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しっぽ物語 5.眠りの森の美女

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 少し薄くなりつつある頭頂部ががくがくと揺れる様を、手にしたスコッチのグラスのせいだと確認してから、今度は大人しくカードを配り続けるディーラーに目を向ける。黙って話を聞いているのは及第点。去年入ったばかりの新米にしては礼儀をわきまえている。好感を持った。もう少し上手く話をかわせるようになれば言うこと無しだが、それはおいおい経験を積ませていくしかない。
 早足でバーに向かい、カウンターの中に入る。心得た顔で、バーテンダーは身を脇に避けた。引っ掛けてあるレシーバーを取り上げ、スイッチを入れる前にオーク材の天板を見下ろす。
「グラスは客が帰ったらすぐに引き上げろ。それに少しでも傷がついたら、すぐに交換しろと」
 口紅のべっとりついたショットグラスを示せば、バーテンは素直に頷いて新聞紙に包み、ゴミ箱に放り込んだ。
「あと、分別回収も」
 場内放送をかけ、いつもの合図を出す。
「BJ6、ソーン氏。今すぐ本部に」
 警備員が6番テーブルに集結するまで、Cはカウンターに手をついたまま、顔を動かそうとはしなかった。わざと穏便な警備班を派遣したのは、素人であるが故の慈悲だった。一体何が悲しいのかは分からなかったが、おそらくあの男は宥めすかされ、大人しくホテルの部屋に帰ることだろう。涙の続きはベッドで流すがいい。入り口まで付き添うようにとの指示が、先ほどの言葉にはしっかりと含まれている。
 しかし、この程度のことすら自分の裁量で出来ないとは。ピット・ボスの怯えた目を思い出し、Cはため息をついた。降格も考えなければ。昇格時の輝くような表情を知っているだけに、気は重かったが、仕方ない。自分がオーナーになった暁には、大幅な人員削減と増員の必要が。
 

 コンプ扱いの銀行家に笑顔で会釈し、スタッフオンリーと看板の出たドアをくぐる。先ほどから鳴り続けている携帯電話をやっと取り上げることができた。
 電話の向こうからは、妹を身売りに出し宣伝広報部の管理職に収まったGの低い声が響いてきた。
「悪いんだが、病院へ行ってくれないか」
 まだ動き続ける扉に掌を押し付けながら、Cは一気に高まった鼓動をかろうじて抑えることに成功した。
「見舞いですね」
「ああ」
「いつですか」
「出来るだけ早く」