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ミムロ コトナリ
ミムロ コトナリ
novelistID. 12426
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マジェスティック・ガールEp:1 まとめ

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 草花の名を持つマジェスターを作物になぞらえて、彼らを育成する学園都市プランタリア(植バチ)を管理運営する農業農園(アグリカルチャー・ファーム)とは良く言ったものである。
 全階層75階のアグリカルチュアのエントランスをくぐり、待つこと二分。
 凛とヒューケインが受付で用件を済ませて戻ってきた。
「待たせたな、みんな。行こう、”76階”だ」

 議会会議場に設定された73〜75階の更に上。隠されたフロア、76階。<展望台>と呼ばれるそこに、一行はやってきた。
 移動回廊の天窓と同じアモルファス樹脂材質で覆われた半球状のペントハウス。
 <展望台>はコロニ―とは隔離された別空間に存在し、その所在はプランタリアを支えるグランドシャフトの天辺にある。
 部屋の外に広がるのは、満天の星空。煌くガス星雲。そして、マジェスターがアクトゥ
スゥによる『星喰い』から守るべき生命の星、<エイス・イルシャロ―ム>。
 その部屋の中央に、ミミリ達一行を待ち詫びていたかのように”彼女”はいた。
そこにいたのは、ミミリと同じ躑躅色の髪をした少女だった。
 少女は、赤いフレ―ムの眼鏡を掛けており、セミショートヘアのウェーブが掛かった
クセっ毛をしている。背は女性としては平均以上。
 衣装は、中央にジッパーがついた、ノースリーブの黒いタートルシャツに、白のタイトスカート。その服飾デザインはサイバネティックで無機的だ。
 躑躅色髪の少女は、機械的な抑揚のない声で淡々と言った。
「ようこそ、そしてお帰りなさい、ミミリ・N・フリ―ジア。皆さんもようこそ。歓迎するわ」
 年の頃は、凛や栞とそう変わらないのだろうか。眼鏡を欠けている分、実際よりも
少々歳上に見えるが、その肉体は成長の余地を未だ残す少女のそれと言える。
 ミミリは少女の姿を見て、目を丸くした。
「うわぁ。サンフラワ―管理事務次官って、お若い方なんですねぇ」
「まぁ、ありがとう。うれしいわー」
 サンフラワ―は、間延びするような、気だるい調子で言った。ただしイントネ―ションには、喜びの感情が乗っている。
「ヒューケインさん、さっきババァっていってましたよね。全然違うじゃないですか」
「うぉいっ!ちょっ、ミミリちゃん」
 ヒューケインが狼狽えた叫び声を上げる。
「へぇ、ヒューケイン。命知らずに磨きかかったみたいで、ババァは嬉しいわよ(ニコ☆)」
 少女は、”ぞっとするくらい”明るい笑顔でヒューケインを見据えた。
「ははは…いや、その違うんすよ。サンフラワ―」
「弁解は法定で訊くわ。賠償金用意して楽しみにしててね、”クソ坊主”。罪状は不敬罪よ」
「訴える気かよ!しかも、俺敗訴確定かよッ」
 狼狽えるヒューケインには構わず、サンフラワ―はミミリに向かって後を続けた。
「ちなみに若さの秘訣は、秘密よ。秘匿情報(コンシャル・シ―クレット)なんでね」
「は…はぁ。え…えぇ―?」
 そう言われて、ますますワケが分からなくなるミミリ。目がグルグル回る。
 凛がそれを見かねて言った。
「無垢な少女をからかうのはやめてください、サンフラワ―。ミミリ君。この方は冶月フィラの<クォンタリアン>だ」
「<クォンタリアン>…。あ…。ああ―、道理で」
 ミミリが納得したのも無理はなかった。
 <クォンタリアン>――。『量子構成補完義体』と言われるそれは、量子情報で体組織が構成された仮想現実体だった。完全な仮想ではなく、接触可能な粒子で体が構成されているため、厳密には”接触可能な映像”と言ってもいい。
 クォンタリアンは、いわばオリジナル<本人>の分身。その身にオリジナルと同等の性能、思考アルゴリズムを宿らせている。
 オリジナルが手に余る仕事や、過酷な環境での仕事に従事する場合、仕事を代行してもらうことを、その用途目的としているのがクォンタリアンだった。
「ご存知のようね、”ミミリさん”。クォンタリアンの量子頭脳と、本人の脳はイントラ量子ネットワークで直結していて、リアルタイムで情報を共有できる。
つまり、私の思考、発言、行動は冶月フィラ本人そのものと同義だと言うことよ。
そこの不良ヤンキ―の無礼も、もちろんマスターであるフィラに届いているわ。
私が少女の姿をしているのは…まぁフィラの趣味みたいなものね」
「すごい、本物は初めて見ました。すごいですねぇ、ツツじ―」
 ミミリはえらく興奮した様子で、声をはしゃがせた。
「そうね。私らの育った街じゃぁ、持っている人は数えるほどしかいなかったしね。クォンタリアンを持てるのは、一部の富裕層だけだし。所有にかかる税金がバカ高いんですもの」
 ツツジの言うそれがクォンタリアンにまつわる個人の台所事情だった。
「では、改めて。『見た目は少女、中身はババァ』。ロジカル☆フィラとん(代理)とは私のことよ―」
 先ほどのサンフラワ―とは、微妙に言葉のイントネ―ションが違っていた。
 ”中身”が<サンフラワ―>から、<冶月フィラ>本人に”切り替わった”のだ。
 抑揚のない機械的な喋り方をするサンフラワ―と違い、気だるい感じは変わらないものの冶月フィラにはどこか子どもっぽい無邪気さがあった。
「言っていて恥ずかしくはありませんか、冶月フィラ?」
 うやうやしく言う栞。
「うみ―み―。まぁね―。この<サンフラワ―>には、学園都市コロニー<プランタリア>の行政をGUC政府に委任された最高責任者である管理事務次官。それと、あなた方マジェスターの製造と兵器開発研究を担う<M研>の所長を担当して貰っているわ」
 ミミリは、更に目を丸くした。
「”サンフラワ―には”?ということは、他にも貴方のクォンタリアンがいるってことですか?」
「そうね―、あとざっと16体。全部で17体いるわ。財団グル―プの企業を仕切っている個体が10。連邦政府の要職を務めている個体が8。私は色んな仕事を兼職しているの。
体一つでこなすには、いくつあっても足りないからね―。オリジナルである私は、遥か遠くの宇宙で惑星開拓事業の指揮をとっている。ここから52万光年先の銀河でね」
「すごいです…。え?でも待ってください。失礼ですがかなりのご高齢のはずですよね」
 前もって感じていたことを、不躾とはわかりつつもミミリはフィラに聞いた。
「そうね―。テロメアを増殖し、コ―ルドスリ―プを繰り返して延命してきたけど、生来の肉体は三千年を超えた時点で破棄したわ。今の私は、自身の遺伝子を受け継いだ肉体に、自分の量子情報化した人格アルゴリズムパタ―ンを投写(コンバ―ト)して生存しているの。
量子化された人格とは言え、その誤差は八次の補正、つまり一兆分の一程度。殆んど本人そのものと言っても過言ではないわ。肉体<イデア>は失ったものの、私は魂<アニマ>としてこの世に存在しているってわけ」
 話をするフィラは、どこか楽しそうだった。自分の得意分野になると嬉々として語るタイプなのかもしれない。
「あ―、そうそう。”ミミリ”、これを上げるわ。復学記念よ」
 フィラがパチンと指を鳴らすと、その手元から長方形の包箱が現出した。
「はい、どうぞ。ささやかなものだけど」
 差し出された包み箱を受け取るミミリ。
「あ。ありがとうございます」