神社奇譚 2-1 周り講
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1月14日は、ここ数年、大抵会社を休ませられる。
冬場にあまり集中した仕事が無い事もあって、
その日はだいたいすんなりと休むことが出来た。
朝から納札所に納められたお札とか、松飾りなどを駐車場に出して山と積む。
午後になってから、左義長の御祭を宮司が執り行い
忌み火を持ちて、この山に点火する。
歳神様をお見送りする祭りであり、
子供の書いた書初めを燃やして高く飛べば文字の上達に繋がる
というお祭りであり、この火を利用して団子などを焼いて食べることによって本年の無病息災を祈願する祭りでもある。
寒い時期のお祭りでもあり、火が高々と燃え上がるだけで人が寄ってくる。時間的に午後でもあり、学校帰りの少年達や、保育所の子供達も多い。
午後から、<周り講>のメンバーたちが社務所に集まってきた。
信行さんと春彦さんが当番ということもあって、先頭に上がりこんで
弁当を持ち込み、酒を振舞い、最後の<講>を始めた。
口々に、「お稲荷様のお蔭で・・」とか「地鎮講の掟のおかげで・・」とか話されていて、皆深々とお祈りをした。
そして宮司により拝殿で神上がりの儀式と廃祀の御祭りを執り行った。
それが終わると左義長祭を執り行い、宮司は堆く積まれたお札や松飾の山に火をつけると、講のメンバーたちは皆で<周り講>を炎の中に投げ入れた。
目の前で「歴史」が燃えてゆく。
目の前で「歴史的な偉大な」なにかが燃えてゆく。
燃え立つ炎の周りを宮司がゆっくりと、大祓詞を奏上しながら廻ってゆく。
炎はより大きくなり<周り講>の箱を焼いていった。
なにか目頭を熱くしていると春彦さんと信行さんが、酒を注いでくれた。
「ぉう、迷惑かけたな、いろいろ走り回ってくれたらしいじゃないか。」
「ええ・・でも、御力にはなれなくて。」
「なにいってんだ、良くしてくれたさ。
おまえさんの残してくれたDVDのデータ、アレだけが残っててくれりゃぁいいんだよ。さすがに全部をふっ消すのは、忍びがたかったからさぁ。
特に写真な、俺の婆様たちの写真とかな。アレを残してくれたのは嬉しかったなぁ」
「そうだな。あとの箱は・・いいんだよ。あんなのは・・。」
「あんなのって・・・」意外にぞんざいな物言いに驚いていると
春彦さんが、したり顔で私の顔を覗き込んだ。
「ウチにはもっと古いのがゴロゴロしてるからよォ・・」
にやりと笑うと、酒を酌み交わした。
<周り講>は終焉を迎えたが、人智を超越したような先祖の企みの一端は
いまだ、蔵の中に残されているようだ。
作品名:神社奇譚 2-1 周り講 作家名:平岩隆