BAM
「あっ、そうだ。こいつら現地で拾って来たんだけど、里親か飼い主が見つかるまで預かっていいよね」
軽く後ろを振り向き、亜っちゃんに向き直った門前さんは、目からお願いビームを放出し続けた。
「お、おうっ、全然かまわねぇよ。むしろ歓迎するし」
押し切られた亜っちゃん。
「それに、1階のロビー見てみな。突貫工事でやったにしては良い出来でさ」
「えっどんなんなったの…あはっ、成程。オーナーらしい発想だね」
中を覗いた門前さんはクスクス笑いながらそう言った。
ロビーはコインシャワーとランドリールーム、そして、変わった所でペット用のシャワールームを完備していたのさ。
らしいって言えば、らしいかな。
「今回の一件以来どんなに風呂が重要かって事が身に沁みたんでさ。ならばと、作ってみました。と言う事で、飛鳥お前が第一号で使って来な。それに、少し匂うしさ。ほれ」
そう言って亜っちゃんは、チャラチャラと百円玉を門前さんに手渡した。
「えっ匂う?変だなぁ、この香は帳の肉球の匂いに似てるはずなんだけど、ほれ。ほれほれ」
おどけながら、門前さんは亜っちゃんの鼻先に自分の頭を近づける。
それに対して「あっ、そうかも・・・って、んな事あるかぁ~」と一人乗り突っ込みで返す。
「いいから、入って来なって」
「ほ~い」
と言って門前さんはコインシャワーに向かったが、振り向き様に「次はお前らな」と言い捨ててロビーへ消えた。
お前らってのは、ここに鎮座しているモコモコのライオンみたいなワン子。
それと、ちびっこいくせにふてぶてしいニャン子だと思う。
近くで見れば、身体は泥だらけのような…
亜っちゃんは門前さんを見送り、あの赤いコーラベンチに座ると
「良かったな、飛鳥に拾われて、お前ら運がいい」そう言った。
春の穏やかな日差しがゆっくりと辺りを包み込む。
しかしながら、確かにあの日の事を思えば、こやつらは運がいいのだろうな。
帳はベンチに飛び移りまじまじと2匹を見つめた。
本当に犬か…
本当に子猫か…
やいっ、お前ら何とか言え。
「えっ、僕らですか」
…おっ、初めてしゃべったな、犬。
そうお前らだい。
何か言う事あるだろう。
はじめましてとか、こんにちはとか、挨拶は大事だぞ。
こんな時だからこそ挨拶が重要なんじゃんか。解る。
説教を始めようとした帳だったがその瞬間、ロビーの方からでかい声が響き渡った。