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ミムロ コトナリ
ミムロ コトナリ
novelistID. 12426
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マジェスティック・ガールEp:1 まとめ

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 ともかく、また再びマジェスターとしての使命を果たす為、厳しい訓練の日々が始まる。
 これで一先ず、今回のエピソ―ドは『ハッピ―・エンド』と言うわけだ。
 だが、これは終わりではない、始まりだ。
 彼女達の人生は明日も明後日も、一月後も、一年後も、そして命あるかぎり続いていく。
 還るだけ。ただ、本来の日常に還るだけなのだ。
 それが、それこそが人間の――

 
 パシィッ!

 大気のない宇宙には音が響かないが、そのような音が響いたと思う。
「…やだッ!」
 拒絶の意を発してミミリは、ツツジの手を振りほどいた。
「…え?」
 一瞬訳がわからず、ツツジは呆気に取られてしまった。
「やだ、帰らないッ!高速艇にも乗らないッ!!」
「ハァっ!?何訳の分かんないこと言ってんのよ、アンタわッ!ぶっ壊れたAQUA―S一丁で、帰れるわけが無いでしょ―が。こっからプランタリアまで、まだ片道四十五万km以上あんのよ!?」
 ボディランゲ―ジで、こっかからここまでと大げさに身振り手振りで必死に説明するツツジ。
 普通に考えれば、今の状態のミミリが帰れるような距離ではない。
 
 それでも、ミミリには拒む理由があった。
 この宇宙放浪の旅の最中、二度遭遇した乗り物絡みのトラブルはミミリの心に深い影を落としていた。自分が不運を引き寄せたばかりに、事件や事故に巻き込まれ命を落としてしまった人々に対する懴悔の念もある。
 それは最早、”しこり”となって深層意識にこびり着いてしまい、ミミリにとって生涯払拭出来そうにない思い出(トラウマ)となってしまっていたのだ。

「だって、高速艇だよ!乗り物だよ!?私が乗ったら事故に遭うか、爆発するに決まってるよぅ。今回の旅で、シャトル絡みで、二回も事故に巻き込まれたんだから。それで…たくさん人が死んでしまったんです。二度あることは三度あるっていいますし…」
「ミミリ、あんた…」
 ミミリの目から、ぶわっと涙が溢れ出した。
くしゃくしゃな顔で、それでも後を続ける。しゃがれた声で辿々しく…。
「だから、ダメなの。行けない。やだよ、ツツジも死んじゃうよぉ―…。ツツジを危険な目に遭わせたりしたくないの。そんなのはイヤなの。自分のせいで、また人が…。
だから、私は一緒には帰れません…!ここに残ります。帰るなら、ツツジ一人で帰ってください」
 ――それを聞いては、ツツジとしては激昂せざるを得ない。彼女は、ミミリの両肩をがしりと掴んで、必死の形相で訴えた。
「バッカ!私は、ユリウス学園長に頼まれて、あんたを連れ帰りにやってきたのよ。ひと月かけてやっと見つけたのに、手ぶらで帰れる訳がないでしょ―が。私の苦労をムダにする気!?こちとら、ガキの使いでやってんじゃないのよ!」
 それを聞いて、ミミリは口を尖らせ、煽るような憎らしい口調で返す。
「そんなの知りませんよ。ツツジはこのままオメオメ帰って、お使いも出来ない無能の烙印を押されて下さい。そうすれば、二度と私の所になんて来なくて済むはずです。叔父様には申し訳ないけど、ミミリはまだ帰れませんと伝えて下さい」
 その言い方は実際憎らしかった。
 それでもなお、ツツジは食い下がる。
「んなの、出来るわけ無いでしょ。私はアンタを連れて帰るまで絶対に諦めないわよ」
「じゃぁ、私もツツジが諦めて帰るまでここをテコでも動きませんから」
「意味が分からないわよ、このバカミリ!頑固のわからず屋!死んじゃうのよ!?」
「はい。バカ、わからず屋で結構ですよぉ―」
「ッ――――!」
 聞き分けのないことを言うミミリの態度に、ツツジは怒りを通り越して、絶句した。
 ツツジは俯いて黙りこみ、ヘルメットをガシガシと掻きむしる。意見を理解されて貰えず、かなりササクレだっているのだろう。
 しばしの沈黙。
 黙って憮然とお互いを見据えあう二人。
 この状況に耐え切れず、先にしびれを切らしたのはツツジの方だった。
 ツツジは顔を上げて一言一句はっきりと、凄みを込めて力強く言う。
「…ちょっと、ミミリ。こんな時に、ふざけた冗談言わないでよね」
「フザケてません。私は本気です」
 普段ならば、ツツジの剣幕と気迫に押されて折れるミミリだったが、今回はばかりは折れる訳にはいかなかった。
 ミミリの目は真摯なほど真っ直ぐで、強い決意が垣間見える。
 その目は覚悟ある、本気の目をであった。
 
 ――ミミリには狙いがあった。
 突き放すような言葉を投げかけて、ツツジを傷つけようが、怒らせようが、結果として自分を連れ帰るのを諦めてくれればそれで良い。
 ツツジが無事なら自分はどうなってしまっても――例え、死んでしまっても構わない。
 だから…。
「…だから、ツツジ。私のことはもう…」
「……黙りなさい!」
 ツツジは、ミミリの言葉を遮るようにぴしゃりと言い放った。
 早まらず、怒らず、粛々と、淡々と、整然に。
 その声には凄味もあったが、なにより相手の心に思いを響かせようと言う強い気持ちが感じられた。
「いい?よく聞きなさい、ミミリ。アンタは日常を取り戻す必要があるの。今の今まで、散々辛い目に遭ってきたんだから。もういい加減、幸せになってもいいハズよ」
「私の幸せ?そんなのは余計なお世話…――」と話の途中、反射的に言いそうになって、ミミリは口をつぐんだ。
 自分が、ガ―デン808にいた頃。
 自分を逆恨みをする生徒達に虐められ、教員達には嬲られ理不尽な扱いを受ける毎日。
 とうとう耐え切れなくなって、初めて泣き言を吐いた時にツツジは言ってくれた。
『ったく、非道い連中ね。ミミリ、ほんと辛くて可哀想な目に遭ってきたのね。
でも、黙ってやられてんじゃないわよ。そいつらに目にもの見せてやるくらいのガッツを見せなさい。どうせなら、ぶっとばしてやれ。私が許す。喧嘩を売るには高くつく奴だって思わせてやればいいのよ。やれるでしょ?アンタは、強い子なんだから―――――』とメールフォン越しに激を飛ばし、叱咤激励してくれたのだ。
 そういう厳しい優しさこそが、ミミリにはただの同情よりもずっと嬉しかったし、何より肉親のような温かさをそこから感じたのだ。
 そうした心遣いに敬意を払わないのは、あまりにも無神経で傲慢で不遜が過ぎるというもの。 だからこそ、ツツジの言葉に、ミミリは謙虚な姿勢で耳を傾けようと思い直した。
「そうじゃなきゃ割に合わない。プランタリアに来て一時は日常を取り戻したけど、すぐに幸せはその手から零れてしまった。私はね、アンタの幸せと日常を取り戻す手伝いをしたいのよ」
「そんな…私のことなんて、いいですよ」
「何か勘違いしているようね。アンタの為だけってわけじゃないの。学園長はもとより、そうしないと色んな人が悲しむの。アンタが旅の中で関わってきた人とかもね。死なれるそっちのほうが余計迷惑よ」

 はっとなった。ミミリは思い出した。今までの人生で知り合った色んな人達のことを。
 自分を育ててくれた両親に、姉妹同然の親友ツツジ。
 ガ―デン808で虐めから自分を守ってくれた、ナズナ・Z・スイ―トピ―。ル―ムメイトの舘葵深冬。