、四年は働けない。いや、別に働く必要もない。受け継いだ財産は、義理の父親が一代で築き上げたものだが、かなりのものだったからだ。



 俺には、他人にはない能力があった。義理の父親は、それに気付いていたし、理解もしてくれていた。ただし、それは、小さい頃の能力値のままにしか登録されてはいない。もし、本当の能力値を検出されていたら、国家機関に引き取られて、まったく別の人生を送らされていただろう。たまに、そういうのが、人工的に生み出される人間には混じっているらしい。
 他人に知られると面倒だから、普段は使っていない。たまに、試すために、新月の夜に空へ登ってみたりはしていた。落ちてもいいように、海の上で、ふわりと浮かび上がる。これを活かせるものがあればいいな、と、俺は思ってもいた。ただし、人間の奉仕のためとかではない。自分が必要だと思う時に使えればいいという程度のことだった。

 そして、その機会は存外早くやってきた。屋敷で、海岸にものすごい力を感じたのだ。とんでもない熱量だった。自分と同じものがいるのだと、嬉しくなった。けど、それは、敵かもしれないから用心はした。海岸には、結界があったが、すんなりと通れた。そこにいたのは、妙ちきりんな格好をした女だったから、なんだか、拍子抜けした。もっと、なんていうか、神々しいものとかを想像していたからだ。こんなふうに力を噴出させる相手なんだから、変わっているのかもしれない。声をかけたら、やっぱり変わっていた。いきなり攻撃してくるとは思わなかった。だが、その熱量には惹かれた。この力を叩きつけてくれたら、俺は跡形も無く消えることができるだろう。そう思うと、今までの無気力が嘘のように、対抗したくなった。だが、そこで、義理の父親の言葉を思い出して慌てた。このまま消えてしまうと、財産が没収される。それだけは回避しなければならない。一時休戦を申し入れて、家に戻った。
 すると、女はついてきて、「殺されたいのか? 」 と、俺に尋ねた。
・・・殺されるっていうか、存在そのものを、この世界から抹消してほしい・・・
 俺という人間が減ったとしても、それは予定数に入っているだろうから、問題はない。ただ、食べて寝て働いて、という一連の生活が苦痛だと思っていたからだ。
 すると、女は、「イヤだっっ。」 と、泣き喚いて、俺の左手首を捉まえて、パソコンから引き剥がした。何をどうしたのか、わからないが、盛大に泣かれて、往生した。あの勢いのままなら、確実にやってくれたはずなのに、殺人はイヤだとか言いやがる。それも、俺の手首を掴んだままだ。しばらくは、宥めたりしたが、それも飽きて、冷蔵庫から能力で水とセロリとマヨネーズを取り出して、自分の手元に運んだ。それらを、ぱりぱりと食べていて、ふと気付いた。
・・・親父、あんた、予知能力があったな・・・・
 おかしなことを言うなあ、と、あの時は、それだけしか思わなかった。だいたい、健康良好な俺に向かって、「消えることがあったら・・」 なんて言うのが、そもそもおかしい。けっして、生き急ぐタイプでもない俺に向けた言葉にしては、あれは最高におかしかったのだ。それを思い出して、なんだか笑えた。俺には見えていない未来が、あの義理の父親には見通せていたのかもしれない。だから、あの言葉だったのだ。
 この出逢いを、義理の父親は知っていたとしたら、やっぱり、俺は、このおかしな女に消されるらしい。やっぱり、寄付しとくべきだ。と、思ったが、ぐすぐすと泣いている女の手を払えなかった。こんな年齢の女が泣いているのは、テレビでしかお目にかかったことが無い。それに、こんなふうに強く力を込めて、手首を握られたことも無い。
・・・とりあえず泣き止んでくれ・・・話は、それからだ・・・・
 ごろりと床に寝転んだが、女は気付いた様子もない。だから、そのまんま、その泣き声を聞きながら、俺はゆっくりと眠りに引き込まれた。





 泣き声が聞こえないな、と、ぼんやりと目を開けたら、夜は明けていた。だが、手首には温度があったから、目を開いたら、女が、ぼんやりと、俺の顔を見ていた。
「ようやく、泣き止んだのか? いきなり、なんなんだよ。」
「・・わかりません・・・」
「また、それか。まあ、いいや。・・あんた、仕事は? それに、家族は? 」
「ありません。」
「なんだ、俺と一緒か。とりあえず、手を離せよ。」
「イヤです。」
「このまま、こうやってても仕方ないだろ? 」
作品名:海竜王 霆雷3 作家名:篠義