小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

邪剣伝説

INDEX|24ページ/37ページ|

次のページ前のページ
 

 唸りを上げ、空気を薙ぎ払い、超長弩級のツルギが、振り下ろされた。もはや剣と言う機能は必要ない。その圧倒的な質量で、ただただ目標を粉砕するのみだ。建物半ばから巨大な刃が侵入すると、盛大な破壊の音と衝撃を撒き散らしながら、鋼の刀身が建物を上から下へと突き進む。
 やがて、『剣』が下段まで振り下ろされ、地面に到達する。だが勢いはそこでとどまることなく、更に地面を抉った。剣の下降が止まったのは、地表から十メートルほど地面に食い込んでからだ。その際に起こった激震は、フィアースの全域に広がり、都市を俄かに混乱させた。
「…………ふぅ。さすがにここまで質量がでかいと、ちと疲れるか」
 小さな疲労感が感じられる呟きの後、地面に深くめり込んでいた『剣』が音も立てずに消滅した。モミジは一度、巨大な『斬撃の跡』を眺めた、くるりと教団支部に背を向けた。
 そして、辛うじて形を保っていた教団支部が、跡形もなく崩壊した。
 後に、現場に居合わせ、一部始終を目撃した騎士は、こう語る。
『まるで、彼の魔王が降臨したかのような光景だった』と。
 
 事の下準備を終えたモミジは、誰に妨害される事も無く教団支部『跡地』から退散していた。あれほどの大破壊を目の前に、モミジに挑もうと考えるほどに愚か者はいなかった。颯爽と場を立ち去るモミジを、遠くから眺めるしかできなかった。
 それでも念には念を重ね、敷地を出てからは『隠匿』の効果を持つ剣を使い、追跡を防止した。
 これから成す事は、誰にも知られてはいけない。誰にも知られず、水面下の奥底で終えなければいけないのだから。目撃者はあってはならならい。
「さて、後は俺の仮定が正しい事を祈るだけだな」
 既に慣れ始めた屋根伝いの移動。『隠匿』を使いながら民家の屋根を飛び移る。その最中に、モミジは懐から一枚の紙を取り出した。昨日にリィンから調達した、変死体発見の現場を表記された地図だ。
 昨晩に渡された時とは違い、モミジはそこに更に幾つかの書き込みをしていた。四つの死体の発見現場を中心に、それぞれに『円』が表記されている。
 モミジが現在目指しているのは、その死体発見現場を中心とする四つの円。それらが全て交錯する一点。正確にはその周辺地域。
「………………ここだな」
 目的地にたどり着いたモミジは地上に降り立つ。
 そこは、開けた空間にある打ち捨てられた工事現場だった。
「おあつらえ向きな立地だな」
 外観の作りから、おそらく教団関係の建物だと推測される。これだけ大きな都市だと、中に教会が複数あってもおかしくは無い。ここもそう言った類で計画されたのだろう。
 だが、建設途中に放棄されたのだろう。さりとて解体もされず、所々に劣化の跡が見られる。放置されて一年や二年では無い。
「ってこたぁ、前段階で最低一年か…………」
 モミジの予想通りの場所であるならば、ここの建設が中止された理由も見当は付く。同時に、モミジにとっては反吐が出る様な『犠牲』が一年は出され続けていたはずだ。
「我が身は一つ。差し出せる手は二つ。なるほどね、こいつはつらいな『師匠』」
 モミジは、一人の女性を思い浮かべた。
 ――――救いたいと思ったら、救えばいいんだ。
 かつて、モミジに投げられた一言。 
「…………けど、だからといって全部を救おうとするなんて、人の所業じゃねぇ。所詮、人間が救えるのは、両手が届く範囲だけだ。それすら満足にできるとは限らねぇ。だったら、やれる範囲を力の限りにするしかねぇだろうが」
 モミジは深く息を吸い込むと、ゆっくりと吐きだした。
 そして、振り向く。
「いるんだろ? 出てこいよ」
 振り返らずに背後に向けて。誰もいない筈の空間に、だが確信を持って声を掛けた。
 グニャリと、その虚空が揺れた。そして現れたのは、三人の騎士。
 レアル、リィン、アズハス。この都市所属では無い、本部から出向した騎士達。
「…………何故気が付いた」
 開口一番にレアルがそう言った。魔力も気配も、姿も完全に消した筈だ。レアルが本気で姿を消せば、モミジにすら発見は困難であるのは、昨晩の安置室で証明済みだ。
「さっきの教団支部での戦闘に参加しなかったのが失敗だったな。あれで一手でもお前らが出してりゃ、多分気付くにはもう少し時間が掛った」
 先の大破壊の時から、違和感を覚えていた。モミジ自らが進んで姿を現したのに、この都市に存在する最も対抗戦力なり得る騎士が、あの場に居合わせなかったのだ。
絶好の機会に最大の手札を切らないのは、策がある証拠だ。
「で、何のつもりだ? ただ単純に、俺を倒したいだけなら、俺を付け回す必要はないだろう」
「では逆に聞きたい。あなたは何の目的があってこの場に訪れたのですか?」
 アズハスの問い掛け。
「いえ、違いますね。どうやらあなたは我々が追跡している事に気が付いていた。存在を感知できずとも、予測は出来ていた。なのにどうして、追跡に気が付いていたのにこの場所にまで引っ張ってきたのですか?」
「多分、周りに被害を出さないようにする為ですよ」
 モミジの代わりに答えたのは、アズハスの傍らにいるリィン。
「モミジ君は過去、教団の関連施設を幾つも襲撃してますけど、その中に一般市民の被害はとても少ない。これはたまたまじゃなくて、狙ってそうしてるんだと思います。違うかな、モミジ君」
 御名答だ、とモミジは心の中で返した。口にしないのは、それでも少なからず市民に怪我人が出ている手前、言い訳にしかならないからだ。
「なるほど。あくまで狙いは教団関連と言う事ですか。テロリストにしては随分と立派な心掛けですね」
「ですが、奴が大量破壊者である事に変わりはありません」
 レアルが腰の刀を引き抜く。
「まったくふざけている。つまり、奴がここに訪れた目的は、我々と手加減なしで、周囲に気兼ねなくやりあえるほどの広い空間が欲しかったから。なるほど、舐められたものだ」
「別に、ふざけちゃいないんだがな。町中じゃ窮屈なのは否定しないが」
「こちらとしても、市民の身を案じずに全力を出せるのは好ましい」
「おいおい、忘れたのかよ。お前さんは昨日、俺に鎖骨を叩き折られただろうが」
 既に治療系魔導器で骨は癒着し感知していたが、組織を破壊された痛覚はまだ残っている筈だ。
「ええ。悔しいながら、私ひとりではどうやらあなたには太刀打ちできない様です。ですが、今は我々です」
 昨日はアズハス一人でモミジに挑み、敗北している。
 この瞬間、モミジに挑むのはアズハス、レアル、リィンの三人だ
「彼女らの実力は、聖騎士にも及びます。聖騎士を三人同時に相手にして、あなたはその余裕を保っていられますか?」
「……………………………」
 沈黙で返すモミジ。それを肯定と受け取り、アズハスは剣を引き抜いた。
「今度こそ覚悟していただく。そして、あなたの知り得る全てを洗いざらい吐き出してもらいます」
「…………チッ、仕方がねぇッ。相手してやらぁッ」

 戦いが始まった途端、最初に飛び出したのはアズハスだった。地面を蹴り、一歩目を踏みこんでから二歩目を踏む合間に、スピードが一気にトップにまで跳ね上がった。
「おっとォッ」
作品名:邪剣伝説 作家名:Aya kei