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ミムロ コトナリ
ミムロ コトナリ
novelistID. 12426
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マジェスティック・ガールEp:1 まとめ

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6.



 数日後、教官達の間で、班長達を総括する班長主席を選定する会議が行われた。
班長主席は、寮の班長達をまとめ、生徒でありながら生徒達を指導する役割を持つ。寮でのルールやモラルを規定し、教官達に代わり、生徒達を厳しく管理・指導するのだ。その権限は、生徒達にあてがわれた役職の中で最も高い。
 話し合いの末、今期班長主席に選ばれたのが、誰であろう館葵深冬だった。彼女が、向こう一年間、班長主席を勤めることになったのだ。

 深冬は、もの静かな生徒だが、怜悧冷徹で、極寒の土地に舞う吹雪の様に冷たく厳しい人であると周知されている。精神成長の度合いも高く、見かけ以上に中身は『大人』だ。
 そんな人物が班長主席になったのだから、当然やることも厳しい。厳密には、ルールとモラルの徹底ぶりが、威容に厳しかった。
 ガーデン808も、将来は軍属になるマジェスターを教育する教習施設なので、その生活様式も軍隊のそれと変わらない。定時ごとにスケジュールが組まれ、一分一秒の狂いもなく精緻に行動することを要求される。スケジュールから逸脱すれば、当然ペナルティだ。
 深冬も、先達からの教えに習い、逸脱した生徒には容赦なくペナルティを課した。
 が、それ位は当然。やって当たり前の事。
 もっとも厳しく取り締まらなければいけないのは――。

「またか…」
 諦めと失望。いくばくかの苛立ちを込めて、ミミリは脱衣場のロッカーに備えられた、篭の中を見て言った。
 入浴を済ませて浴場から出てきてみれば、篭に脱いで置いてあった体操着がなくなっている。
 自分に対して陰湿な嫌がらせをして来る連中の仕業だと言うのは、すぐにわかった。
 ナズナが目を光らせるようになってから直接的な暴力は鳴りを潜めた物の、今度は私物を隠されたり、盗まれたり、悪戯されたりとする間接的な嫌がらせが頻発するようになった。
 犯人は大体目星がつくのだが、現場を押さえない限り犯人だと断定出来ないので、疑わしい人物を問い詰める訳にもいかない。”黒を黒だと言えず”。なんともフラストレーションが溜まるやり口だと言える。
 そうした精神的苦痛を与えるのが犯人の目的なのであった。
「うう…下着姿のまま出るわけにもいかないし…どうしようぅ」
 ミミリがどうしたものかと悩んでいると、浴場の外からパタパタと足音が聞こえてきた。廊下の方で生徒達がなにやらさざめきあい、集まり出している気配を感じる。浴場の入り口から、廊下の向こうを指さして早歩きで行く生徒達の姿もちらほらと見えて――。
 ミミリは、気になって浴場の入り戸からひょっこりと顔を出し、様子を窺って見た。
 
 廊下には人だかりが出来ていた。
 衆人環視の渦中にいるのは二人の女子生徒と六人の六期生。それと。
「打擲十回」
 そう冷たく沙汰を言い渡すのは館葵深冬であった。
 班長主席の命令を受けて、生徒指導官を勤める六人の六期生が、ルールを犯した二人の四期生をその場に組み伏せた。
 指導官が、廊下にひざまつく四期生に向かって、木製の打擲棒をその臀部に振り下ろす。
「ひぐぅッ!」「あひぃ!」と、情けない声を上げる四期生の少女二人。
「情けない声を出すんじゃない!それでもマジェスターか!」
 指導官である六期生の一人が、がなり立てて言う。
 打擲の罰を受け終わった二人の生徒を待っていたのは、体罰よりも厳しい、班長主席である深冬の『詰問』だった。
「貴方たちはルールを犯した。それは分かるわね?」
 深冬は、手に体操着を持って、二人の目の前に突きつけた。
 氷の声に気圧されて、コクコクと頷く二人。
「他人の衣服を持ち出すのは法度に抵触する。事情が何であれ。それもわかるわね?」
「は…はい」
 それが、二人の罪状だった。
「何故こんな事をしたの?」
 二人は、バツが悪そうな表情を浮かべて俯き、黙ったまま答えない。
 「顔を下げるな、目を背けるな。私の目を見なさい」
 底冷えする声に注意を促され、顔を上げる二人。一人が「ひっ…!」と怯えた声を漏らす。
 「ここ最近。特定の生徒の私物を隠したり盗んだりして、嫌がらせをしている事案が発生しているらしいわね。もしかして、貴方たちがその犯人なのかしら?」
 静かな威圧を放つ深冬の声に臆しているのか、二人は顔を青くして沈黙を保っている。
「答えなさい」
 つららのように鋭利で心を抉る声色だった。
 深冬のその声に畏怖を感じ、洗いざらいを吐かなければ”どうにかされる”という恐怖に襲われたのか。
「ちっ…ちがいます…!私たちじゃ…、あ…ありませんっ…!」
「そう」と言い、冷えた目で二人を見る深冬。その目には心を凍り付かせる迫力がある。
「話を最初に戻しましょう。理由は?この体操着の持ち主に何か恨みでもあったの?」
「い…いえ…」
 言い淀むその声を聞いて、深冬の目が鋭さを増した。
 少女はその目を見て、「あ…いや…はい!そうです。私はその生徒が嫌いで…やりました。その子のせいで、集団教練の評価試験が…」
「なるほど…よくない結果に終わったと?だからと言って、逆恨みをするのは感心しないわね」
 そこで、女子の一人が声を上げた。
「でも!私たちだけじゃないんです!その子に嫌がらせをしているのは、他にもいるんです。だ…だから…!」
「だから?皆がやっているから自分達も便乗してイジメに荷担しても問題ないと?悪い奴はイジメてもいいと?そう思ったの?」
 女子生徒は押し黙り、
「そ…そうです」
 バシィイン!
 言った瞬間、深冬の平手が女子生徒の頬を打ち据えた。
「恥を知りなさい。自分の意志決定と行動を、他人の振りを見て決めるなどもっての他。自立心が足りないわ。そんな無思慮で浅はかな考えを引きずって将来戦場に出るつもり?今から考えを改めなさい。なぜだか、分かる?」
「…はい、自分ばかりでなく、仲間や守るべき人々までをも殺してしまう…からです」
 深冬は目を閉じ、「存じているのなら結構。これに懲りて、意識を改め精進なさい。明日中に反省文を書いて提出。処分はそれで以上とします」
「は…はい!」
 大きな声で変じる二人。それを聞いて深冬は、この二人だけではなく、この場に集まった生徒達にも訓戒を施すつもりで言った。
「ここにいる皆もよく聞きなさい。マジェスターであるのならば、自らを厳しく律しなさい。私怨による復讐や意趣返しなどもっての他。そうした行いをする者は厳しく処罰します」

 深冬の厳しい指導を恐れてか。この日を境に、ミミリに対する陰湿な嫌がらせは、ぱったりと止んだのだった。