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邪剣伝説

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「仕方がなかったのだよ。万民を掬う為に小さな犠牲は付き物だ。それに、彼らは殉教者だ。言わば必要な犠牲だったのだよ。それにしても、驚くほどに正確な見解だ。まるで全てを見てきたかのようだ」
 感心する素振りを見せる司教に。
――――モミジは激昂した。
「ふざけてんじゃねぇぞこのクソったれ野郎がッッ!」
 ほぼ無意識に、モミジは多数の剣を周囲の空中に具現し、地に突き立った。怒りのあまりに、溢れだした感情が反射的に剣を創造したのだ。
「仕方がなかった、だと? その一言で納得してんじゃねぇ! 小さな犠牲? だったらその犠牲の中に、いの一番にてめぇ自身を入れるべきだろうが!」
「私が居なければ、聖剣の完成はあり得ない」
「だったら、始めから聖剣なんざ代物を作らなきゃいい。てめぇら教団は人を救う為の組織だろうが。だったら、その為に人を犠牲にしていい道理はねぇ!」
 人を救う為の器物が、人の命で精錬される。これほどに愚かな不等式は無い。
 仕方がなかったの一言で済ましていいわけがない。
「人は己以外の何かを犠牲にし、その屍の上に人生を歩く。大なり小なり、形はどうあれ人間が生きている内、他の誰かを犠牲にしているのだよ」
「だからって率先して犠牲を生む必要もねぇ」
「言っただろう。彼らの犠牲は必要だったのだと」
「必要な犠牲なんざ、本来あっちゃならねぇんだよッ」
「では聞こう。貴様はこの場にたどり着くまでに、何人のモノを傷つけてきた? 先程まで戦っていた者達は、元々は貴様の戦友だったのだろう。その者達を傷つけてきた貴様が、何を言うのだ」
「なこたぁ百も承知だッ」
 立ち塞がるモノを全てなぎ倒し、親しき者達の心を裏切り傷付け、モミジは聖剣の元にまでたどり着いた。
(それでも、だ)
 自分の行動が矛盾を孕んでいると理解しながら。
「でもな。犠牲に納得なんざしちゃいけねぇんだよ。そうさ、必要な犠牲が回避できない場面はいつだってある。それでも、その事を納得しちゃいけぇね」
「それこそ愚行。過去に縛られて、身動きが取れなくなろう」
「だったらその過去丸ごと背負って進めばいいんだよッ! ありったけの覚悟と後悔背負って進まなくちゃいけねぇんだッ。それが出来ない奴は、大義掲げて悦に入ってるただの腐れ外道だッ」
 モミジは大切な人を傷つけてこの場に居る。大好きな人を傷つけてこの場に立つ。
それでも、と心の刻みつけた誓いを思い出す。
 ――――全てを犠牲にしてでも、全てを守って見せる。
 目に見える全ては守れなくて、手の届くところすら守れる保証はなくて。
 それでも、守りたいと思った。
 約束したのだ。
 ――――愛する人をこの手に掛けた時から。
「まずはそこの木偶人形を潰す。でもって聖剣はぶっ壊す。ついでに腐れ外道のてめぇもぶっ殺す。最後に、この施設は跡かたも無く叩き潰すッ」
 モミジの周囲に突き立っていた剣達が形を崩し光となり、モミジの右手に収束していった。光は形を作り質量を生み、モミジの右手に片刃の長剣が握られる。それまでの簡素な造りだったそれらとは違い、刀身の峰から鍔に掛けて無骨な裏打ちがあり、柄の形状も一味違う。
「行くぞこの野郎がぁぁぁッッッ」 
剣を逆手に持つと、モミジは吼えながら走りだした。
「行(ゆ)けッ。愚かなる反逆者を断罪するのだッッ」
 司教が命じると、それまで停止していたゴーレムが力を取り戻した。左腕が持ち上がり変形し、モミジに向けて熱量を放射した。
軽いステップでやり過ごすと、モミジはゴーレムの懐に入り込み、力任せに剣を叩きつける。図体に似合わない素早い腕の振りでこれを弾き飛ばし、元の形に戻った左腕を薙ぎ払う。モミジは垂直に飛んでこれを避けると、重力に引かれて落下する勢いを利用して巨人の脳天に振り下ろした。
人間ならば、鎧越しでさえ衝撃で脳震盪を起こしうる一撃は、ゴーレムの頭部を少し揺るがすだけに収まる。ただ、受動的感知装置(センサー)が収束している部分だけに、ゴーレムの動きが小さく鈍る。
「もういっちょぉぉぉッッッ」
 躰ごとを大きく回転させ、遠心力を最大限に乗せた振りを、ゴーレムの脇腹に打ち込む。なんと、成人男性百人にも匹敵する質量を持った鋼の人形が、よろめいてバランスを崩した。魔晶細胞による恩恵があれど、とてつもない膂力だ。
 にもかかわらず、ゴーレムの装甲には小さなへこみが出来ただけで、目立った損傷はなかった。凄まじい強度を誇る。
「無駄だッ。その魔導人形の装甲は固定砲台級の威力がなければ貫けんッ」
 ゴーレムから一歩引いた位置に下がっていた司教は勝ち誇る様に叫んだ。ところが、次の瞬間に笑みが凍りつく。バランスを崩し、地に倒れたゴーレムに脇目もふらず、モミジがこちらに向かって突進してくるではないか。
「狙いははなからこっちよぉッ」
「クッ……!」
 突進の速度を利用した突きを、ディガルへと捩じり込む。 
 間一髪、ディガルは懐から数珠付きの輪を取り出し、目前にかざした。
 切先が届こうかと言うところで、数珠から出現した光の盾に防がれる。更に、盾から光の触手が現れ、剣に絡みついた。押せども引けどもびくともしなくなる
「司教の地位に就く前は、これでも災厄種を相手にして――――」
「しゃらくせぇッ」
 言葉が終わる前に、モミジは剣を手放し更に一歩を踏み込んだ。
「ぶち抜けェェぇ」
 己と司教を阻む盾へ、モミジは拳を振り抜いた。
寸前、いずこより現れた黒い霧が、拳を覆った。
盾と拳が衝突し、一瞬のスパーク。黒い霧と盾が相殺するように、弾けて消えた。
「素手でだと……………ぐあァッ」
障害物が無くなった空間を一足で超え、モミジは司教に蹴りを見舞った。腹部に強烈な足の一撃を喰らった司教はピンボールの様に派手に吹き飛んだ。
「そらよ、こいつも持ってけッ」
 剣を複数個空中に具現し、司教に追い打ちをかけようと解き放つ。けれども、横から襲う熱線によってどれもが消し飛ばされる。ゴーレムの左腕から発せられたものだ。
「やっぱり、ゴーレム(あいつ)の主(マスター)設定はあの司教になってるみたいだな」
 おそらく、司教があのゴーレムの行動方針(プログラム)を書き換えたのだ。聖剣の防衛ともう一つ、己の守護を命じてあるのだ。ディガルがこの場に現れた時の事を考えれば当然ともいえる。だから、真っ先に司教を倒してしまおうとしたのだが。
「めんどくささで言えば間違いなくあの人形の方がでかいな」
 やはり、あの魔導人形を先に始末しておくべき。どうせ今の一撃で、司教はしばらくロクに動けまい。生身の人間なら上半身と下半身が分離する位の、魔導器使いでも内臓破裂に背骨が折れてもおかしくない衝撃だ。
「とりあえず、司教は無視できるな」
 最低限の警戒は残しつつ、モミジは意識を巨人へと集中させた。
 地面に落ちた剣を拾い上げ。どっしりと腰を落とした中段。躰の軸を正中線に揃え、深く深く構える。
 頭は凍るほどに冷え切っているのに対し、心は激しく燃え盛っている。
 敵は感情を持たない機械とはいえ、全力を出すに値する敵なのだ。
「久々の本気(ガチ)だ。楽しませてくれよ…………」
作品名:邪剣伝説 作家名:Aya kei