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ミムロ コトナリ
ミムロ コトナリ
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マジェスティック・ガールEp:1 まとめ

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7.



 培養土で敷き固められたグラウンドの砂利を踏みしめる音が聞こえる。
 金髪の少女――ナズナが地を蹴り、体を捻り、蹴撃を繰り出す。
 刹那の単位で間合いを計り、側頭部を狙ってきた足を皮一枚の差で躱すミミリ。びゅん、と風切り音が耳朶を打つ。
 体を回した勢いのまま、胴を捻らせ右足を高く上げるナズナ。胴回し回転蹴りの動作である。
 瞬時にそうだと見切ったミミリは、ナズナの懐に素早く飛び込んだ。
 足全体を使ってラリアットの要領で相手に叩きつけるあの蹴り技は、動作の前後、足下がガラ空きになる。体を支える軸足をタックルで崩せば容易にマウントを取れるはず。
 が、今回に限っては、使える『武器』は体だけではなかった。
 ミミリがタックルを仕掛ける直前。ナズナが蹴りを放った右足をすっと折り畳んだ。
 間髪入れずミミリの目に飛び込んで来たのは棍の先端――ナズナが右手に携えていた棍の石突き部分――が、寸分違わず顔面へと迫って来ている。
 身を屈めたミミリの切っ先を制するように、ナズナは攻撃を置いて来たのだ。
(読まれていた!?)
 そう考えるよりも早く、ミミリの体は『自動的』に動いていた。
 ガギ、キキィイン!
 金属が擦れ、ぶつかり合う音が響く。
 ミミリはすんでの所で、手に持っていたレイピアの腹で棍の先端を受け止め、流し。その軌道を逸らした。
 教練用のT―<アクエリアス>を身に纏い、土煙を上げてグラウンドの真ん中で舞踏(武闘)を演じ続けるミミリとナズナ。その光景を、教官と生徒達が遠巻きに取り囲み、熱を帯びた様子で見ている。
 ナズナは強い。ガーデン808という括りではなく、現存する同世代のマジェスターの中でもトップクラスに入るであろう戦闘能力を有している。
 遠く噂に聞く、戦闘に特化し、二つの属性と能力を持つ『デュアルスキルタイプ』の第一号である『最強』のマジェスター。『凛・A(アキレア)・アルストロメリア』を将来的には超すであろう資質の持ち主であるとナズナは目されていた。
 そんなナズナを相手に、ミミリはよく持ち堪えた方である。寧ろ、善戦していると言ってもいい。
 対戦開始からすでに一分が経とうとしている。
 勝ち抜き形式での紅白試合だったが、白組の中盤で待ち構えていたナズナによって、紅組のメンバーは、すでに四人が倒されていた。どの面子も、開始から僅かニ十秒足らずでナズナに敗北を喫していた。
 ミミリは紅組の八番手であった。
 気弱な性格で知られるミミリがここまで腕が立つとは誰も思っていなかったのだろう。敵味方問わず、皆が呆気の表情で試合を見ている。(次第に、それは驚嘆へと変わっていったのだが…。)
 ミミリは幼い頃より、両親の勧めで剣術を学んでいた。
 その道では高名な先生に師事を受けていたから。という理由だけではなく。どうやら才能があったようで、後天的に反復練習を重ねることで才能(タレント)を開花させることが出来るマジェスターの『設定』も相まって、ミミリの剣の腕は、めきめき上達していった。

 レイピアで刺突を繰り出すミミリ。二合、三合と繰り返すも、ナズナはそれを棍で受け止めようともせず、体を僅かに反らして躱し続けるのみ。こちらに大技を振らせて隙を突こうと考えているのは見て明らかだった。
(大胆に打って出ようか…。駄目。カウンターを取られる…。崩すにはどうしたら…)
 が――勝敗は唐突に決した。
(あ…!)
 気付いた時にはもう遅く、ミミリの体は宙を舞っていた。
 いつまでも様子見の一手に甘んじ、慎重に立ち回ろうとするミミリの思惑を見抜いたナズナが一気呵成に攻め立てて来たのだ。その攻勢の苛烈さに耐えきれず、ミミリは敗北を喫したのであった。

 その日の晩。寮での事である。
「昼間はごめんね。やりすぎちゃったかな?」
レクリエーション室に設置されたソファーに腰掛けていたミミリに、ドリンクボトルを手渡してナズナが言った。
「いいえ、そんなことは。むしろ良い勉強になりました。相手の心理を読んで攻守のバランス配分を切り替える。私が待ち気味になって攻めあぐねている所を狙い、猛攻を掛け、対策を立てる暇さえ与えず攻め倒す…。見事にしてやられました。えへへ…」
「心理戦も戦いの内ってね。まぁ、変異体相手に通じるセオリーじゃあないけど。でも、僅か数ヶ月で強くなったわねミミリ。最初は私相手に十秒持たなかったのに」
「ナズナが色々と教えてくれたお陰ですよ」
「いーえ、どういたしまして。力になれて何よりだわ」
 ナズナは、タチの悪い生徒に度々絡まれるミミリの為に、暇があれば武術の稽古を付けてあげていた。
 ただし、他者に暴力を振るうのを良しとしないのがミミリの信条だ。武術の心得が抑止力として働いたことは一度も無かったというのが実情である。
「最近じゃ、やんちゃ共も絡んでこなくなったし、陰湿な嫌がらせも減ったみたいだし。落ち着いて良かったんじゃない?」
「あはは…ですね。ナズナや友人の皆さんのおかげですよー。あと、間接的にですが、深冬さんの」
「ああ。班長主席の『深冬サマ』ね。あの人、厳しいよね。誇り高い厳格な人だって言うのは
分かるのだけれど…」
 そういうナズナは、どこか面持ちが暗かった。
「風紀と規律を守るために、心を鬼にして役職に当たっているんですよ深冬さんは。公の為に身を尽くすその姿勢。立派だと思います」
 ナズナとは打って変わって「むふー」と、興奮した様子で言うミミリ。
 ナズナは苦笑いをして、
「あぁ…まぁ、そうね…。けど、みんな怖がっているわ、深冬さんのこと」
「立場上、仕方なくそう言う風に振る舞っているのでは?そう言う役回りですし」
「それは、そうかも知れないけどね。所であの人。裏でなんて言われてるか知ってる?」
「いえ」
「”氷の女王”だって。温情とはとても無縁な氷のような冷酷さと冷徹さに加え、有無を言わさぬ迫力と威圧感。違反を犯した生徒に対する厳しい『指導』は容赦がない。なにより、あの心を抉る鋭い言葉よ。彼女に『詰問』されて、トラウマになってしまった生徒もいるって」
「えぇー、そうなんですか?大げさじゃありません?」
 ナズナは、首を振り、
「いいえ。深冬さんの姿を見ただけで、恐慌状態に陥ったり、卒倒する人も出ているのよ。相当じゃない?」
 その事実を聞いてミミリは「はぁ」と、深刻そうに顔をしかめた。そして、うんと頷き。
「なるほど。深冬さんはきっと、精神面を鍛えようとして皆さんにきつい言葉を投げかけているんですね!マジェスターたるもの、なによりメンタルが強くなくてはいけません。その程度で心が折れては、変異体と戦う以前の話。さすが深冬さん、そんな所まで考えての事とは恐れ入ります。やっぱり凄い人です…!」
「んがっ…!?な…なかなか独創的な解釈の仕方ね…。所で、あなた怖くないの、あの人?」
「そうでしょうか?優しい人ですよ深冬さんは」
 あっけらかんと言うミミリ。
 そのセリフを聞いて、ナズナは何かを思い出した様だ。
「あ…。確か、深冬さんって、ミミリの部屋の班長さんだったっけ?」