miscellany
鳥になった少年
(※死ネタ注意)
屋上のドアを開けて、俺は広い空の下に出る。今朝、手紙を受け取った。
手紙の主は今、フェンスの向こうで笑っている。
「何だよ話って」
「うん……。あのさ、」
それきり言葉を噤むと、お前は俺に背を向けてフェンスに身を預けた。
「俺さ、ずっと喜一に言いたかった事あって」
「だからってわざわざ手紙なんか寄越さなくても、俺は毎日ここに来てるだろ」
毎日来てる。それをお前は知っている筈だ。
俺が来るより先にいつもお前がいるのだから。
「うん、でも。手紙……書きたかったから」
「……。ふぅん」
それきりまた、長い沈黙が続いた。
空には飛行機が、白い尾を引いて過ぎて行く。
「――ねえ、喜一」
何となく、察しはついていた。
「俺、喜一が好きだったよ」
お前の、一大決心に。
「……。ふぅん」
知ってたよ。なんて言ったら、お前は思い止どまるのだろうか。
けれど俺は、それをしない。お前がそれを望んでいないから。
「喜一……、ありがとう」
フェンスから背を離し、お前は両手を広げる。そんなお前に背を向けて、俺は静かに涙した。
お前は全身に風を受けてそのまま鳥になり、大空へ帰って行った。
なあ……。
もしお前が雲の上に行く事があれば、その涙を雨に変えて、俺の上に降らせて欲しい。俺はそれを全身で受け止めて、お前と一緒に泣いてやるから。
だから雨の日くらいは、お前を想って泣いてもいいだろう?
広い空を仰ぐと、長い長い飛行機雲が斜めに走っていた。明日は雨かな……なんて思いながら、俺はその場を後にした。
END
作品名:miscellany 作家名:やまと蒼紫