看護師の不思議な体験談 其の十五
隣で聞いてた指導者のNさんが笑っている。
N「それよりも、ショックな事があったんだよね。」
「え、何、何?」
解剖よりもショックって。
Yさんが、じとっとした視線を私に送ってきた。
Y「杉川さん、早く教えてくれたら良かったのに、もう~…。」
新人が可愛らしく頬を膨らませている。
若いと、そんな顔もかわいいわね、じゃなくて。
「え、私?何かしたっけ?」
身に覚えがありませんけど。
Y「ストレッチャーですよ!私、あれに寝転がっちゃったじゃないですかぁ!」
「あっ…。」
Y「遺体解剖に使うなんて知らなかったですよ、もう。」
立位保持が困難なのは、ご遺体も同様で、あの特殊なストレッチャーを使用して体重測定を行うのだ。
そうそう、それを言いたかったのだけれど、Yさんが楽しそうで言い損ねてしまっていた。
「言う前に、Yさんが乗っちゃうからさぁ。あんまり言うと、患者様に失礼だしね。」
Yさんは、そうですね、と言いながらうな垂れる。
「Yさんは少し休んだら、もう帰りんさい。定時過ぎてるし。」
「ありがとうございます。」
「じゃ、私も。」
Nさんが便乗して帰ろうとしたが、腕をからませて引き止めた。
「いやいや、まだまだ仕事はたんまりありますよ。」
「あ、やっぱり?」
苦笑い。
作品名:看護師の不思議な体験談 其の十五 作家名:柊 恵二