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ミムロ コトナリ
ミムロ コトナリ
novelistID. 12426
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マジェスティック・ガールEp:1 まとめ

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「開けてみてちょうだい」
 フィラに催促されて、ミミリは包箱を丁寧に開けてみた。
 中に入っていたのは、二対の長い菱状のプレ―トがついた猫耳を象ったような髪留めであった。それは、携帯端末の一種で、骨振動で音を伝えるタイプの携帯電話だった。
 ミミリも以前これと同じ物を持っていたのだが、一年前のシャトル爆弾テロ事件で犯人の脅しで破棄する羽目になった。両親に買ってもらったお気に入りだったのに、捨てざるを得なくなったのは正直残念でならなかった。
「うわぁ、本当にありがとうございます。また買おうかと思ってたんです」
 ミミリは嬉しそうに、リボンで結い上げた髪の房に髪留めを付けた。
「ふふ、喜んでもらえてなによりだわ。さて、私はこれで失礼するわー。サンフラワー。あとは任せたわねー」
 そう言って、冶月フィラは”サンフラワ―の中から”退出”した。
「はい、フィラ。では本題に入りましょう」
 ”サンフラワ―”が言った。
「”ミミリさん”。<リミテッドテン>はご存知かしら」
「はい。『プランタリアで<アクエリアス>装着を許可された、限られた十人の士官学生』
のことですよね」
「その通り。No.1からNo.10のうち、今現在No.10が欠番。不在なの」
 ミミリは、去年発行された学園案内パンフレットの内容を思い出した。
「あれ?去年、学園案内を見たときNo.9も欠番になっていませんでしたか」
「ああ」とサンフラワ―が、そう言えばという表情を見せた。
「そこにいる、ツツジ・C・ロ―ドデンドロンがひと月前に拝命したわ」
「はぁ。え、ええ…!?ほ…本当ですか、ツツジ」
「あ―、言ってなかったっけ。そう、先月ね。任命されたのよ」
 プランタリアでは、前期三年、後期三年の六期――計六年間の訓練履修期間が設けられている。後期生ともなると、優秀な士官学生の中には教練の一環として連邦軍へと出向し対アクトゥスゥ撃滅作戦に従事する生徒もいる。
 そうした学生を選出するために設けられた枠が、リミテッドテンであった。
 リミテッドテンは、学業優秀かつ成績優良の評価を修めた士官学生の中から選出される。特例として、極稀に前期生から選出されることもある。
 その特例を受けたのが、自分の幼なじみだと知って、ミミリは目を皿のようにした。
「すごいです…ツツジ。流石、ジュニアスク―ルで、努力家として三つとなりのクラスにまで知れ渡っていたことだけはありますねぇ」
「…なによぅ、その微妙な知名度は…」
 ミミリの評価が今ひとつなのも無理はない。
 ツツジは一つのことに特化した天才タイプではなく、これといった尖った才能がない。よくも悪くも普通。”異才と異常が常道”であるマジェスター達の中にあって、彼女は至って”普通の異色な凡才”だった。
 特殊な仕事を生業とするマジェスターにとって『普通』というのは実に致命的。それを覆すために凡才な彼女は、まんべんなく努力と修練を地道に積み重ねて、平均的に高い結果を出す秀才タイプの人間になろうとした。
 結果、普通の凡才は秀才になり、非凡な天才達を追い抜くまでになった、という訳だ。
「続きをいいかしら。で、よ。ニ年以上欠番だったNo.10を再び選定しようと考えているの。さっきの理事会でも、少し話題に触れてね」
 先ほど叔父ユリウスが、理事会会議に出掛けたことを思い出した。その議論に、叔父も加わっていたのだろうか。
「その候補に、ミミリ・N・フリ―ジアさん。貴方も入っているの」
「はぁ、そうですか」
 答えて一瞬、空白の間が出来た。
「って、え。…ええッ!?私がですか」
「そう、貴方よ。と言っても候補の候補なんで、そう身構えなくても大丈夫よ。
 候補リストに名前が上がるのも、今度の七月上旬に行われる前期期末査定の結果次第ね」
「で…でも、でも。私一年も不在でしたし、皆さんよりかなり遅れています。もしかして、留年…ですか?」
 ミミリにとって、それはとても気にかかっていたことだった。不在だった期間、どういう扱いになっていたのだろう。
「プランタリアに留年制度はないわ。不在中は休学扱いにしておいたから。それに、マジェスターは選ばれた優秀な遺伝子を調整して造られた超人。先天的に須らく優秀なのよ。寿命も短いしね。時間は無駄にできないわ。貴方の一年の遅れは放課後に補修を実施することで補います」
「そ…そうなんですか。よかったぁ―…」
 それを聞いて、ミミリはほっとした。年齢的には前期二年生になるというのに、一年のままでは正直居づらいし格好悪い。学園のシステムに感謝する所だった。
 ツツジが横合いから、ミミリの背中を叩いてウィンクした。
「へぇ、やったじゃないミミリ。憧れのマジェスターの使命を全う出来る夢が叶うんじゃない?お世話になった人達に恩を返すためにも、皆を守りたいってさ」
「えへへ。ありがとう、ツツジ。でも、まだ候補の候補ですよ。まだ道のりは遠いです」
 そういうミミリは、はにかみ笑いを隠して、少し照れくさそうな仕草を見せた。
「ううん。エントリ―にあがるだけでも大したもんよ。アンタ、入学して二週間後くらいにやった能力技能測定、個人技だけは郡を抜いてたもんね。集団は、まぁアレだけど」
「あはは…。それは言わないで下さいよぉ―」
 ミミリは、マジェスター単体としての能力はアベレ―ジより平均以上。
 天然な所はさておき、機転もきき、よく頭も回る。メンタルも強い。苦労人で、逆境に負けない強さと、豊富な知識に裏打ちされた聡明さも兼ね備えている。
 ところが、不運と不幸を呼び寄せる体質であるが故、グル―プでの集団行動となると
思わぬ相互作用により、自分はおろか周囲をトラブルに巻き込んでしまう。
 それ故に集団連携査定の成績は下から数えたほうが早いのであった。
 ピピピピ!<展望台>のデスクに備えられた室内電話が、突如鳴った。
 サンフラワーは子機を取り、電話に応じる。
「ええ。…はい。…はい。…わかりました。了解致しました」
 実に手短に用件を聞き終えた彼女は着信スイッチをオフにし、子機を置いた。
「いかがしましたか、サンフラワ―」
 ただならぬ空気を感じた栞が、厳かに尋ねる。
 サンフラワーは、一回眼瞼を閉じ、一泊置いてから口を開いた。
「GUC政府からの要請よ」
「へっ、とうとうお出ましか」
『やっぱりか』。という風に、ヒューケインは電話の用件をいち早く察していたようだった。
彼のその予見は、サンフラワーが発した次の一言で確信となった。
「アルマ―ク星系郊外にアクトゥスゥ変異体郡が侵入したわ」
 それを聞いて、凛とツツジの眼の色が変わった。事態に対し即座にスイッチを切り替えることを知る、プロフェッショナルの目付きだ。
 ミミリは、180度様変わりした空気に固唾を飲んだ。
 サンフラワーが空間を指でなぞると、部屋の中央に、バ―チャルディスプレイが表示された。目に貼ったARツールの表面に、状況を示すCGインフォーメーションが図面展開され、補足情報が即座に視覚化される。