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邪剣伝説

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 ともあれ、油断しないことに越したことはない。自分に向けらる視線や不自然な気配を見逃さない程度に必要最低限の気配りだけはモミジも残していた。封印騎士団の物が巡回している可能性だってある。彼らであれば、モミジを視界の端に捉えただけで『裏切り者』であることを認識するだろう。様は注意力の差だ。最初から注意をしているかしていないかの差で、人間の認識力には大きな開きが出る。
最低限の注意をしながら同時に、モミジは道行く人々の会話に耳を傾けてもいた。
 大概は何気ない日常生活の雑談ではあろうが、だからこそその街に住む者とって密接に関わることであるとも言える。さらに、異邦人らの会話であれば他の都市の情報を断片であっても仕入れる事が出来る。
「ソウサの基本は『脚』ってね――」
 と、口ずさむモミジ。
…………一人旅だと本当に独り言が増えるな、と思う最近。たまに相方が欲しいと思う。
 なにはともあれ、まずは情報を集めなければ話は始まらない。この都市には自分が求めている物があるのか、無いのか。あるとすればどのような手でそれに迫るか。そして、それを『破壊』した後にどのような手で街を脱出するか。
 考える事は山ほどある。
山ほどあるが今できる事などたかだか知れている。
 肝心なのは、出来る事を確実にこなしていくこと。
その一つ一つの積み重ねがいつかは、大きな成果となって現れる。
 重要なのは選別だ。
 出来る事。出来ない事。
 やりたい事。やらなければならない事。 
 優先順位を違えてはいけないのだ。やらなければならない、且つ出来る事をしらみつぶしに潰していくしかない。
「――――とりあえず、出来る事でやれる事は、手元の果物(とうぶん)を摂取する事だな」
 なにせ、列車の上に乗っていた間は、ロクに呑まず食わずだったのだ。なによりまずは栄養の補給が先だ。いざという時のモチベーションに関わる。
――と、言うのは実は建前で。
「いや、さすがは交易で栄えてる都市だ。美味いモノが山ほどあるね」
 右手にあった果物の欠片を口の中に放り込むと、左手にあった焼いた肉の串物を頬張った。地方に伝わる独特のタレを使っており、珍しくも旨みがある味わいが口内に広がった。
どこからどう見ても栄養補給云々ではなく、純粋に『味』を楽しんでいる様だ。
よく見れば、彼の両手には袋に入った多種多様な食べ物が、それこそ大量にぶら下がっていた。モミジの体型からして、明らかにオーバーした量である。
「逃亡生活の一番の潤いは、こうした食べ歩きだねぇ。観光名所とかは警備が厳しくて入るのめんどくさいし、宿でゆっくり休もうにも門前払いだし――てか通報される」
 最後は切なさが微妙に漏れ出ていた。
 つまるところ、この逃亡旅生活の唯一の楽しみと言えば、その場所場所での特産物で舌を潤すぐらいのことしかできないのである。こうやって何かしらの楽しみを見つけてないと、挫けてしまいそうになる。
「さて、次はこの――――って、でかいなこの飴。顔の半分ぐらいあるな…………お?」 
出店品をひたすら咀嚼嚥下し、英気を養いながら道を歩くふとその時。
 通りに片側に、人垣が出来ているのを発見した。大道芸か何かの見世物でもしているのかと最初は思ったが、どうやら違うようだ。人垣から伝わって来るのは不安感が漂うどよめき。
 気になったモミジは人垣の外周にいる者の一人に尋ねた。
「ちょっと良いかい」
 声を掛けたのは、若い青年。「ん?」と反応し、振り返ってきたそいつに、
「何かあったのか? 人が集まってるけどよ」
「――あんた、余所者かい?」
「そんな所だ。さっき列車でこの都市に付いたばっかりだ」
「そうか。じゃあ、知らないのも当然か」
 やはり、この都市に住む者は外来者に慣れているようだ。青年の言葉には棘が無い。他の都市であれば他の都市から来た者に対して少なからずの警戒心を抱くものだ。
「皆何やら見てるっぽいが」
「ああ、あそこは掲示板なんだ。みんなそれを見てるのさ」
 快く答える青年の指先が示す方向、人垣の各々の視線の先にある壁には確かに、紙を張り付ける為の立て札が成されている。其処には何やら文章が記載された張り紙がなされている。おそらくは新聞だろう。
貴族なら定期購読で新聞を取ってるだろうが、庶民にそれは敷居が高い。印刷技術があまり発達しておらず、一部一部の値段が高いのだ。なので、ああして目立った情報があったら新聞を掲示板に張りつけているのだ。これは、大概の都市でも同じだ。少し話がずれるが、同じ理由で書物などの紙媒体は一般的に値段が高い。
「で、件の内容は何なんだい?」
モミジの身長は平均男性よりも少々高くはあるが、この距離で加えて人の頭に遮られて事の内容は読みとれない。ただ、この場の雰囲気から、あまりよろしくない内容である事は間違いなさそうだ。
「封印騎士団の人間が一昨日あたりに亡くなったらしい」
「そいつはまたご愁傷様だ。が、言っちゃ悪いがそれは日常茶飯事だろ?」
 封印騎士団の仕事は『荒事』だ。命と隣り合わせの状況など当たり前と言っても過言ではない。他らなぬ元封印騎士団所属だったモミジがそれを一番心得ている。所属していた頃にだって、騎士の訃報が届いたことは何度かある。幸いと言っていいのか疑問だが、モミジが配属されていた騎士団の支部では、彼が顔を知る同僚が任務中に無くなった事はなかったのだが、少なくとも自らの死を楽観視出来る程に生温い場所では無い。
「いや、騎士が亡くなったのは任務中の話じゃないんだ」
「任務中じゃないって、どういうことだい?」
 騎士の死とは大概、任務中に『敵』との交戦で死亡する事だ。それ以外となると、病死か、あるいは事故か。しかし、その位なら新聞に載せられるほどの話題では無い。
「最近、騎士が変死する事件が多発してるんだ」
「変死って――具体的にはどんな死に方だよ」
 変――と言うのならば、その死に方は確かに異様なのだろう。でなければ、新聞で取り上げられるほどの話題性を持たないだろう。
「何でも、躰の一部が『無くなってる』状態で発見されるらしい。腕やら足やら首やらがごっそりと抜け落ちてるって話。しかも、これでもう四回目だ」
「ほぉう、そいつは珍しいな」
 語る青年は気付かなかったが、モミジの眼の色が静かに変わった。
「俺は実際に見たことは無いけどさ。知り合いが、たまたま死んじまった騎士を見ちまったらしい。その人は首の部分が無くなってて、胴体と頭が別れた状態で発見されたってさ。偶然現場の近くを通りかかったそいつは、しばらくノイローゼになっちまった」
「そりゃ、生首見たらショックを受けるわな」
 相槌を打つモミジの中には、えも言わぬ予想が生まれていた。
 その予想をさらに確信にする為、モミジは質問した。
「なぁ、もしかして、その死んだ騎士様って、全員上級騎士だったりするのか?」
「ああ、そうだが……あれ、もしかしてこの話知ってたか?」
「いんや、初耳だ。けどまぁ、いやいや…………なかなかどうしてなるほどね」
 フムフムと、モミジは顎に手を当てて考え込む。
「まったく。最近は何かと物騒だ。噂にゃ、この他にもヤバそうな話を聞くしな」
作品名:邪剣伝説 作家名:Aya kei