小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
ミムロ コトナリ
ミムロ コトナリ
novelistID. 12426
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

マジェスティック・ガールEp:1 まとめ

INDEX|49ページ/80ページ|

次のページ前のページ
 

6.



 その後、ミミリ達はせっかく水着に着替えてプ―ルに来たのだからと小一時間ほど、遊
泳や水遊びを楽しんだ。
 プランタリアの制服に着替え、ユリウスの邸宅を後にした一行は、市街地を通りぬけ行
政区であるプランタリア首都、第十都市<マルクト>へと通じる無重力移動回廊の一画へと
やってきた。
 コロニ―の擬似環境は、今この時期――六月の始めは初夏の気候になっている。
 夏季中、女子制服の上着はノ―スリ―ブシャツに変更される。腕の素肌に当たるそよ風が心地いい季節だ。シャツの襟元には必ず、丈の短い赤いネクタイを付けることが義務づけられる。ネクタイ自体が、GPS機能を兼ねた発信機になっているのだ。有事の際にこれが役立つ。
 腰に履いた群青色のプリ―ツスカ―トは、和風柄の波と花を象った刺繍が入った腰巻で
しっかりと止められている。加えて、スカ―トの下にスパッツを履こうが、パンツを履こ
うがそれは個人の自由。靴下など足に履く物も同じくだ。ニ―ソックスでも素足でも全く
構わない。
 ちなみに、ヒューケインは制服ではなく、自前の黒いレザ―パンツに白い無地のシャツ
といったラフな格好をしている。「制服は縛られている感じがしてあまり好きではない」と
の事だった。
 プランタリアはツリ―状の階層構造になっており、中心に添えられた半径七十五Km、
全長百五十Kmのグランドシャフトを支点にして、総面積十五kmからなる開閉式のド―ム型コロニ―都市が、木枝に実ったリンゴの房のように上から下へとぶら下がっている。そのコロニ―の総数たるや、累計十一に及ぶ。
 そのコロニ―どうしも、それぞれ上下に伸びた無重力移動回廊で結ばれている。
 移動回廊はトンネル状になっており、半径五百mからなる円筒の上半分180度をアモルファス型軟性樹脂素材で形成されたクリア板の天蓋窓が覆っている。
 天蓋窓からは数多の星々と、太陽光発電施設である巨大なリング状構造物に囲われたア
ルマ―ク太陽系本星<エイス・イルシャロ―ム>の姿を一望できる。これだけでもう、一つの観光名所だ。
 <エイス・イルシャロ―ム>のラグランジュ点に位置するプランタリアは、その衛星軌道
上を周回しており、一日に三回本星と急接近する時間がある。その時間の前後は、物資の搬出で宇宙港が特に一層の賑わいを見せる。
 ミミリは、プランタリアに入学してから、叔父の邸宅がある高級住宅街都市、上層部に位置するの第一都市<ケテル>と、マジェスター教育士官学校プランタリア学園がある中層に位置する第九都市<ィエソド>。それ以外のコロニ―都市には行ったことがなかった。
 <エイス・イルシャロ―ム>の片田舎の都市、バ―ベナで育ったミミリにとって、
首都<マルクト>の街並みはメガロポリスのそれで、目新しい刺激で満ち溢れていた。
「あちこち見てると、『お登りさん』だって思われるわよ。ほらこれ」
 ツツジがポシェットからなにやら取り出し、ミミリに手渡した。
 それは、コンタクトのような物だった。
「なんですか、これ」
「<AR情報視覚化ツ―ル>よ。コンタクトのように目に嵌めて使うの。”嵌める”というより、”貼る”と言うほうが正しいけど。使ったことある?やりかた、説明しようか」
 神の世紀(西暦時代)の末期に実用化されたと言われるAR(拡張現実)技術。ディスプレイに映った風景や物体のバ―チャル情報を合成表示するという概念技術体系。登場から幾千年過ぎた現在まで、所々でビルドアップが繰り返されてきたという。
 頭脳に電脳素子をインプラントしてバーチャル情報を視聴している人もいるが、コンタクトのように外部拡張機器を用いるのも未だ主流である。人としての『純粋』にこだわり、体内に機械を埋め込むことに抵抗を示す人間もいるということだ。 
 車両や機械、アイテム、グッズ。街のあらゆる所には情報送信用のマイクロサイズARチップが埋めこまれている。その情報を受信して視覚化するコンタクトツ―ルを目に貼ることで、インフォメ―ション情報を得ることが出来るという仕組みだった。
「いえ、大丈夫です。あ…あれ、うまく行かないなぁ……あいたッ」
「ほら、言わんこっちゃない。かして、やってあげる。動かないでね」
 そう言ってツツジは、優しくミミリの眼瞼を指で開いてやりツ―ルを貼りつけてやる。
「これでよし、一回眼を閉じてから、ゆっくり目を開いて」
 視覚化ツ―ルを眼球に”なじませる”ための行為だと分かった。
 言われたとおりミミリは一度眼瞼を閉じてから、ゆっくりと目を開いた。
 瞬きをし、眼瞼を開くと、”世界が広がった”。
「お。…おぉ――。うわぁー…」
 色とりどりのインフォメ―ションウィンドウがそこかしこに表示され、行き交う車両の形式や走行速度はおろか。行き交う人々の持ち物やアクセサリ―。携帯端末。幼い子供が腕に抱えたぬいぐるみの種類や名前まで。溢れんばかりの情報の海が、見渡す限りを覆い尽くしていた。
 まるで、電子の世界に迷い込んだような気分だった。
 移動回廊を渡った先で、死角になった曲がり角の先から車が来ることが分かった。
 目に映るAR情報が、予め接近を警告して報せてくれたおかげだった。おまけに思考一つで、情報表示のスクリ―ニング(取捨選択)まで出来るという至れり尽くせりっぷり。
「ね、便利でしょ?」
「はい、すごいです!」
 ミミリは嬉々として応えた。
「所で、これからどこへ行くんですか」
 首都<マルクト>に来てからミミリが疑問に感じていたことだった。
「おや、聞いていなかったのか。都庁舎ビル<アグリカルチュア>だ」と、凛が応えた。
「ところで、<冶月フィラ>(ヤツキ フィラ)は知っているかな?」
「はい。科学者であり実業家。千を超えるコングロマリットをその傘下に置く、フィ―フィラック財団の総帥ですよね。西暦時代の末期に生まれた、最大の女傑であり、重力子空間圧縮跳躍ワープ機関<M・S・S・M>の完成理論を構築し、世界初のワ―プゲ―トウェイを開発した重力子ワ―プ発明の母。ゲート開発後、ワ―プゲ―ト公団の長になった彼女は、宇宙開発における流通システムを寡占し、それで得た莫大な資産を元手に、数多の企業を併呑。経済の一部を支配する<女帝>になった。それ以降、生まれた祖国はおろか当時の地球主要各国政府に強い政治的影響力を持つ立場になったとか。現在までの科学技術の基礎理論は、彼女が築いたとも聞いています」
「その通り、さすがに博識だな。解説どうもありがとう。そして、今から会いに行くんだ。その”彼女”にな」
 聞いて目を白黒させるミミリ。
「え!?あのちょっと待ってください。そしたらその方は、今何歳なんですか?」
 西暦の時代などというのは、もう五千年以上も昔のことだ。その時代に生まれた人間が未だに現存しているなどとは、なにをかいわんやである。
「そういう疑問を感じるのは実に正しい。もっともな反応(リアクション)だ。
ただしくは、その”代理”だがな。『サンフラワ―』が君に話があるそうだ」

        ◆

 プランタリアの行政を司る中枢。都庁を兼ねた高層ビル――通称<アグリカルチュア>。