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ミムロ コトナリ
ミムロ コトナリ
novelistID. 12426
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マジェスティック・ガールEp:1 まとめ

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 ――”いい加減に”適度で適当が一番。
 確かに、その言葉には救われた。だけど、今まで起こってきたことを、全て無かったことになんて出来はしない。
 その事実を無視出来ないほど、自分はあまりにも多くの人を巻き込み、時には自身のミスでその命までをも奪ってしまったのだ。
 核心をついたヒューケインの言葉に、ミミリは何を口にしていいか迷い、言いよどんだ。
「…あ。でも、そのぅ…」
 ミミリには出来なかった。自分自身に贖罪を課し、責めることを。
『いっそ、自分なんて――。』
 ヒューケインは、ミミリの思惟を見抜いていたかのように、キッパリと断言した。
 迷い無く、まっすぐに。
「勘違いだ。そんなのは」
「え?」
「その人を守り通して、勘違いだって証明して見せろよ。自分にはなんの原因も落ち度も無いってな。お前は、マジェスターなんだろ?」
「…はい」
 その通り、自分はマジェスターだ。
 ヒューケインが間髪入れず尋ねる。
「マジェスターの使命は?」
「アクトゥスゥから、人類を始めとする生命を守る…ことです」
 それが、自分達マジェスターの使命だ。
「そうだ。なら使命を果たせ。自らの存在意義と有用性を証明しろ。皆を守って見せろよ。使命とかじゃなく、『自分のため』にもな」
 はっとなった。
 ――『自分のため』。そう結局は自分のためだ。
 人を助けるのも。自身の矜持に則って高尚さを損なわない
 立ち振る舞いを貫くのも。両親の教えに習うのも。
 全て自分の心に従ってのこと。
 自分の自由意思でそうしたいから、そうしている。
 つまりは、そういうこと。『それがとても心地いいから』――。
 そんな考えは独善的かもしれない。けども、結果としてそれが人の役に立つのであれば、 それは有益なこと。喜ばしいこと。賞賛されること。
 なら、言うべきことはただ一つ。シンプルに、たった一つ。
「は…はい!」
 ミミリは、大きい声で力強く返じた。
 ヒューケインの言うことは最もだった。
 自分は、今日まで生きてきた。マジェスターとして課せられた使命を果たすために。
 自身の心と矜持に乗っ取り、『皆を守る』という夢を叶えるために、自分は今日まで生きてきた。心がひしゃげそうな程、辛い目にあっても。泣きそうなことがあっても。逆境に挫けそうになっても。
 その度に心を奮い立たせ、困難に立ち向かい、進んできた筈だ。
 『マジェスターとしての使命を果たす』その為に。
(そうだ。私は、だから――)
 ならば、今こそがその絶好の機会ではないか。今日まで、修練で培った技術と鍛え上げた肉体。頭に叩き込んだ膨大な知識。
 それらを振るい、マジェスターとしての力を思う存分発揮する。今が、その時だ…!
 廊下の曲がり角から、床を踏みならす足音が聞こえた。
 …サ、ガサ、ガサ、ガサ――!
 足音は次第にこちらへと近づいてくる。やがて、足音の主”たち”が姿を現した。
 八体の変異体。シャチやサメに似た、長い口と顎。ただし、顔とおぼしき部位は白く、のっぺらぼうの様にまっさらで、目や鼻といった気管は皆無。四肢は真っ黒で、人型をしている。
 変異体は、立てば二メ―トルは下らない体躯を中腰に折り曲げ、前傾姿勢で走り寄ってくる。床、天井、壁を伝って縦横無尽に走り、『彼ら』は襲いかかってきた。
 栞が、変異体を見るやいなや、叫んだ。
「S・W・O・R・D!」
 栞のアクエリアスは濃緑色のカラ―で、まず頭上にはレ―ダ―とセンサ―が集約された半径一メ―トル大になるリング状の演算素子ユニット。
肩部は大きく丸い半球状の肩当で、腰はスカ―ト状の装甲になっている。
 スカ―トから、四本の剣――厳密には、全長125cmからなるソ―ド状の自律機動兵器が放出された。
 S・W・O・R・D<ソ―ド>と呼ばれるそれは、操者の脳量子波に感応し、空中機動を行い、遠隔操作で目標を攻撃するEVB兵器の一種である。
「切り払い、撃ち貫き、此処へ戻れ!」
 <ソ―ド>は栞の命令を受けて飛翔。向かいくる変異体へと”襲いかかった”。
 一つにつき、一体。先端部から発生させたビ―ム束で、変異体を切り刻み。
剣状の筐体をレ―ル砲身に変形させ、荷電粒子を撃ち放ち。
 四体の変異体をバラバラに引き裂き、ビ―ムの矢で焼き払い、四本の<ソ―ド>は栞の元へと舞い戻った。
 普通ならば、『普通』の生命体ならば、これで『ケリ』がつく。だが、『彼ら』にはその常識は通用しない。
 変異体の残った部位や、損傷した箇所が、煮えたぎる湯のようにブクブクと泡を立て、再生をはじめた。周囲に散らばった変異体の部位も、本体へと集まり、再結合しようとしている。
 後続の四体が、口を大きく開け、爪をたててミミリめがけ飛びかかってきた。
 女性士官を庇うミミリと、栞の前に颯爽と飛び出してきたヒューケインが”目で認識できない”ほどの超スピードで変異体へと迫る。
 原理は不明だが、この場にいる人間には、”そのように見えた”。
 ヒューケインは、裁断剣を振るい、変異体の一体を叩き落し、切り捨てた。
 それを見た、残りの三体は攻撃をやめ、後ろに飛びずさった。彼らに襲い掛かる気配はなく、遠巻きにこちらの様子を伺っている。
 ヒューケインの足元で、胴を真っ二つに裂かれて身もだえする変異体。
 撃滅するには至っていない。先ほどの変異体とは、体組織の組成が違うからだ。
 ヒューケインは、再生を始めた変異体を向こうに蹴飛ばして叫んだ。
「栞、弾頭(ガラスの剣)の精錬は!?」
 通常兵器が通用しないアクトゥスゥ変異体を撃滅するに当たり、まずは体組織と組成成分をスキャンし、解析する必要がある。そして、解析情報を元にEVB兵器に装填する弾頭――もといデ―タを作成(精錬)する。
 どのアクエリアスにも、スキャン機能は実装されているが、敵個体の差違はあれど、スキャン完了には15〜60秒ほどの時間を要する。
 ただし、金雀枝栞はその例に当てはまらない。金雀枝属の能力は、『情報処理』と『情報分析』。演算と、並列情報処理に特化したマジェスター。
 専用にインプラントされた演算素子を用い、単体でスパコン並の演算処理速度を誇る。
 栞にかかれば、スキャン完了に要する時間は、わずか――
「1.88セコンド。スキャン完了。弾頭(ガラスの剣)精錬。転送します」
 ヒューケインとミミリのARインフォに、『Trans fer the ballet Complete.EVB―W standby._redy』の文字。弾頭のデ―タが送信されたことを報せていた。
 一つの個体に対し、オンリ―ワン(ただ一つ)の弾丸。たった一度きりしか有用性を発揮しないが、効果は一撃必殺。
 それ故、EVB兵器に装填される弾頭は<ガラスの剣>と呼び名される。
 この短時間、わずか数秒で変異体達は再生を完了させていた。
『ミミ゛ャァァァァァァ――――――――!』
 猫とも、イルカの鳴き声ともつかない雄たけびを上げ、変異体達は再び襲い掛かってきた。四方三メ―トルの狭い廊下を覆い隠すように、四方八方から。
 その最中。誰よりも早く反応して動いたのは、ミミリだった。