嘘と上書きと宇宙人
如月はよく、自分が総理大臣の隠し子だとか3分先の未来を見ることができるだとか、他愛のない嘘をついた。
人当たりがよく、成績もいい優等生の如月が真顔でこんなことを言うものだから、最初は電波クンなのかとひどく面喰ったものだが、すぐにわかった。
如月は冗談を楽しんでいるのだ。
おれは「おいおい冗談だろ」なんて水を差すことはせず、如月の嘘を真に受けたような反応をしてはごっこ遊びに興じた。
「僕、実は総理大臣の隠し子なんだ」
「マジかよ!じゃあおれ、あれだ、サインほしい」
「渡辺くん、君って本当に欲がないねぇ。いいよ、サインの100枚や200枚、貰ってきてやろうじゃないか。部屋に飾って家宝にでもしてくれよ」
「ふふん、そんなみみっちい使い方するわけないだろ。もちろん色紙に、じゃない。借用書に頼むぜ」
「渡辺くん、君って本当に欲深いやつだな」
「さっきと言ってること違うぞ、如月」
といったように、如月の唐突な「宣言」はごっこ遊びの開始合図なのだ。