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邪剣伝説

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 ただ、不思議な事に、扉であるのに取っ手が見つからない。出入り口とは通常外に開く筈なのに、こちら側に引っ張る為のドアノブが見つからない。
「…………なるほどね。下にこんなのがあるから、建設計画を断念した訳か」
 モミジは扉の脇にある壁に寄った。そこには長方形の機械らしきものが嵌めこまれており、何個かのボタンが付いていた。モミジはそれらを慣れた手つきで操作する。すると、手も触れていないのに、ドアノブのなかった扉が、左右へスライドした。
「機能は生きてるのか…………戦乱末期に造られた施設だなこりゃ」
 内部は扉の外より更に明るい。出入り口の扉にあった炎でない光が天井を奔っており、通路を明るくしている。どこかしら圧迫感のある道を、モミジは進んでいく。
 やがて、大きく開けた空間に出る。地下にあるとは思えないくらいに広い。円柱状の空間で、中央部には空間の半分以上を占めるほどに巨大な機械が置かれている。床と天井から巨大な円錐が付きだしており、それぞれの頂点が交錯する点が少しだけ離れている。

 ――――そこに、一振りのツルギが浮かんでいた。

 神々しい――としか表現できない美しい器物だ。見る者を魅了させ、心を洗い、清らかな念を抱かせる、武具の器を持った芸術品にも近しい。
「見つけたぞ…………『バニッシング・アーク』ッ!」
 誰もが見とれてしまう様な宝物(ほうぶつ)を前に、モミジは激しい感情を露わにした。レアル達との戦いでも見せなかった厳しい表情を隠さず、七剣八刀を嵌めた右腕を振りかざした。
 出現したのは、身の丈はある柄と刀身を持った剣。剣は根元から先に賭けて二股に分かれており、槍にも見える形状をしている。そして、二股の間からは、バチリバチリと電撃が迸っていた。 
「穿て――雷帝の咆哮(トール・ハンマー)ァッ!」
 まさしく咆哮と呼べる激しい帯電音と共に、青白い閃光が放たれた。
宙に浮かぶ剣へと、一直線に雷光が走る。
しかし、雷は剣へ届く寸前、見えない壁に阻まれるように弾けて消えた。
「ちッ…………そうは問屋が卸さねぇか」
 即席ではあるが、全力は惜しまなかった。それが防がれたとあれば、簡単に破壊はできなさそうである。
「だったら――――」
『容量不足』の反動で砕けた大剣の柄を放り投げると、超重量の大剣を具現し、両手に持って走りだす。見えない壁の元は、剣の上下にある巨大な機械だと判断した。
「――――装置丸ごとぶっこわしてやらぁッ。おらぁぁぁッッッ」
 質量を持っているとは思えない圧倒的な踏み込み速度だ。レアル達を相手にでさえ出さなかった全力を、この瞬間に惜しみは無かった。
『…………敵性反応を確認。迎撃体制に移行します』
 無機質な音が響き渡った。男とも女とも取れない声がどこからか届く。
 巨大な機械の手前に穴が生まれた。床の一部がスライドしたのだ。穴の直径は三メートルほど。その奥底から高速で『何か』を乗せた新しい床がせり上がってきた。
『守衛鉄人形(ガード・ゴーレム)起動。敵性反応への迎撃を開始します』
 ガコンッと音を立てて穴が下から塞がれる。
 地の底の更に奥から出現したのは、巨人と呼べるほどに巨大な人型。全身が鎧で覆われたそれは、隅々までが機械で構成されていた。目につくのは肩から地面にまで届く長さの、右と左の腕だ。どちらとも対とは形状が異なる。パッとの外観は、動物で言う猿類か。
「めんどくせぇモン作ってからにッ」
 モミジは踏み込みの勢いを緩めず、目標を装置手前に立ちはだかる機械人形に変更し剣を叩きつけた。人間からしては超重量の得物は、体長三メートルを持つ鉄の人型には丁度いい重さだった。ゴーレムが振り上げた鋭角のある左腕によって難なく防がれる。
 今度はこちらの番だとばかりに、ゴーレムが逆の腕を振りかぶる。人間の胴体程の太さもある丸みを持った右腕が勢いよく叩きつけられる。モミジは惜しむことなく剣を手放し離脱。七剣八刀があり、得物を無尽蔵に生み出せるから出来る判断だ。ゴーレムの腕は剣の面のみを叩くにとどまる。強度的には弱い部分ではあったが、巨大な剣が半ばからくの時に歪み、空間の片隅にまで一直線に吹き飛ばされた。
「パワーもディフェンスも上等か――――って、ちょっとまてぇッ」
 近距離攻撃が回避されると、ゴーレムがすぐに次の行動に移った。鋭角の左腕を前方に突き出すと、ガショリと腕が変形する。鋭角と鋭角の間にあった部分からパーツが展開する形でスライドし、まえよりも体積を大きくした。そして、着きだされた手の平の部分に、円形の穴が内部から突き出した。
 その奥から、熱量を持った光が一直線に放たれた。
 腕の変形を見た瞬間にその正体を看破していたお陰で、直撃は無く難なく回避。けれども、熱線の余波は凄まじく、コートの内側にあった皮膚が火傷を負った様にひりついた。
「遠距離の攻撃手段も持ってるっつーことかい」
 避けるのは難しくないが、避けるしかないのは面白くない。見れば、熱線が直撃した背後の壁がドロドロに融解している。壁の素材がなんなのかは不明だが、まともに受けたら人間など塵も残さず蒸発してそうな熱量だ。
「剣で切れなきゃ、こいつでどうだいッ」
 浮かんでいる剣を攻撃したのと同じ、雷撃の魔導器を具現。腰だめに構えてすかさず解き放つ。機械が相手なら、電気属性の攻撃は効果が高い筈だ。そんなモミジは命中する前段階で破綻する。ゴーレムは今度は右腕を前に突き出し、左と同じように開く様に展開。すると、手の平から幾何学模様を持った平面が飛び出した。それは盾としての機能を果たし、雷の閃光を防いだ。
「なッ、魔導人形(エンチャント・ゴーレム)だとッ!」
 魔導器と同じく魔晶石を核とし、魔力を燃料として稼働する機械人形。ただし、理論は出されているが教団でも実用段階には届いておらず、未だ机上の空論から出ていない兵器である。
 この世界では魔導器技術の最先端を行く白の教団ですら成功させていない戦闘仕様の魔導人形。なのに、モミジの行く手を阻む魔導人形は、聖騎士とそれに匹敵する実力の持ち主を合わせて三人を相手にしても勝ちを得た者に苦戦を強いていた。
「こいつぁちょいと本腰入れにゃならねぇかな」
 好戦的な笑みを浮かべたモミジは、ゴーレムの次なる一手を迎え撃とうと構える。ところが、又も熱線が放たれると思いきやゴーレムの動きが唐突に動きを止めた。人間で言えば、殴りかかる寸前で無理やり拳を抑え込んだような挙動だ。
 眉をひそめたモミジだが、新たな生まれた足音に理由を悟った。

 モミジが来たのとは別の場所から、一人の男が姿を現した。白いローブをまとった威厳ある壮年の男性だ。歳を重ねただけでは無く、経験を積んだ者に許される気の厚さが伝わってくるようだ。
「よくぞこの場まで来たな。反逆者コクエモミジよ」
 離れてはいるのに腹の奥に響く声だ。
「その格好…………この街の司教か」
「いかにも。私はディガル。貴様を浄化する者の名だ」
「浄化か…………浄化ねぇ…………」
 言い方はどうあれ、神聖な立場にある司教が堂々とモミジを『断罪』宣言だった。
作品名:邪剣伝説 作家名:Aya kei