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邪剣伝説

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 剣を投擲しようとしていたモミジは動作を中断し、投げかけていた剣を握り直し、迫りくるアズハスの斬撃を受け止めた。速度が圧力を増幅させ、モミジの靴底が地面を滑る。
「反射力場の使い方を知ってやがるな」
「もう油断はありません。最初から全力で相手をしてもらいますよ」
 アズハスの持つ手甲型魔導器『鏡花手』は、己を中心とした一メートル圏内に衝撃を倍増し、反射する力場を形成する能力を持つ。出来上がった力場の効果は一度きりであり、距離も短い。だが、一度であればどんな衝撃であろうとも跳ね返す。
 そして、反射の方向性は、何も外側に限った話では無い。
 数合打ち合ったアズハスは、防御が間に合わないと判断すると、トンっと軽く地面を蹴った。すると、彼の躰は弾かれる様にその場から離脱した。
地面を蹴る前に、地面と足の間に反射力場を形成したのだ。地面側にではなく己側に向けて。地面を蹴る筈の衝撃は力場に吸い込まれ、アズハスの足に増幅されて反射する。それは、数倍の威力で地面を蹴ったのと同じ効果が生まれ、素早い移動が可能になる。反射力場は、使い方を極めれば、防御だけでは無く、高速移動を可能にする汎用性の高さを秘めているのだ。
「言うだけあるねッ」
 反射力場を利用した、ヒットアンドウェイの攻め方。おそらく、これこそが本来のアズハスの戦い方なのだろう。やはり聖騎士。一筋縄ではいかない。
 そして、この場に居る敵は一人では無い。三人だ。
「グッ…………!?」
 強烈な突撃を仕掛けてくるアズハスを迎え撃とうと、モミジは剣を大きく横に薙ぎ払う。ところが、その剣はアズハスの剣に衝突する寸前に、見えない力に弾き返された。アズハスが反射力場を剣の軌道上に仕掛けたのだ。
モミジは手の中で暴れる柄を万力を込めて抑え込んだ。その衝撃は躰を伝わり足に到達、後ろ足が踏み締める地面がベコリと陥没した。もし仮に、この時剣が手から弾き飛ばされていたら、続けて迫っていたアズハスの斬撃はモミジの胴体を切り裂いていただろう。
 だが、強引すぎる力の使い方は、モミジの動きを止めるには十分だった。
「チェストォォォォォォォッッッッッ」
「んのッ」
 寸前の所で剣を上に構えれば、そこに鋭い細い刃が食い込む。風を纏い、上空で待機していたレアルが、隙を見つけるなり躍りかかってきたのだ。立て続けの猛襲に、モミジは剣を支える腕やら足やらの骨が軋むのを感じた。
攻撃は、まだ終わらない。一人目の強襲。二人目の奇襲。
そして、三人目の砲襲。
「――――ッ、ヤベぇッ」
 ハッとなり、モミジは視線を横に投げる。そこにある、真っ直ぐと向けられた銃口と眼が合った。リィンだ。
「弾丸(バレット)――『焔』」
構えた長銃の狙いをモミジに定めると、躊躇なく引き金を引き絞った。吐き出されるのは、鉛の弾丸では無く、熱量を圧縮した火球だ。
 レアルはモミジ向けて突風を放ち、その反動で場を離脱。逆にモミジは突風により地面に縫い止められ、身動きが取れない。その間にも、火球はモミジに迫る。
 手に持つ剣では防げない。
「付加効力(エンチャント)――――爆裂ッ」
 七剣八刀に魔力を注ぎ、既に出来上がっている剣の仕組みを変える。ただの鋼の塊だった剣が、魔導器の剣に生まれ変わる。回避が間に合わないと判断すると、モミジは効果を付加した剣を火球に向けて叩きつけた。
 大爆発が起こった。だが、コートの端が焦げるだけでモミジは無事だ。代わりに、剣士二人の猛攻を受け切った頑丈な剣は脆くひび割れ崩れ去った。現代風に言えば、炸裂装甲(リアクティブアーマー」)の仕組みだ。敵の砲撃が着弾した瞬間、その部位の装甲を爆発させ、衝撃を相殺する特殊装甲。モミジはこれを魔導器の『爆発』の効果で代用したのだ。
「さすがにツレぇか……だったらッ」
 すぐさま新しい剣を生み出すと、モミジは目標をリィンに向けて掛け出した。
この場で一番攻撃力を持つのは彼女の魔導器だ。カラドボルグは機巧の内部に複数の魔晶石を内蔵し、各々が別の属性を保有している。状況に応じて弾丸の属性を変えて発射するのだ。連発はできないが、最大威力が直撃すればモミジとて一溜まりもない。すぐれた魔晶細胞を持ち、豊富な魔力を得られるリィンだからこその魔導器だ。
「させるかァッ」
 即座に横からレアルが割り込み、刀を振るう。やむなくモミジは打ち合うが、レアルとは逆の方から反射力場で速度を得たアズハスが迫る。モミジは巧に剣を操りレアルの刀を下段に流す。その上から剣を被せ、更に刀の峰に足を乗せて固定。すぐさま片手を離して剣を生み出し、背後からの斬撃を寸前で防ぐ。
 前と後ろから、二方向からの攻撃にモミジの動きが完全に停止した。
「弾丸――『雷』」
そこへ、リィンの第二射が襲う。今度は激しくスパークする雷撃の弾丸だ。威力のほどは一射目と大差なし。
「付加効力――招雷ッ」
 両手の剣に雷の効果を付加し、先と同じく弾丸と相殺させる。莫大な光量と爆裂音と共に、雷撃の弾と二本の剣は同時に消滅した。
 この時、モミジの両手は空になっていた。モミジは慌てずに、新しい剣を生み出そうと魔力を練り上げる。
手中で魔力が剣となる寸前に、レアルの斬撃がモミジを襲った。
「ヅ―――ッ」
 どうにか躱すも、切先はモミジの頬を浅く切っていた。僅かな痛みに顔を顰めつつも、モミジは新しい剣を握るとレアルの躰を弾き飛ばした。
「…………もしかして」
 離れた位置から射撃に専念していたリィンは、モミジが初めて傷らしい傷を受けた場面を目に、ある仮定を想像した。
(支部での戦いでも二度、モミジ君は剣の魔導器を造った。その時と今の共通点は……)
 己の中の仮定を証明する為、リィンはカラドボルグに新たに魔力を充填した。
 新しい魔力の収束を肌で感じながら、モミジは動けずにいた。突風を纏ったレアルが刀を振るう。速度はあるが単調な攻撃を、手にする剣で受け取る。
 刀と剣が衝突した瞬間、あろうことかレアルは刃の接触点を支点に、縦方向に回転した。刃は固定したまま回転したレアルの躰は、モミジの躰に乗り上げる形で飛び上がる。風を自在に操るから出来る軽技だ。小さく意表をつかれたモミジは、背後に着地したレアルからの斬撃への対応を遅らせる。
「野郎ッ」
「だれが野郎だッ」
 振り返りざまに剣が交錯。そのまま斬撃の応酬に傾れ込む。
「私を忘れないでくれますか?」
 二つの剣の合間を縫う様に、更にアズハスも介入し、まさしく斬撃の嵐とばかりの戦いが繰り広げられる。
 そしてやはり、絶好のタイミングで、二人は離脱した。
 予想に違わず、三度目の砲撃だ。
 舌打ちをしたい気持ち成りながらも、モミジは反射的に剣を魔導器に変質させ、威力を相殺させようと振るった。それが失敗だと気が付いたのは、砲撃と剣がぶつかり合う寸前だった。
 三度目の砲撃の威力は、前の二度の半分以下にも満たなかったのだ。前段階としてリィンが魔導器に充填していた魔力に比べ、この砲撃に込められている魔力は量が少なすぎる。
 弾丸は、剣の魔導器の効果によって掻き消される。だが、弾丸の威力はまえ二つよりも傍目から分かるほどに減衰しているのに、先の二つと同じく、効果を発揮した剣は脆く崩れ去った。
作品名:邪剣伝説 作家名:Aya kei