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邪剣伝説

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「随分とまぁ好戦的な司教様だ。一応、地上で寝てる奴らは『捕縛』のつもりで挑んできたんだが」レアル達の事だ。
「世界の救いの主であり、我らが主である女神に矢を引こうと言うのだ。それだけでも罰あたりだと言うのに、女神からの賜りモノである始原の理器すら強奪した罪。まさに万死に値する。その他にも、貴様は色々と知りすぎている様だ。教団の未来を考えるに、貴様を生かしておくのは得策ではない」
 揺ぎ無い言葉には強い意志を感じられる。必要があるならば、冷徹な判断が下せる人物だ。上に立つ者としては正しい姿勢に、モミジは「へぇ」と口端を歪めてみせた。
「随分な正義感と覚悟だが、お前さんの女神様は大量殺人を許容できるほどに外道なのか?」
「…………何が言いたい」
 とぼけるなよ、とモミジ。
「この場にお前さんがいるって事はつまり、ここの管理はお前がしてんだろ? 当たり前だ。『千年前の戦い』から未だに機能を失っていない施設がここにある。そんなのを管理できるとしたら、教団しかあり得ないからな」
 教団は大量の魔導器を保有するので有名だが、もう一つ。邪神と女神が戦いを繰り広げていた千年前の発展した科学技術を数多く保有している。モミジが白化した変死体を検死した死体安置室もそうだ。一部魔導器を利用しているが、大半の制御は機械によって自動的に行われている。
「道理だな。貴様の言葉は全て正しい。この場所は、女神と邪神が戦いを繰り広げていた頃に建設された『研究施設』だ」
 モミジの予想通りに、この地下施設はフィアースにおける新しい礼拝堂を建設する過程で地中から発見されたのだ。これにより建設計画は中止し、だが地下施設の調査及びに利用が検討され、現在ではある目的の為に稼働を続けていた。
「正直驚いたぜ。まさか千年前の技術を扱える奴がいるとはな。複雑は教団で使われてる類の戸はレベルが違うのによ」
「さすがに知らぬようだな。司教ともなれば、『知識の箱(ライブラリ)』を扱う能力が必要とされるのだよ。当然、千年前の技術もその応用だ。無理ではない」
知識の箱――司教にのみ閲覧を許される、膨大な知識が納められた箱。一片一メートル正方形の箱に、数万冊分の記述が記録されていると言う。
(まぁ、ぶっちゃけパソコンだよなぁ)
 むしろ驚くのは、『それ』を操作し、情報を引き出す技能を習得させる教育だ。どのような状態でそれが残されていたのかが気になる。
(…………やば、ちょっとツボに入りそう)
 目の前の厳つい司教が、『液晶画面』を前に必死になって『キーボード』を操っている姿を想像し、場違いにも声を上げて笑いたくなる。シリアスな雰囲気がぶち壊しになる事必至なので、腹がよじれる思いで耐える。
「ま、まぁ…………それはいいとして、だ。問題はこの施設が何のための施設か、だよな」
「ほぅ、貴様は知っているのか?」
「大まかな部分はな。別に詳細を知ろうとは思わねぇよ。俺の目的は最初からお前さんの後ろに浮かんでるシロモノだからな」
 指差した先は真っ直ぐと、神々しく浮かぶ剣へと。
「…………やはり、貴様の目的は『聖剣』か」
 ディガルは背後の剣を振り返り、向き直る。
「どうして貴様の様な下級騎士の出が『聖剣』の所在を知り得たのか、さすがに興味が出てくるな」
「聖剣なんざ、過去の戦乱の話にでっかくのってるだろう。誰でも知ってる」
 言いながらも、モミジは司教の指している点が違うのを理解していた。
「だが、貴様は『聖剣』が現存している事を確信していた。教団の者でも、今に残る聖剣の存在はごく限られた者にしか伝わっていない筈だ」
 そう、聖剣とは女神と邪神の戦いに置いて、邪神の半身を砕いた時に刃も砕け散ったと伝えられている。あの伝承が間違いだったのか。
「より正確に言っちまえば、この世に聖剣なんざどこにもない」
 次に出たのは自らの言葉の否定だ。
「今現存する全ての聖剣は、女神の聖剣を劣化複製(デットコピー)した模造品に過ぎない」
「そうだ。過去の先人達は女神の再臨を願い、女神が半身を持って作り上げた聖剣を新たに創造しようとした。聖剣があれば、それを依り代とし、再び女神が世界に光明をもたらすと信じて。この施設は、そうした者達が作られたのだ」
 別の側面で見れば、人が神の降臨を人工的に促そうとした研究とも呼べる。
「そして今、千年前の祈願を、私がこの手で完遂させる。全ては女神の手による世界の救済を望んでだ」
 説き伏せる口調の司教は、己の言葉に酔っているかのようだった。
「――――その望みをかなえる為に、何人の人間を犠牲にしたンだ」
 底冷えする程の冷徹な空気がモミジから発せられた。自らの言葉に高揚していた司教は、瞬間的にゾッと背中が凍りつく。視覚的に捉えるモミジと、肌で感じるモミジの気配に齟齬が生じる程の、威圧感。 
「ここまで来て、俺が知らないとでも思ってたのか? 聖剣の本質は別だが、その外殻。聖剣を『剣』の器に『封じ込める』には莫大な量の魔力が必要だ。空気中から取り込める魔素なんかじゃ補いきれない。それこそ、形ある物質を支える内包魔素その物を必要とする程にな」
 ギリッと、モミジは噛み締めた。
「だから、テメェはこの世で最も外道で効率よく魔力を充填する手段を選んだ。人間が体内に保有する魔素をそのまま使いやがった。本人の意思に関係なく、無理やり、根こそぎ絞りつくした」
 モミジが昨晩にレアルに出した最悪の可能性。数えきれない犠牲者の末路。体内の魔素を消費し尽くし、白砂となってこの世から形を失った者たちの真実。聖剣を形作る為のいけにえとして捧げられたのだ。
「それだけじゃねぇ。実像を持ち始めた聖剣の試運転に、自分の部下を実験動物代わりに使った。将来的に、お前が何のリスクを負わずに聖剣を扱う為にッ」
 変死体として発見された四つの死体。これらは、生身の人間が聖剣を扱った時の反動を推し量る為の実験だ。
「聖剣は作るのにも膨大な魔力が必要だ。それと同時に、扱うにも膨大な魔力を櫃よとする。だから、部下の中で最も魔力を得られる者を使って経過を記録し、制御の方法を編み出そうとした。発見された四人の死体は、実験の後に寝床に帰ろうとした奴らの残酷な末路だ。違うかッ」
 今回の事件でモミジが考える『白化』は二通りある。全身を白化し、モミジですら目にする事叶わなかった被害者。そして、体の一部分にだけ白化を起こし事切れていた騎士。レアルには言わなかったが、前者の全身白化の中にはおそらく、数人の騎士も含まれていた筈だ。一般人に比べて内包する魔素が多いからだ。
 ただ、発見された四人の騎士は聖剣を扱う為の犠牲者。実験の過程で根こそぎ魔素を絞り取られるも、辛うじて生き残り、だが命を繋ぐには明らかに小さな灯。実験が終わった後、最後の力を振り絞って帰るべき場所へと向かい、力尽きたのだ。この場所は、発見された白化死体のどれからもほぼ同じ距離にある。魔晶細胞の的性がどの騎士も同程度のランクだからだ。実験終了後から白化し死亡するまでの時間はだいたい同じ。その予測を立て、後は該当する地域に目ぼしい敷地を見つければ、モミジがこの場所にこれた証明だ。
作品名:邪剣伝説 作家名:Aya kei