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ミムロ コトナリ
ミムロ コトナリ
novelistID. 12426
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マジェスティック・ガールEp:1 まとめ

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8.



 時は流れ、ミミリがガーデン808に来てから、二年が経っていた。
 ミミリは六期生になったが、その引き換えに『独り』になった。
 陰ながら助けてくれたル―ムメイトの舘葵深冬もすでにいない。
 ナズナは先月ここを卒業し、プランタリアへ行ってしまった。その友人たちも同じく。
 もはや、表立ってミミリを助けてくれる人間は誰もいない。
 
 深冬がいなくなってから、陰湿なイジメは再開され、今も依然として続いていた。
 時たま、教科書が破り捨てられ、ゴミ箱に打ち捨てられていたり。
 私物用ロッカーに、汚物やなにかのソースがぶちまけられていたり。
 教練で使う野戦服を始め、衣服がロッカーから消えていたり。
 気弱で反抗することを知らないミミリは、『一部』の教官達にとっては格好の獲物。彼らは、肉体的なセクハラやパワハラをミミリに対して恒常的に行ってきた。ここの『空気』と『風潮』に習い、巧みに『偽装』を施した上で。
 毎日襲いかかる肉体的苦痛、精神的苦痛にミミリの心は折れかかっていた。
 鏡に写る自分の目は、昏く泥のように濁り、死んだ魚の目をしている。
 何もかもが嫌になっていた。死ぬことも考えた。だが、強い心で踏みとどまった。
 (辛い…。もぅいやだぁ…。けど。でも…。死ぬなんて出来ない。だって…)
 ここで死んでは全てが『泡』になる。死んだ父と母に申し訳が立たない。
 ましてや、マジェスターとして何も為していないのに…。
 (諦めてたまるか…、死んでたまるか…)
 死ぬことなど出来ない。が、現実は――生きることは辛い。
 ミミリは、やり場のない苛立ちと怒りを抱き、『彼ら』に向け、そして憎んだ。
 ―――自分が何をしたというのだ。自分が悪いというのか。
 他人に悪意をぶつけて何が楽しい。
 あんな卑しい連中が、自分と同じマジェスターの卵だって?
 あんな大人達が教育者だって?
 …ふざけるな。これ以上は冗談じゃない!
 
 今までメールフォンごしに会うときは明るく努めてきたが、もう耐え切れず、ツツジに一切合財をぶちまけた。泥々しい内情を全て吐露した。
 全てを聞き終わったツツジは、ミミリの境遇に同情を寄せてから、こう寄越した。
『ミミリ…――てやりなさい。あなたは強い子でしょう?マジェスターとして皆を守るのがあなたの夢なんでしょ。だったら、こんな所でへこんでいる暇はないはずよ!』
 その答えを聞いて、自分の中で踏ん切りがついた。
 (私は――もう)
 ミミリは、この状況から逃げ出だす事よりも、戦うことを決意した。
 あいつらには思い知らせてやる必要がある。
 人に対して悪意を向け、礼を失する行いが、どのような結果を生むのか。
 いいだろう。その体に教え込んでやる!

 ミミリは忍耐強く機会を窺い、強かにその時を待った。
 
 そして、その日はやってきた。



 切っ掛けはなんだったかは忘れたが、つまらないことでジェニ―とジェイミ―が絡んできたのだ。
「あらあら、ミミリさん。何を描いてらっしゃるのかしら?
んん―。ごめんなさい何が何だか分からないわね。ジェイミ―、あなた分かる?」
「いいや、僕にも分からないよ姉さん。油の塗料をでたらめに塗りたくった、ただの落書きにしか見えないなぁ」
 いや、思い出した。美術の時間、ミミリの描いた絵に、あの双子がちゃちゃを飛ばしてきたのだ。
「貴方達、やめなさいよ。つまらないこと言ってさ!」
 クラスメイトの一人が、二人を咎めた。
「何言ってるんだよ。まるで僕らが意地悪をしているみたいじゃないか。そんなんじゃないよ。外野は黙っててくれない?」
 ジェイミ―達はやめなかった。彼らは蛇のように執拗だった。
「ねぇ、ミミリちゃん。美術眼のない僕達にも分かるよう説明してくれないかなぁ?」
「そうよ。落書きなんていって失礼したわね。下書きとかなんでしょう?」
 ミミリは何も答えず、黙々と絵筆を振るう。
 無視されて、相手にされないことに憤ったのか、ジェニ―がミミリの手から筆を取り上げ、床に叩きつけた。
 それでもミミリは、何のリアクションも示さず、黙って床に打ち捨てられた筆をとろうとした。まともに取り合っては彼らの思うつぼだ。
 筆を手にしようとしたその時。
 ジェイミーが足を振り振ろし、筆をぐしぐしと踏みにじった。筆は圧力に耐えきれず、バキバキと軋む音を上げる。
「おっと―、ごめん。足がすべっちゃたよぉ―」
「―――!!」
 その瞬間。
 とうとうミミリの中で、『何か』が切れた。彼女にとって”それ”はとても許せないことだったからだ。
 両親との繋がりである、絵を描くという行為を蔑ろにされる事ほど、ミミリにとって許せない事はなかった。なにより、二人の行いは”度を越していた”からだ。
「…る…な」
「え?」
「…ふざけるなぁっ!」
 ミミリは、口から怒声を迸らせた。
 突然のことに、ジェイミーは何が起こったのか分からず目を白黒させている。
 それに構わず拳を振り上げるミミリ。目にも留まらぬ速さでジェイミ―の顔面に拳を叩き込む。
ガタァァァン!
 殴り飛ばされたジェイミ―は椅子を巻き込んで床に転がった。
 足をよろつかせながら起き上がろうとするジェイミ―に向かって、更に二発目の拳を再び顔面に叩きつける。
 強く、床に打ち付けられるジェイミ―。
 けたたましい音が美術室に響き渡り、始終を見ていた生徒たちは突然の出来事に驚いて湧き上がった。
 「アンタ、なにしてんのよおぉ――!?」
 ジェニ―がミミリを制止しようとして食らい掛かってきた。が、それは浅はかな行為だったとすぐに思い知らされることになる。
 気弱な性格に似合わず、ミミリは運動神経がよく、格闘技術も実は高いレベルにある。この双子を黙らせてやることなど、その気になればいつでもできたのだ。
 ミミリは伸びてきたジェニーの腕を掴み、投げ飛してやった。
 『びたぁん』と小気味のいい音が響く。床に体を強く打ちつけられ、ジェニーはそのまま昏倒してしまった。
 ミミリは、床に倒れ込んでいるジェイミーの前へと来ると、無言でその胸ぐらを掴んだ。
「うわぁぁぁ!!」
 倒れたジェイミ―に向かってミミリは馬乗りになって殴り続けた。
 やめてと言っても殴り続けた。怒りが収まるまで延々と。
 教官たちが止めに入るまで延々、延々と。
 これが、ミミリが人に向かって拳を振り上げた最初で最後の出来事だった。

 もちろんその後、教官に呼び出されこっぴどく叱られ、厳罰を受けた。喧嘩の切っ掛けを作ったジェイミ―やジェニ―も同じく。
 説教が終わった後、双子は釈然としない顔で文句を垂れていた。
が、ミミリは一切不平を漏らすことはなく、自身の行いを恥じ、自身とマジェスターの誇り高い矜持に則り、甘んじて叱責を受け入れた。 

   ◆   

 それ以降、ミミリに表立って突っかかって行こうとする者はいなくなった。
喧嘩を売るには高くつく相手だと、周囲に認知されるようになったのだ。
 気弱だったミミリは、それを堺に生まれ変わった。
教官達のセクハラやパワハラも毅然とした態度で払いのけられるようになった。