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やまと蒼紫
やまと蒼紫
novelistID. 15444
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miscellany

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鳥になった少年


(※死ネタ注意)

 屋上のドアを開けて、俺は広い空の下に出る。今朝、手紙を受け取った。
 手紙の主は今、フェンスの向こうで笑っている。
「何だよ話って」
「うん……。あのさ、」
 それきり言葉を噤むと、お前は俺に背を向けてフェンスに身を預けた。
「俺さ、ずっと喜一に言いたかった事あって」
「だからってわざわざ手紙なんか寄越さなくても、俺は毎日ここに来てるだろ」
 毎日来てる。それをお前は知っている筈だ。
 俺が来るより先にいつもお前がいるのだから。
「うん、でも。手紙……書きたかったから」
「……。ふぅん」
 それきりまた、長い沈黙が続いた。
 空には飛行機が、白い尾を引いて過ぎて行く。
「――ねえ、喜一」
 何となく、察しはついていた。
「俺、喜一が好きだったよ」
 お前の、一大決心に。
「……。ふぅん」
 知ってたよ。なんて言ったら、お前は思い止どまるのだろうか。
 けれど俺は、それをしない。お前がそれを望んでいないから。
「喜一……、ありがとう」
 フェンスから背を離し、お前は両手を広げる。そんなお前に背を向けて、俺は静かに涙した。
 お前は全身に風を受けてそのまま鳥になり、大空へ帰って行った。

 なあ……。
 もしお前が雲の上に行く事があれば、その涙を雨に変えて、俺の上に降らせて欲しい。俺はそれを全身で受け止めて、お前と一緒に泣いてやるから。
 だから雨の日くらいは、お前を想って泣いてもいいだろう?

 広い空を仰ぐと、長い長い飛行機雲が斜めに走っていた。明日は雨かな……なんて思いながら、俺はその場を後にした。

END

作品名:miscellany 作家名:やまと蒼紫